【読】桐野夏生 萌え!
現代日本の流行作家を熱心に追いかけているわけではないので、知らない作家は数多い。
図書館や書店で名前をよく見る現代作家でも、読んだことのない作家がほとんど。
あたりまえといえば、あたりまえだ。
そんななか、桐野夏生という多作で魅力的な作家に出会えたことは、貴重な読書体験といえる。
私の肌に合う作家だった。
最初に読んだのは『柔らかな頬』(直木賞受賞作)。
これにはショックを受けた。
読んだのはつい最近、昨年2021年3月。
それから1年ちょっとのあいだに、かなりたくさんの作品を読み続けている。
まさに、桐野夏生”萌え”である(※)。
※萌え(もえ)とは、日本のサブカルチャーにおけるスラングで、主にアニメ・ゲーム・アイドルなどにおける、キャラクター・人物などへの強い愛着心・情熱・欲望などの気持ちをいう俗語。意味についての確かな定義はなく、対象に対して抱くさまざまな好意の感情を表す。(Wikipedia)
”萌え”と表現するのはいかがなものか、という気もするが、桐野さんには『魂萌え』という小説もあるので、なんとなく使ってみた。
◆桐野夏生作品リスト◆
あまりにもたくさんあるので、備忘録として、下に掲げるリストを作っている。
読み終えたもの、これから読むもの、手元にないもの、がわかるようにしている。
さすがに、初期の「ロマンス小説」群は入手困難ということもあって読んでいない。
文庫はブックオフで購入して、読み終えた本は、どんどんブックオフに持って行っている。
ほんとうは、新刊書店で購入して著者の印税収入に貢献しないといけない、と思うのだが。
文庫化されていない近作は、単行本を図書館から借りたり(予約待ち行列が長い)、待ちきれなくて自腹で買ったものもある。
【2022/5/19現在】 〇持っていて未読 ●読了 ▲読了(図書館本)
・ファイアボール・ブルース―逃亡(1995年1月 集英社)
【改題】ファイアボール・ブルース(1998年5月 文春文庫)
●OUT(1997年7月 講談社 / 2002年6月 講談社文庫【上・下】) ※第51回日本推理作家協会賞受賞作
●錆びる心(1997年11月 文藝春秋 / 2000年11月 文春文庫 / 2006年1月 大活字文庫【上・下】)
[所収作品:虫卵の配列 / 羊歯の庭 / ジェイソン / 月下の楽園 / ネオン / 錆びる心]
●ジオラマ(1998年11月 新潮社 / 2001年10月 新潮文庫)
所収作品:デッドガール / 六月の花嫁 / 蜘蛛の巣 / 井戸川さんについて / 捩れた天国 / 黒い犬 / 蛇つかい / ジオラマ / 夜の砂
●柔らかな頬(1999年4月 講談社 / 2004年12月 文春文庫【上・下】)
※1999年第121回直木三十五賞受賞作
●光源(2000年9月 文藝春秋 / 2003年10月 文春文庫)
▲玉蘭(2001年3月 朝日新聞出版 / 2004年2月 朝日文庫 / 2005年6月 文春文庫)
・ファイアボール・ブルース2(2001年8月 文春文庫)
▲リアルワールド(2003年2月 集英社 / 2006年2月 集英社文庫)
〇グロテスク(2003年6月 文藝春秋 / 2006年9月 文春文庫【上・下】)
●残虐記(2004年2月 新潮社 / 2007年8月 新潮文庫)- 週刊アスキー連載。連載時タイトルは「アガルタ」。桃源郷としての「アガルタ」を全く知らないままタイトルとして採用したとのこと
〇I'm sorry, mama(2004年11月 集英社 / 2007年11月 集英社文庫)
〇魂萌え!(2005年4月 毎日新聞社 / 2006年12月 新潮文庫【上・下】)
▲冒険の国(2005年10月 新潮文庫) ※東大和市立図書館 3/26- (文庫)
●アンボス・ムンドス(2005年10月 文藝春秋 / 2008年11月 文春文庫)
[所収作品:植林 / ルビー / 怪物たちの夜会 / 愛ランド / 浮島の森 / 毒童 / アンボス・ムンドス]
〇メタボラ(2007年5月 朝日新聞社 / 2010年7月 朝日文庫【上・下】 / 2011年8月 文春文庫)
●東京島(2008年5月 新潮社 / 2010年5月 新潮文庫)
●女神記(2008年11月 角川書店 / 2011年11月 角川文庫)
〇IN(2009年5月 集英社 / 2012年5月 集英社文庫)
●ナニカアル(2010年2月 新潮社 / 2012年10月 新潮文庫)
〇優しいおとな(2010年9月 中央公論新社 / 2013年8月 中公文庫)
▲ポリティコン(2011年2月 文藝春秋【上・下】 / 2014年2月 文春文庫【上・下】)
〇緑の毒(2011年8月 角川書店 / 2014年9月 角川文庫)
〇ハピネス(2013年2月 光文社 / 2016年2月 光文社文庫)
●だから荒野(2013年10月 毎日新聞社 / 2016年11月 文春文庫)
〇夜また夜の深い夜(2014年10月 幻冬舎 / 2017年10月 幻冬舎文庫)
▲奴隷小説(2015年1月 文藝春秋 / 2017年12月 文春文庫)
[所収作品:雀 / 泥 / 神様男 / REAL / ただセックスがしたいだけ / 告白 / 山羊の目は空を青く映すか Do Goats See the Sky as Blue?]
〇抱く女(2015年6月 新潮社 / 2018年8月 新潮文庫)
●バラカ(2016年3月 集英社 / 2019年2月 集英社文庫【上・下】)
〇猿の見る夢(2016年8月 講談社 / 2019年7月 講談社文庫)
●夜の谷を行く(2017年3月 文藝春秋 / 2020年3月 文春文庫)
〇デンジャラス(2017年6月 中央公論新社 / 2020年6月 中公文庫)
〇路上のX(2018年2月 朝日新聞出版 / 2021年2月 朝日文庫)
〇ロンリネス(2018年6月 光文社 / 2021年8月 光文社文庫)
▲とめどなく囁く(2019年3月 幻冬舎)
●日没(2020年9月 岩波書店)
●インドラネット(2021年5月 KADOKAWA)
●砂に埋もれる犬(2021年10月 朝日新聞出版)
・燕は戻ってこない(2022年3月4日 集英社)
【小説 村野ミロシリーズ】
▲顔に降りかかる雨(1993年9月 講談社 / 1996年7月 講談社文庫 / 2017年6月 講談社文庫【新装版】)
▲天使に見捨てられた夜(1994年6月 講談社 / 1997年6月 講談社文庫 / 2017年7月 講談社文庫【新装版】)
●水の眠り灰の夢(1995年10月 文藝春秋 / 1998年10月 文春文庫 / 2016年4月 文春文庫【新装版】)
●ローズガーデン(2000年6月 講談社 / 2003年6月 講談社文庫 / 2017年8月 講談社文庫【新装版】)
[収録作品:ローズガーデン / 漂う魂 / 独りにしないで / 愛のトンネル]
▲ダーク(2002年10月 講談社 / 2006年4月 講談社文庫【上・下】)
【ロマンス小説】
・愛のゆくえ(1984年12月 サンリオニューロマンス)
・熱い水のような砂(1986年2月 サンリオニューロマンス)
・真昼のレイン(1986年7月 サンリオニューロマンス)
・夏への扉(1988年1月 双葉社) ※桐野夏子名義
・夢の中のあなた(1989年3月 双葉社) ※桐野夏子名義
・ジュニア小説(野原野枝実名義)
・恋したら危機!(1989年8月 MOE文庫)
・あいつがフィアンセだ!(1989年8月 MOE文庫)
・小麦色のメモリー(1989年8月 MOE文庫)
・トパーズ色のband伝説(1989年10月 MOE文庫)
・恋したら危機! パート2(1989年12月 MOE文庫)
・媚薬(1990年3月 MOE文庫)
・恋したら危機! パート3(1990年5月 MOE文庫)
・急がないと夏が… プールサイドファンタジー(1990年7月 MOE文庫)
・セントメリークラブ物語1 セントメリーのお茶会にどうぞ(1990年10月 MOE文庫)
・セントメリークラブ物語2 銀の指輪は冷たく輝く(1991年1月 MOE文庫)
・ガベージハウス、ただいま5人(1991年3月 コバルト文庫)
・涙のミルフィーユボーイ(1992年1月 コバルト文庫)
・ルームメイト薫くん 1-3(1993年-94年 偕成社)
【エッセイ集】
●蛇教異端審問(2005年1月 文藝春秋 / 2008年1月 文春文庫) - エッセイ集
〇The cool!桐野夏生スペシャル(2005年9月 小説新潮別冊 - Shincho mook)- 書き下ろし作「朋萌え!」や未発表作「プール」他、25ページにわたるカラーグラビア等、桐野夏生の基本情報が掲載
【対談集】
●発火点(2009年9月 文藝春秋 / 2012年12月 文春文庫)
こうしてみると、まだまだ未読作品が残っているし、最新作『燕は戻ってこない』も図書館の予約待ち。
楽しみがあって、いいのだ。
「病膏肓に入る」などと、いかめしい”たとえ” (※)を使ってしまいたくなるが、古い雑誌(ムック)の特集号やら、原武史さんとの対談が掲載されている「文藝春秋」のバックナンバー(2011年3月号)まで、ネットでみつけて手に入れた。
※病膏肓に入る(読み)やまいこうこうにいる
病気が重くなって、治る見込みがなくなること。転じて、あるものごとに極端に熱中して、手のつけられないほどになることのたとえ。
[由来] 「春秋左氏伝―成公一〇年」に見える話から。紀元前六世紀、春秋時代の中国でのこと。晋しんという国の君主、景公は、病気が重くなったので、隣国から医師を呼ぶことにしました。すると、景公の夢に、病気が二人の子どもになって出て来ました。一人が「名医から逃れるには、どこに隠れればいいかな」と言うと、もう一人は「肓こうの上、膏こうの下に居おらば、我を若何いかんせん(横隔膜の上、心臓の下に入れば、おれたちをどうにもできないよ)」と返事していました。その後の医師の診断は、「病気の原因が横隔膜の上と心臓の下に入ってしまっているから、治療できない」とのこと。景公は、「彼は名医だ」と言って、謝礼をたくさん与えて帰らせたのでした。 (コトバンク)
【書影】
(左)The cool!桐野夏生スペシャル
(2005年9月 小説新潮別冊 - Shincho mook)
(右)「文藝春秋」2021年3月号
対談(桐野夏生✕原武史)無縁社会 日本を生き延びる知恵
※『ポリティコン』(2011年2月刊行)について語っている
*****
小平図書館の交流紙(毎月、会員に配布)に、「おススメの本」として、次のような文章を寄稿した。
桐野夏生『夜の谷を行く』
文春文庫 2020年3月 329ページ
桐野夏生(きりの・なつお)の小説が好きで、ときどき文庫の古本を買ったり、新刊を図書館から借りて読んでいます。
ペンネームから男性作家だと思い込んでいたのですが、私と同年生まれの女性作家と知り、親しみを感じています。1984年にデビュー。いまや膨大な著作のある人気作家なのですが、好き嫌いは分かれるところかもしれません。
『夜の谷を行く』は、1971年から72年にかけて世間を震撼させた連合赤軍事件(群馬県山中におけるリンチ殺人事件)を軸に、彼らの生き残りの女性の40年後を描いた小説です。ちなみに、この連合赤軍による「あさま山荘事件」から今年で50年。先日、山荘攻防戦の映像とその後の山荘の様子が放映されていました。
この小説、実際の事件をベースに永田洋子や森恒夫といった有名な幹部たちが実名で出てきますが、主人公とその周辺の人物は作者の仮構。とはいえ、2011年の震災前後の時代設定にリアリティがあります。
主人公は、事件後5年9カ月の刑期を務めて出所し、私塾を経営。それも5年前に閉めて、今は週に4日のスポーツジム通い(月に6500円のささやかなコース)と図書館通いを楽しみに、過去の事件とのかかわりを避けて、鉄階段の古いアパートに一人でひっそりと暮らしています。そこにある日、昔の“同志”から思わぬ電話がはいって、にわかに身辺が慌ただしくなります。否が応でも過去の事件を反芻することになり、昔の“同志”たちとの関わりが始まります。
そればかりか、数少ない肉親(事件のために親戚からは絶縁されています)である妹(やはり事件のせいで夫と離婚)、そのひとり娘である姪との関係も、ぎくしゃくし始めます。そんな折、ライターを名乗る若い男から取材の申し込みがあって・・・。物語の最後、あっと驚く意外な結末までもっていく展開は、さすが。
文庫版の解説は、連合赤軍事件を担当した女性弁護士(大谷恭子氏)。永田洋子の異常な性格がもたらした事態と言われ、一審の判決でもそう断定されたこの事件の別の側面を鋭く指摘しています。作者はこの弁護士から当時の“兵士”たち、とくに若かった女性たちを紹介されて取材したとのことです。
最後に、これまで読んだ桐野夏生作品のうちで私が面白かったと思うものを――。
・『柔らかな頬』(1999年4月 講談社/2004年12月 文春文庫)―幼児誘拐を軸に平穏な生活の裏に潜む闇を描く長編サスペンス。1999年直木賞受賞作。
・『アンボス・ムンドス』(2005年10月 文藝春秋/2008年11月 文春文庫)―短編集。表題作が秀逸。
・『ナニカアル』(2010年2月 新潮社/ 2012年10月 新潮文庫)―林芙美子の知られざる一面を描く伝記的なフィクション。
・『バラカ』(2016年3月 集英社/2019年2月 集英社文庫)―幼児売買というショッキングな現実と、東日本大震災・原発事故後の“こうだったかもしれない”日本の惨状をベースに展開する、ひとりの少女(薔薇香)の流離譚。
近作では『日没』(2020年9月 岩波書店)、『インドラネット』(2021年5月 KADOKAWA)、『砂に埋もれる犬』(2021年10月 朝日新聞出版)など。
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