【雑】池澤夏樹さんの静かな覚悟
きのう、小平図書館友の会の会合があった。
いつも、朝日新聞夕刊の切抜きを持ってきてくださる方がいて、池澤夏樹さんの連載コラムを二か月分くださった。
私は朝日新聞を購読していないので、ありがたい。
2015/10/5 朝日新聞夕刊
池澤夏樹 「終わりと始まり」
難民としての我らと彼ら 開国の時期ではないか
冒頭の一節が、いかにも池澤さんらしく、いい。
<安保関連法が成立した。
(中略)
賛成票を投じた議員のみなさん。
政府の説明が論理に沿って充分なものであったと思われての賛成なら、あなたは論理的思考能力に欠ける。
充分でないと知って賛成したのなら、あなたは倫理的思考能力に欠ける。
どちらかに○をつけてください。
次回の選挙の参考にします。>
池澤さんは、国会議事堂前のデモの中に身を置いていたそうだ。
知らなかった。
<九月半ば、国会議事堂前のデモの中に身を置いて、みなの勇壮活発でどこか悲壮なシュプレヒコールに伍しているうちに、自分たちは日本国憲法から追放されて難民になるのだと覚った。
この国の国土が戦場に直結する時、非戦・平和に固執する民の居所はなくなる。
これからは臥薪嘗胆の覚悟で失地回復・捲土重来に力を注がなければならない。(こういう話になると漢語が増えて肩に力が入る。もっとしなやかに考えて、したたかに動かなければ)。>
声高に「正義」を語らず、静かに熟考し、行動する。
池澤さんから、いつも学ぶことが多い。
「しなやかに考えて、したたかに動く」 ――肝に銘じたい。
池澤夏樹 『終わりと始まり』 朝日文庫 2015/7/7発行
― Amazonより ―
内容紹介
常に動き続ける遊撃的な作家が、2008年から2013年まで朝日新聞本紙に毎月書いてきた名コラムの単行本化。
土地の名や戦争の名はどのようにつけられるか。
ミュージカル映画「キャバレー」の一場面で、その老人はなぜ歌わないのか。
私たちはデジタル化によって、またテクノロジーの発展によって何を失ったのか。
連載開始の3年後にやって来た3.11の震災と原発崩壊。はじめはみんな泣いた。
作家は仙台に住む高齢の叔母夫婦のもとへかけつけ、被災地に幾度となく足を運び、考え続けた。
天災は避けられないが人災は避けることができる。
核エネルギーは原理的に人間の手におえるものではない。
原発が生み出す放射性物質を永久に保管するのは不可能だ。
東電の言動は、かつての水俣のチッソの言動と重なっていないか。
戦後の日本は原発を経済繁栄の道具としてきたけれど、
それは「間違いだらけの電力選び」だった。
その一方、東北にはこれからの日本を照らす人々がいる。
たとえば、悲惨な思いをしてきた人々が集まって一緒に何かをするための陸前高田の「みんなの家」造りに関わった現地の人。
るいは平日は勤めながら、週末は、無人家屋の泥出しや放置された納屋の整備、土木や電気工事など、肉体系のボランティアに当てる女性たち。
使命感や義務感を言わず、高邁な理想や隣人愛などを理由にすることもなくさりげなく黙って働く人々。
彼らもまた日本の「人的埋蔵資源」なのではないか。
原子力、沖縄、水俣、イラク戦争の問題を長年問い続け、
東北の被災地に立って深い思索を重ねた作家の、廉直な名コラム48本。文庫版
●目次から
イラク戦争の後始末
言葉の生活感
デジタル化で失ったもの
「最小不幸」の原理
多神教とエコロジー
国のサイズと世界の安定
風と太陽、波と潮と地熱
幸福なギリシャ
ピナ・バウシュによる育成
原発が停止する日
水俣病に「解決」はない
幸福の島の未来
復旧と復興の違い
人的埋蔵資源
沖縄、根拠なき負担 など
あとがき
解説:田中優子
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