数日前から読んでいる、この本が面白い。
ノモンハン戦争(一般には、ノモンハン事件と呼ばれる――1939年・昭和14年の戦闘)について書かれているのだが、モンゴル側からの視点がめずらしい。
田中克彦 『ノモンハン戦争――モンゴルと満洲国』
岩波新書
1191 2009/6/19発行 241ページ 800円(税別)
ノモンハンという地名は関東軍が言いだしたもので、正しくは、ノモンハーニー・ブルド・オボー。
ノモンハンは「法王」、オボーは「塚」、ブルドは「水が湧きだして小さな湿地や沼ができるような場所」の意。
著者は「法王清泉塚」とでも訳したいという。(本書P.4)
ちなみに、著者は1934年生まれの言語学者・モンゴル学者。
ノモンハン戦争(これも、著者がこう呼んでいる)について国内で書かれた本は多いが、どれも、関東軍指導者・参謀(なかでも辻政信)の無謀さ、戦闘の悲惨さにばかり焦点をあてている。
この本のように、モンゴル・ソ連側の視点からとらえたものは、ほとんどない。
この戦闘にさきだち、モンゴル国内でソ連による粛清があり、多数のモンゴル人が処刑されたことなど、はじめて知った。
<……ノモンハン戦争勃発の1939年5月までに、反ソ、反革命、日本の手先との罪状で、2万5824人が有罪とされ、うち2万474人が銃殺、5103人が10年の刑、240人が10年未満の刑、7人が釈放されたという……。当時のモンゴルの人口を約70万人と見積もれば、これはおそるべき数字である。> (本書P.118)
当時の満洲国とモンゴル人民共和国とが接する国境地帯(ハルハ河付近)で、おなじモンゴル民族の人びとが混在し、それが問題を複雑にしていたようだ。
外モンゴル(モンゴル人民共和国)には、「ソ連のかいらいになることによって、からくも中国からの分離を果たし」たハルハ族がいた。
いっぽう、満洲(著者はマンジュと呼ぶ)のバルガ族は、満洲国というかたちで、同じく中国からの分離を実現していたという。
ハルハ族、バルガ族は、おなじモンゴル族の支族である。
<しかしかれらの理想はさらにその先にあった。何らかのチャンスをつかんで、ソ連を利用しいながら、最終的にソ連のくびきからも離脱することであった。> (本書P.108)
こういう背景が一般の「ノモンハン」関連本では触れられておらず、もっぱら戦闘場面ばかりが描かれている。
その意味で、この本は貴重だ。
― 岩波新書 カバー そで より ―
<1939年のノモンハン戦争は、かいらい国家満洲国とモンゴル人民共和国の国境をめぐる悲惨な戦闘の後、双方それぞれに二万人の犠牲をはらって終結した。誰のため、何のために? 第二次大戦後、満洲国は消滅して中国東北部となり、モンゴルはソ連の崩壊とともに独立をまっとうした。現在につながる民族と国家の問題に迫った最新の研究。>
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きのう、相模原の「ブ」で、こんな本を発見して入手。
760円だった。
星 亮一 『遥かなるノモンハン』
光人社 2004/12/18入手 294ページ 1,900円(税別)
また、近くの図書館からも一冊借りてみた。
伊藤桂一 『静かなノモンハン』
講談社文庫 1986/3/15発行 252ページ
巻末に、著者・伊藤桂一と司馬遼太郎の対談がある。
山ほどの資料を集めながらも、ついにノモンハンについて書かなかった(本人は書けなかったと言っている)司馬遼太郎。
最近の作家では、村上春樹がノモンハンについて書いている。
『ねじまき鳥クロニクル』 が有名だが、私はまだ読んでいない。
このふたりにとって、ノモンハンはどういう意味をもっていたのだろうか。
なんてことも、気になる。
ハルキさんの下の本も、あわせて「ブ」で購入。
こちらは310円、ほとんど新品の美本。
村上春樹 『辺境・近境』
新潮文庫 2000/6/1発行 301ページ 520円(税別)
前にいちど読んだ気もするが、手放してしまっていたもの。
「ノモンハンの鉄の墓場」という章に、ノモンハン紀行が書かれている。
ソ連軍が残置した戦車のうえでポーズをとる、ハルキさんの写真が有名。
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もう一冊、気になる本がある。
図書館には置いていなくて、入手しようか(買おうか)どうか迷っている。
この戦争に動員された、旭川の旧七師団が描かれていると思われる。
立野 茂 『ノモンハン 旭川第七師団の兵士の戦い』
文芸社 2011/10/1発行
― Amazonより ―
ノモンハン事件は昭和14年にソ満国境で展開された国境線をめぐる日ソ間の激戦であり、太平洋戦争後まで国民に知らされることのなかった日本軍大敗北の「戦争」である。著者はこの戦争に従軍した元陸軍上等兵から聞き書きをとり、当時20歳そこそこだった彼が、いかに悲惨、苛酷な体験をしたかを記録として残し、同時にこの事件に対する考察も加えたドキュメント。
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