【読】2021年9月に読んだ本(読書メーター)
9月の読書メーター
読んだ本の数:17
読んだページ数:5098
ナイス数:148青春の門(第二部)自立篇(講談社文庫)の感想
主人公・信介が筑豊から上京。作家の青春時代(早稲田大学在籍時)の実体験が仄見える気がする。売血やら赤線やら、戦後の風俗が興味ぶかい。貧乏だが、大学生活で何をしたいのか定まらない、どこか能天気な信介の言動に、ちょっとイライラしながらも、次々と巻き起こる事件に目が離せない。信介と兄妹のような心の交流が感じられる織江の行方が気になり、自作の第三部放浪篇へ続く。この巻でいったん中断しようと思っていたが、止まらなくなりそうだ。図書館から次の2巻を借りてきた。
読了日:09月02日 著者:五木 寛之
青春の門 第三部 放浪篇 【五木寛之ノベリスク】 (講談社文庫)の感想
大河小説の第三部。青函連絡船(私には懐かしい)で北海道に渡る信介たち一行。洞爺丸事故の翌年と書かれているので、昭和30年(1955年)頃の時代の空気が濃厚。函館でドラマチックな展開があり、挫折を味わって札幌へ。札幌の街の描写にもなにやら懐かしさを感じる。織江との再会にホッとした。尻の青い演劇青年たちの行動に鼻白むところもあるのだが、函館の食堂の娘トミちゃんや織江のような、地に足の着いた登場人物たちに救われる思いがする。それにしても信介の性の悩みには苦笑(作者の狙いなのだろうが)。続編も楽しみだ。
読了日:09月04日 著者:五木寛之
もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら (宝島SUGOI文庫)の感想
文体模写というアイディアは面白いが、いまひとつ。何も考えずに暇つぶしに読むにはいいかもしれない。ちょっと笑える部分もある。図書館本。
読了日:09月05日 著者:神田桂一,菊池良
青春の門(第四部)堕落篇(講談社文庫)の感想
大河小説の第四部。第一部から通読してきて、いよいよ面白くなってきた。この『堕落篇』では、北海道から東京に戻ってきた主人公・信介が、学生運動に足を踏み入れたものの、内ゲバもどきの凄惨な事件に巻き込まれて失望し、新宿二丁目の闇の世界に、まさに”堕ちて”いく、その絶望感が伝わってくる。物語としてちょっと出来過ぎの感もあるが(暴力事件からの危機脱出)、1950年代の社会状況、風俗が生々しくよみがえってくる。信介や彼を取り巻く人物たちがどうなるのだろうか、と、期待を持たせるところで終わっている。続巻第五部に期待。
読了日:09月06日 著者:五木 寛之
白夜の旅人 五木寛之の感想
たまたま図書館でみつけた本。1939年生まれの著者が1972年に大成出版から刊行した同名の本に一部加筆、訂正。五木寛之が鮮烈なデビューを果たした後、最初の旧筆にはいった時期(1972年)までの足跡をたんねんに追っている。著者は「週間読書人」編集長の経歴をもつ。取材で得たエピソード、五木さんのエッセイや対談、新聞・雑誌記事など、膨大な資料を元に、五木寛之という類いまれな作家の姿を描いている。五木さんの朝鮮半島での体験、早稲田大学での学生時代とその後、金沢への隠遁といったあたりの経緯が詳しく書かれ、興味深い。
読了日:09月07日 著者:植田 康夫
青春の門(第五部)望郷篇(講談社文庫)の感想
大河小説の第五部。「望郷篇」とあるように、主人公の伊吹信介が故郷に帰り、恩人(塙竜五郎)の死に立ち会う。故郷での信介の体験には”任侠”の世界の匂いが濃厚。信介のその後の再上京、さまざまなドラマチックな展開が胸躍らせる。この巻では信介を取り巻く織江、カオル、石井といった人物がクローズアップされていて、物語の幅が広がっているように感じる。青春の彷徨を続けてきた信介に大きな転機がおとずれて、続巻がますます楽しみだ。次巻・再起篇で、信介の”再起”やいかに?
読了日:09月09日 著者:五木 寛之
青春の門 第六部 再起篇 【五木寛之ノベリスク】 (講談社文庫)の感想
勢いづいて第六部まで読んでしまった。次々と巻き起こる事件に、ついつい”この後どうなるのだろう”と期待させる物語の展開は、さすが。文庫版「改訂新版」六巻目にして、はじめて解説(高橋康雄)が付いていた。
読了日:09月10日 著者:五木寛之
誰が日本のコロナ禍を悪化させたのか? (扶桑社BOOKS)の感想
2021年7月に執筆校了、8月末に出版された本書。図書館に収蔵されていなかったのでリクエストして購入してもらった。執筆時は、ちょうど”第5波”の入口で、さまざまな言説がいまだに飛び交っている(ネット、マスコミで)。著者の視点は科学的で(信頼できる統計や論文、報道を精査)、きわめて冷静。”専門家”連中や厚労省の”トンデモ説”、”トンデモ政策”を厳しく糾弾している。今や定説になった”空気感染”に対するマスクの効果的な使用、ワクチンの種類、PCR検査の信頼度、など、おおいに勉強になった。数ある類書の中の良書。
読了日:09月12日 著者:牧田 寛
むずかしい天皇制の感想
大澤真幸の著作は初めてだが、とても面白く、刺激的。憲法学者木村草太との対談。ほとんど大澤社会学・日本史分析が占めていて、法律学者としての木村氏がときどき見解を挟む。天皇制が現行憲法にしっかり記述されているわりには、どういうものなの?と考えてみると、とても曖昧。”象徴”って何?不思議であり、この本のタイトルどおり”むずかしい”のだ。”空気の空気”(メタ空気)という捉え方が面白い。ただ、大澤さんの難しいカタカナ語には閉口(その都度、検索して勉強にはなったが)。皇室の先行きが怪しくなっている今、タイムリーな本。
読了日:09月14日 著者:大澤真幸,木村草太
青春の門 第七部 挑戦篇 【五木寛之ノベリスク】 (講談社文庫)の感想
第六部再起篇から13年のブランクの後、刊行された第七部。北海道の江差と函館を舞台に、信介を取り巻く世界が大きく変わる。冒頭から小説の語り口も大きく変わった気がする。エスペラントや北方領土についての解説じみた記述が多く、あれ?という感じもする(それはそれで面白く勉強になるが)。第六部で残された謎(織江の新曲、謎の作曲者)が放置されたままなのも、ちょっと不満。あらたな物語を展開させたい思いが、長いブランクを経て五木氏に生じたのだろうか。とはいえ、この第七部は国際的な物語の展開を予感させ、続編の第八部が楽しみ。
読了日:09月15日 著者:五木寛之
青春の門 第八部 風雲篇 【五木寛之ノベリスク】 (講談社文庫)の感想
ついにソ連に渡った信介たち一行。ハバロフスクでの活劇。1960年代初頭のソ連の複雑な事情(信介たちの渡航も密航)。先の戦争後、シベリアに抑留された多くの日本人。けっして一枚岩ではなかった大国・ソ連の国内事情。93年7月から94年4月まで週刊現代に連載された本作は、古さを感じさせない躍動感あふれる内容だった。続編・第九部がますます楽しみ。この文庫版の解説(山内亮史=旭川大学学長=当時)が、解説としては珍しく読ませる。五木さんの盟友・川崎彰彦氏が登場人物・西沢洋平のモデルだったのでは、という指摘が興味ぶかい。
読了日:09月17日 著者:五木寛之
食べものから学ぶ世界史: 人も自然も壊さない経済とは? (岩波ジュニア新書 937)の感想
新聞書評(2021.9.4東京新聞)で知り、図書館から借りてきた。岩波ジュニア新書。わかりやすい記述。産業革命後の世界、明治以降の日本の食料から見た歴史、私たちがあたりまえにスーパーやコンビニで買って消費している食べものの由来を知る。”経済成長・発展”といった言葉に惑わされることなく、現代の世界的食料事情、生産と消費、貿易のからくりに目を向けさせてくれた。参考図書としてあげられている本(『砂糖の世界史』『テブの帝国』『中国のブタが世界を動かす』『世界の半分が飢えるのはなぜ?』等)も興味深く、読んでみたい。
読了日:09月19日 著者:平賀 緑
新 青春の門 第九部 漂流篇の感想
大河小説の既刊最終巻。第一部から通して読了。シベリアでの信介の物語(ロマノフ王朝の幻の財宝の謎がからむ)と、日本の織江の物語(なんと『艷歌』『海峡物語』の高円寺竜三が登場)が交互に繰り広げられる。スリリングでスケールの大きな展開。有名な”織江の唄”(五木寛之作詞・山崎ハコ作曲)が牧織江の作詞として出てきたのには驚いた。何年何月と時代設定が明示されているため、1961年頃の状況がリアルに浮かび上がる。シベリアで知り合った”ドクトル”といっしょに日本に戻る信介。最終巻(未刊行)での展開に期待が広がる。
読了日:09月20日 著者:五木 寛之
蒼ざめた馬を見よ (1972年) (五木寛之作品集〈1〉)の感想
デビュー後6年(1972年)という早い時期に刊行された作品集の第1巻。発売当時に買い揃えて全巻持っていたのだが、手放してしまったのが残念。この巻だけは、その後、古本を購入して持っていた。五木さんのデビュー作「さらばモスクワ愚連隊」、直木賞受賞作「蒼ざめた馬を見よ」は、今、読み返してみても新鮮。巻末解説(五木さんと親しかった川崎彰彦氏による)も、なかなかいい。
読了日:09月23日 著者:五木 寛之
霧のカレリア (1972年) (五木寛之作品集〈2〉)の感想
「GIブルース」を再読したくなって図書館から借りてきた。五木寛之の初期作品集。「GIブルース」は「蒼ざめた馬を見よ」と同時に直木賞候補にあげられただけあって、さすがの面白さ。他には「霧のカレリア」「夜の斧」(シベリア抑留体験者の怖い話)、「夜の世界」(車の運転が好きだった著者らしい作品)が面白かった。デビュー後数年にわたる五木さんの創作意欲に感心する。ただ、この作品集は活字が小さすぎて老眼にはつらかった。
読了日:09月25日 著者:五木 寛之
作家のおしごとの感想
2019年2月刊行。五木さんの50年にわたる作家生活の小説以外の”おしごと”の数々(対談、作詞、解説や月報への寄稿、インタビュー、コラム、自著へのあとがき、講演、紀行文など)を採録。それぞれに書き下ろしならぬ”語り下ろし”が添えられている。気合のはいった一冊だ。1983年の村上春樹さんとの”幻の対談”が面白いが、これは『風の対話』(1986年単行本、1994年河出文庫)に収録。デビュー間もない村上さんの五木さんへのリスペクトが感じられる。自著への解説文を許さない(?)村上さんがよく収録を許可したものだ。
読了日:09月26日 著者:五木 寛之
移民の宴 日本に移り住んだ外国人の不思議な食生活 (講談社文庫)の感想
東日本大震災を挟んだ時期に取材したルポ(2012年11月単行本刊行)。高野さんのあたたかいまなざしが感じられて、とても後味のいい本だった。高野さんの人徳だろう。”移民”という言葉には、さまざまなイメージが付着していて微妙なのだが(この言葉を嫌う外国人もいるという)、高野さんの意図するところは”日本に移り住んだ外国人”を指す言葉として、これしかないとのこと(第5章P.155-の「付記」)。高野さんのスーダン出身の盲目の友人・アブディンさんの話が、いい。彼が書いた『わが盲想』を読んでみようと思う。
読了日:09月30日 著者:高野秀行
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