【読】田中克彦「従軍慰安婦と靖國神社」
今日も本のはなし。
昨夜、塩見鮮一郎さんの 『ハルハ河幻想』 を読了。
構成に工夫がこらされている小説で、最後まで引き込まれるように読んだ。
ノモンハン事件(戦闘、戦争と呼ぶべきだろうが、教科書などではこう呼ばれている)に、がぜん興味がわいた。
ノモンハンといえば、高校時代の山岳部顧問の先生のことを思いだす。
片腕の肘から下がなく、義手をつけていた先生だが、ノモンハンの戦闘で失ったという噂を耳にしていた。
先生に確かめることのできないまま、だいぶん前に亡くなってしまった。
もっとも、ノモンハンの戦闘について、私はほとんど何も知らなかった。
いまだに謎の多い戦闘。
ある人のウェブサイトで知り、ネット注文してあった本を、今日、書店で受けとってきた。
田中克彦 『ノモンハン戦争――モンゴルと満洲国』
岩波新書 1191 2009/6/19発行 241ページ 800円(税別)
― Amazonより ―
内容
一九三九年のノモンハン戦争は、かいらい国家満洲国とモンゴル人民共和国の国境をめぐる悲惨な戦闘の後、双方それぞれに二万人の犠牲をはらって終結した。誰のため、何のために?第二次大戦後、満洲国は消滅して中国東北部となり、モンゴルはソ連の崩壊とともに独立をまっとうした。現在につながる民族と国家の問題に迫った最新の研究。
著者略歴
田中/克彦
1934年兵庫県に生まれる。1963年一橋大学大学院社会学研究科修了。現在、一橋大学名誉教授。専攻は言語学、モンゴル学。
この著者のことを、私はまったく知らなかった。
有名な言語学者らしい。
市内の図書館の蔵書を調べてみると、たくさん著作があったので、一冊借りてきて読みはじめた。
田中克彦 『従軍慰安婦と靖國神社 一言語学者の随想』
KADOKAWA 2014/8/24発行 175ページ 1,300円(税別)
― Amazonより ―
内容紹介
日本の文化を政治問題にすべきじゃないんだ! 戦後69年経っても、解決の糸口すら見えない「従軍慰安婦」問題と「靖国神社」問題。日本人にとっては避けて通れないこの二つの問題に、闘う言語学者・田中克彦80歳が正面から向き合いました。
この二つの問題を並べるなんて! と批判する人も多いでしょう。
しかし田中は、この二つの問題の根底には「日本文化の問題」があるのだから、決して政治問題化すべきでないと説き、田中克彦ならではのエスプリの効いた論を展開しています。
田中自身、戦中の疎開や戦後の教科書の墨塗りを経験した世代であるため、終戦を境に日本社会がどのように変わっていったかを肌で知っています。だからこそ、二つの問題を“歴史認識問題"と捉える現在の社会風潮が我慢ならないといいます。
そこで、あくまでも“ココロの問題"としてこの二つの問題を捉え直し、「言いたいことが言えない世の中はおかしい!」と、ココロの趣くままに彼の気持を書きつづっています。
まえがきには、「ぼくはおそらく、求められるところの<歴史認識>をはなはだしく欠く不勉強な大衆の一人であり、その上、歴史学とはいくつかの点で対立するか、あるいはかなり異なるものの見方をする言語学の影響を受けているために、本書はいくぶん異常な内容になるかもしれない。とはいえ、やはり黙って世間に同意しているかのように見られるのも居心地が悪い」と書いているよう、ほかに類書がない内容です。
副題に「一言語学者の随想」とあるように、田中克彦初めてのエッセイ本です。
副題からわかるように、エッセイなのだが、従軍慰安婦と靖国神社について、本質を衝いて語っていると思う。
本の前半、従軍慰安婦について書かれた部分を読み終えたところ。
あとがきに書かれていることが面白い。
出版社がこの本の表紙に使う写真を、靖国神社を背景に撮ろうということで、神社に撮影申請したそうだ。
神社から断られた理由が、「神聖なほこらの名と、慰安婦とを同居させたような書名の本に写真を使われるのは困るといったような趣旨だったらしい」。 (P.174)
<ぼくはまたしても慰安婦たちが気の毒になった。皇軍のために、最もやりにくい仕事で協力しながら、こんな扱いをうけるとは。じつはこの本を書きあげたあと、せっかくの原稿だが、本にするのはやっぱりやめた方がいいかなという気持が少しはたらいたけれども、この話をきいて、ぼくの決意は固いものとなった。やっぱり、慰安婦になってくれた朝鮮のおねえさんたちに、日本人として、わび、感謝しなければならないと。>
(P.175 重ねてのあとがき)
デリケートな問題ではあるが、この本で著者が言っていることは、まっとうだと思う。
「慰安婦」はなかった(いなかった)と言い張ることのウソを、ずばり指摘する。
(どう考えても、日本軍の「慰安」施設・組織がなかったはずがない、と常識でわかる)
「慰安婦像」についても、あれは韓国人の日本憎悪の気持の深さを示している、という。
そこを考えないといけない。
「日本海」と「東海(トンヘ)」の呼称の、言語学的な比較も面白かった。
後半、靖国神社について、どう語っているのだろうか。
楽しみだ。
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