【読】呉智英 「正しい日本語」シリーズ
今日は穏やかに晴れて、暖かい。
気温も15度まであがり、なによりも風のないのがありがたい。
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一日一冊のペースで、呉智英(くれ・ともふさ)さんの軽い読み物を二冊読んだ。
雑誌等に掲載された短い文章が集められたもので、一話が四ページほど。
すらすら読める。
私が読んだのは図書館から借りてきた単行本だが、文庫版(双葉文庫)もでている。
ところどころに、中野豪によるイラスト(ひとこま漫画風)が添えられていて、笑いを誘う。
呉智英 (くれ・ともふさ)
『ロゴスの名はロゴス』
メディアファクトリー 1999/1/15発行 221ページ
双葉文庫 2001年 219ページ
『言葉の常備薬』
双葉社 2004/10/30発行 221ページ
双葉文庫 2007年 217ページ
双葉文庫では 「正しい日本語シリーズ」 と銘打って、もう一冊でているようだ。
単行本(1994年発行)が図書館にあったので、予約しておいた。
『言葉につける薬』
双葉文庫 1998年 219ページ
呉さんいわく、「言葉(ロゴス)は論理(ロゴス)」である、と。
さまざまな日本語の誤用をとりあげて、鋭く突いている。
大新聞や大雑誌に堂々と掲載されていた文章もやり玉にあげられていて、痛快である。
もちろん、ご自身の思い違いの例もあげて、謙虚に反省している。
そのいっぽうで、呉さんは、流行語や軽薄語(若者言葉)などには寛容である。
流行り言葉はいずれ淘汰されるからだ。
いいおとな(大学者、大記者等)が得意そうに難しい言葉を使いながら、その実、使い方が間違っている場合には手厳しい。
そこが痛快だ。
■
「すべからく」 問題
これは呉さんが別の本でとりあげていたのだが、「すべからく」の間違った用法を見かけることがある。
ふつう使わない難しい言葉なのだが、これを、「すべて」「おしなべて」の意味で使う人がいる。
辞書をひけばすぐにわかるが、「すべからく」(須らく・須く)は、「すべからく~すべし」という文脈で使うもの。
私は使ったことがない、こんな難しい言葉なんて。
それを言うなら、「ぜひとも~しなければならない」だろう。
呉さんが指摘していた「すべからく」の誤用が誰のものだったかは忘れた。
■
私も何度か、著名な文筆家の文章で誤用を「発見」したことがある。
ひとりは、あの村上春樹氏。
6年ほど前、このブログに書いたことがある。
<たとえそれがどのような種類のアンソロジーであれ、アンソロジーというものはすべからくその寄って立つべきコンセプトを有している。>
― 『and Other Stories とっておきのアメリカ小説12篇』 村上春樹・柴田元幸・畑中佳樹・斎藤英治・川本三郎 訳 文藝春秋 1988年 巻頭 ―
この春樹さんの例は、ひょっとしたら
<たとえそれがどのような種類のアンソロジーであれ、アンソロジーというものはすべからくその寄って立つべきコンセプトを有すべきである。>
と言いたかったのかもしれないが、それでも収まりが悪い。
やはり、こう書くべきだろう。
「寄って立つ」も、「拠って立つ」だろう(編集経験のある、私の友人が指摘してくれた)。
<たとえそれがどのような種類のアンソロジーであれ、アンソロジーというものはすべてその拠って立つべきコンセプトを有している。>
もうひとり、最近読んだ松岡正剛氏も間違えて使っていた(『3・11を読む』)。
一冊の本で何度も見たので、そのたびに、ひかかったことを憶えている。
私は、村上春樹氏も松岡正剛氏も敬愛しているが、これはいただけない。
どちらも、「すべからく~である」 の文脈で使っているが、これは明らかな誤解・誤用。
「すべて」「おしなべて」「おおむね」と言えばよい。
■
難しい言葉を使わなくても、他にわかりやすい言い方があるのになあ……。
恰好つけようとするから、そんな間違いが起こる、という呉さんの意見に私も賛成。
そんなに目くじら立てて間違いをあげつらわず、笑って見過ごせばいいんじゃないか、という意見もある。
しかし、難しそうな言葉を使えば文章に箔がつく、という(無意識の)姿勢がいやだ。
これを「知ったかぶり」と呼ぶ。
プロの文筆家に対して失礼ではあるが。
……などと書きながら、私も、あまり人のことは言えない。
呉さんが言うように、辞書をまめに引いて確かめるようにしよう。
【参考サイト】
株式会社双葉社 | 書誌インデックス 「呉智英」
http://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookfind/?type=t&word=%E5%91%89%E6%99%BA%E8%8B%B1&btnG=%E6%A4%9C%E7%B4%A2
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