【読】イザベラ・バード『日本奥地紀行』を読む
昨年末から少しずつ読みすすめている。
イザベラ・バード 『完訳 日本奥地紀行』(全4巻)
金坂清則 訳注 平凡社東洋文庫 (2012年)
一冊が3000円もする本なので、図書館から借りている。
<イザベラ・バードの明治日本への旅の真実に鋭く迫る初版からの完訳決定版。正確を期した翻訳と丹念な調査に基づく巨細を究めた徹底的な注で、初めてわかる諸発見多数。>
(Amazonより)
「完訳」とうたっているのは、これまで日本で出版されてきたこの紀行の翻訳書が、どれも不完全なものだったという、訳者(金坂清則氏)の主張による。
19世紀の終わりにイギリスで出版された原著には3種類あり、簡略版(ダイジェスト版)を翻訳した高梨健吉訳『日本奥地紀行』(平凡社東洋文庫、のち平凡社ライブラリー)が広く読まれてきた。
私も、この紀行を最初に知ったのは高梨版だが、いかんせん、原著初版本(2分冊)からそうとうにカットされた部分が多い簡略版の訳本だった。
この翻訳書によって、バードの旅じたいが長いあいだ誤解を受け続けてきた、という金坂氏の指摘は、いちいちもっともなものだった。
『イザベラ・バードと日本の旅』(金坂清則著、平凡社新書、2014年)には、長年、バード研究を続けてきた金坂氏の見解が詳しく書かれていて、勉強になった。
また、「原典初版本に基づく、新訳による完全版」と銘打った、時岡敬子氏の訳 『イザベラ・バードの日本紀行(上・下)』(講談社学術文庫、2008年)に対しても、金坂氏は手厳しい批判をくわえている。
これは私も購入して手元にあり、まだ読んでいなかったが、この機会にすこし開いてみた。
たしかに、直訳調が気になり、日本が舞台なのに意味不明が訳が目立つ。
金坂氏の東洋文庫版(完訳)は、過剰なほどの訳注があり、バードの記述(英語)をできるだけ日本語(の名称・表現)に訳そうとする姿勢がうかがわれる。
今読んでいる箇所を例にとると、「第十九報 仏教」(これまで、第何信と訳されていたものを金坂氏は第何報」としている)。
バードが新潟の寺で目にした光景の描写の一部を比べてみる。
(時岡訳)
・・・「永遠なる仏陀よ、救いたまえ」と低く唱える祈りの文句が大きな波音のように寺院内に広がり、こうしてさらに二時間集会礼拝はつづけられました。・・・
(金坂訳)
・・・集まっている人々[会衆]が口々に「南無阿弥陀仏(エターナル・ブッダ・セイブ)」と呟く低い声がいくつもの水の流れのごとくにお堂の中を流れた。そのあとは勤行が二時間にわたって続いた。・・・
ちなみに、「南無阿弥陀仏」と訳されている部分の原文は、"Eternal Buddha, save"であり、これを「南無阿弥陀仏」と訳した理由を、金坂氏は訳注で詳しく述べていて、納得できる。
きりがないのでこれぐらいにしておくが、イザベラ・バードの観察の鋭さが、金坂氏のていねいな訳によって伝わってくる。
彼女(バード)の、植物に関する知見はそうとうなものだ。
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