【雑】モンゴル
今場所の大相撲は面白かった。
千秋楽まで優勝の行方がわからず、どうなることかと、取り組みから目がはなせない毎日だった。
白鵬の調子がいまひとつだったようで、関脇の照ノ富士が優勝を決めた。
心からうれしそうな表情が印象的だった。
次の場所に大関になることがほぼ確定し、今後が楽しみな力士だ。
大相撲ではモンゴル出身力士の活躍がめざましい。
白鵬にしても照ノ富士にしても、稽古熱心で、まじめで好感がもてる。
日馬富士も好きな力士のひとりだ。
いまひとつ伸びないが、逸ノ城という逸材もいる。
彼らの強さは、モンゴル人の国民性にあるような気がする。
照ノ富士の優勝インタビューでも感じたことだが、モンゴルの人は母親をことに大切にするらしい。
そんな話が、今日読み終えた本にも書かれていた。
■
田中克彦 『ノモンハン戦争――モンゴルと満洲国』
岩波新書
1191 2009/6/19発行 241ページ 800円(税別)
いい本だと思う。
あとがきに、いい話が載っている。
著者は、ほんとうにモンゴルが好きなのだな、と感じた。
司馬遼太郎が生前、著者の田中さんに、モンゴル(ノモンハン)に関して取材したいと申し出たことがあったそうだ。
田中さんは、1969年にウランバートルを訪れた際、そこで戦勝三十周年が祝われているのを見て、初めてこの戦争(ノモンハン戦争)について考えるようになり、そのことを『世界』に書いたのを、司馬さんが注目したらしい。
ところが、司馬さん自身ではなく、「使い」の人がテープレコーダーを持って取材にきた。
<……夏の暑い日に、大阪から中年の男の人がやってきて、じつは司馬遼太郎先生の使いの者だが、先生が、あなたからぜひノモンハンについてうかがってこいとおっしゃって、こうして来ておりますと言って、私の前にテープレコーダーのマイクを置いたのである。>
<しかし私は即座に取材をお断りした。私に聞きたいことがあれば司馬さんが自分でやってくればいいじゃないですか。私はマイクに向かってなんかしゃべりたくない。私たち研究者だったら、調べたいことがあれば、いつでも自分で出かけていくのがふつうですとお答えした。> (P.236)
田中さんにすれば失礼な話で、そののきもちもよくわかるが、ちょっと依怙地な気もする。
その後、司馬さんに会う機会もあったそうだが、ついに打ちとけることができなかったそうだ。
いい話というのは、この後のこと。
あとがきの最後に書かれている。
この本を書いたことで、ほっとしたのだろう。
<……今年はあれからすでに70年、あの戦争から生きて還ってきた兵士のすべてがもう90歳を超えているし、何よりも、私自身が、とても若いとは言えない年齢に達してしまった。
そこで思い切って書いてみたのがこの本である。そして今思う。今だったら、この本を持って晴れ晴れと司馬さんの前に現れて、これまでの無礼を詫びたうえで、ノモンハンはこんなだったんですよと、ちょっと自慢して話ができたであろうのにと。そしてさらに思う。あのmongolophile(モンゴロフィール:モンゴル好き)の司馬さんならではこその、目のさめるような『ノモンハン』を書いてくださったにちがいないと。> (P.239)
いい話だ。
あとがきには、著者が20年ほど前にノモンハン戦争の戦場を訪ねる旅行団の一行に加わったときのエピソードも書かれている。
その内容は省略するが、著者の人がらが感じられる文章だ。
■
最終章(第10章 「誰がこの戦争を望んだか」)では、悪名高い当時の関東軍参謀・辻政信少佐への憤懣をぶちまけている。
敗戦後も逃げて生き残り、戦犯になることもなく、とうとう国会議員にまでなった辻政信とは、そうとうひどい人物だったようだ。
広くそのような評価を受けているのは当然と、私も思う。
すこし長くなるが、著者の言を引用してみる。
<辻政信――この人は並でない功名心と自己陶酔的な冒険心を満足させるために、せいいっぱい軍隊を利用した。そうして戦争が終わって軍隊がなくなると、日本を利用し、日本を食いものにして生きてきたのである。
私たちが、占領軍としてではなく、日本人として裁かなければならないのは、このような人物である。このような人物は、過去の歴史の中で消えてしまったわけでは決してない。今もなお日本文化の本質的要素として、政界、経済界のみならず、学会の中にまで巣くっているのである。> (P.231)
極東軍事裁判は戦勝国による一方的な裁判だった……云々と、あれこれ言うのなら、何故、日本人の手で、あの戦争の指導者の責任を追及して裁かないのか――と、私も言いたい。
そういう厳しさを私たち日本人は持ちあわせていないのだろう、きっと。
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