« 【楽】上々颱風、一日復活? | トップページ | 【読】2022年6月に読んだ本(読書メーター) »

2022年6月14日 (火)

【読】服部文祥さんの書評本

"サバイバル登山家"を自称する服部文祥さんの、書評を集めた本を図書館でみつけて、読んでいる。

『You are what you read あなたは読んだものに他ならない』
 本の雑誌社 2021/2/19 264ページ

まだ読みかけだが、たいへん面白い本なので、ここに記録しておこうと思う。

英語圏には "You are what you ate (eat).” という慣用句があるそうだ。
服部文祥さんは、まえがき(はじめに)で、この書名の由来を語っている。

(はじめに、より)

<本書の主題は、私のライフワークに影響を与えたり、資料として参照したりした「面白本」を紹介することである。私が憧れる世界観を上手に表現している愉快な作品や過去の探検記、パラダイムシフト的発見を報告するサイエンスノンフィクションなども取り上げる。
 私のライフワークは登山であり、その登山はサバイバル登山である。サバイバル登山とは食料や燃料を現地調達しながら、できるだけ現代装備や現代文明に頼らずに、長期間野生環境(山岳地帯)を旅する登山である。>

そして、最後に――

<食べたものが自分自身を作る、と先に書いた。同時に私は、これまで読んできた書物からも作られている。(中略)そういう意味で、I am what I read 私は読んできたものに他ならない。>

そこらの書評とちがうのは、著者の個人的な関心(人間や生きものの生死とは何か)に引き寄せて、読んできた書物から受け取ったエッセンスを綴り、考察を続けているところ、と言ったらいいか。

辛辣な言葉も多いが、いかにも服部さんらしい。
まだ半分しか読んでいないが、読んでいてハッとした文章を拾いだしてみる。
(駄洒落じゃないが、文祥さんの文章は巧みだ)

<何かを食べることは後ろめたいことなのだろうか。食べ物に対する感謝や「いただきます」という言葉が免罪符のようになっているのはなぜなのだろう。/すべての生き物が「生き続けたい」(死にたくない)という思いを持っている(ように見える)。「生きたい」と思っている動物の命を、自分が生き続けるために終わらせて食べる。それは自分の「生きたい」を優先させていることに他ならない。我ながらその自分の傲慢さに心が痛む。ならば少なくとも、自分のために死んだ命に感謝くらいしよう、ということで「いただきます」。/やっぱりそれはそれでいいのかもしれない。>
(P.16 『極北 フラム号極北漂流記』)

服部文祥さんは、狩猟もする。
猟師ならではの実感がこもった言葉だ。

<仲良くなったヒグマを勘違いから撃ち殺してしまうアイヌ猟師の話が心に残る。(中略)死は悲しい。獲物の死であっても悲しさは付随する。だが、かつて生きて今はいない命を回想する切なさは、否定すべきではない。それは人生を豊かにしてくれる。それが命(生+死)に触れるということだと私は思う。> 
(P.27 『秘境釣行記』『羆吼ゆる山』『アラシ』)

<登山者が死ぬような思いをしないで強くなる方法。効いたときは魅力的に見えたその提案を、最近の私は疑っている。登山者は結局、リスクを求めて山に行っているからだ。だが、戦争は違う。本書には武勇伝がひとつもない。その点が戦記物と決定的に違っている。ただ静かに戦前戦中戦後を生きた人生の無常と機微を報告する。そして激しく心を揺さぶられる。> 
(P.31 『生きて帰ってきた男――ある日本兵の戦争と戦後』)

小熊英二氏が父親、小熊謙二氏(シベリア抑留から生還した)を描いたこの新書を、私も読んで感動したことを覚えている。
内容はすっかり忘れているが。

<死んでしまったら意味がない、死んだらつまらない、死んだらおしまいだなどと人は口にする。/まるで生き続けていれば、人生は意味があり、面白く、終わらないかのようだ。/生きるとは何だろうか。/登山を志して道半ばで死んでいった人々の人生を、夢を完遂できなかったという意味で、もったいない、ということはできるかもしれない。だが、山を舞台に自分とは何かを突き詰める行為に人生を費やし、そこで死んでいった仲間を私は否定することができない。>
(P.77 『夜間飛行』『人間の土地』)

***

きりがないので、これぐらいにしておこう。
半分弱の107ページまで読んで、私のきもちを動かした文章が、これらだ。

読み終えたら図書館に返却してしまうので、この本で取り上げられている書物(目次)を、Amazonから転載しておこう。
ちなみに、この書評集は、雑誌「本の雑誌」に、2015年7月号から2020年8月号まで連載されていた書評を集めたもの。

これらのなかには、いつか読んでみたい本が、いくつかある。

(数字はページ番号)

目次
はじめに 一個一四円の卵から考える食と読から作られる我 11

史上最高の人類ナンセンの究極の旅『極北』を読む 16
『極北 フラム号北極漂流記』フリッチョフ・ナンセン著/加納一郎訳

現象はすべて命だデルスーを世に知らしめたアルセーニエフ 20
『デルスー・ウザーラ』アルセーニエフ著/長谷川四郎訳

攻撃の直前ヒグマは立ち上がるモンゴロイドよその隙をつけ 24
『秘境釣行記』『羆吼ゆる山』『アラシ』今野保著

究極のサバイバル道具は針とナベ無常機微機知シベリア抑留 28
『生きて帰ってきた男 ─ある日本兵の戦争と戦後』小熊英二著

悟りたいのは面白いから登りたいのも面白いから 32
『仏教思想のゼロポイント 「悟り」とは何か』魚川祐司著

野生獣食らうにふさわしいヤツなんていない切ないならばなぜ狩る 36
『老人と海』アーネスト・ヘミングウェイ著/小川高義訳

最悪はまだまし最期の報告は語る者なくメモと屍 40
『世界最悪の旅:悲運のスコット南極探検隊』 アプスレイ・チェリー・ガラード著/加納一郎訳

邦訳の読者は知らない驚愕の後日談「だれが裏切ったんだ?」 44
『凍える海 極寒を24ヶ月間生き抜いた男たち』 ヴァレリアン・アルバーノフ著/海津正彦訳

死んでいない状態それは生きている? 空を飛ぶもの山を行くもの 48
〈スカイ・クロラ〉シリーズ 森博嗣著

狙われる気持ち知りたい動物の感覚探る先で見るもの 52
『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』 テンプル・グランディン著/キャサリン・ジョンソン著/中尾ゆかり訳

来しかたを調べ行く末を描くもわからず終了試験落第 56
『私たちはどこから来て、どこへ行くのか 科学に「いのち」の根源を問う』 森達也著

いのちを知るために外から観察す視点アンディ何を見るのか 60
『アンドロイドは人間になれるか』石黒浩著

自分以外になぜかなれないこの世界命の起源哲学降参 64
『存在と時間 哲学探究1』永井均著

文明はしあわせですか生きていますかアマゾンの最奥地より 68
『ピダハン 「言語本能」を超える文化と世界観』 ダニエル・L・エヴェレット著/屋代通子訳

いつか来る終末世界タフで繊細私の銃もレバーアクション 72
『極北』マーセル・セロー著/村上春樹訳

よたよたと大地を離れた飛行機は登山者と似て野望を乗せて 76
『夜間飛行』『人間の土地』サン=テグジュペリ著/堀口大學訳

文無しになるまで自分を追い詰めて乗るマグロ漁船刺身特売 80
『漂流』角幡唯介著

情熱を失わないのが才能と羽生は言うけど藤井どうなの 84
『棋士という人生 傑作将棋アンソロジー』大崎善生編

時に食べ時に食べられぐるぐると命とはまわるディストピア考 88
『大きな鳥にさらわれないよう』川上弘美著

命懸け価値があるのかないのかは命懸けなきゃわからない斬る 92
〈ヴォイド・シェイパ〉シリーズ 森博嗣著

飲み過ぎて迎えた朝にうなだれてたどる記憶に似た人類史 96
『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福 上』 ユヴァル・ノア・ハラリ著/柴田裕之訳

ベストセラー読んでいない人のためスーパーダイジェスト我らどこ行く 100
『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福 下』 ユヴァル・ノア・ハラリ著/柴田裕之訳

撃つ前は獲物を想い己を殺す猟師ケモノの夢を見るのか 104
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』 フィリップ・K・ディック著/浅倉久志訳

かけがえのないはずの命消費してうねる世界で我は食うなり 108
『彼女は一人で歩くのか?』Wシリーズ 森博嗣著

生態系の向こうに行くか近未来 意志にはかたち嵩重さなし 112
『彼女は一人で歩くのか?』Wシリーズ 森博嗣著

人類をここまで導く好奇心 誰も死なない明日は明日か 116
『彼女は一人で歩くのか?』Wシリーズ 森博嗣著

アムンセン隊去ったあとのイヌイット青い目の子をつぎつぎと産む 120
『最後のヴァイキング ローアル・アムンセンの生涯』 スティーブン・R・バウン著/小林政子訳

読書感想文書きたくない娘 「本の雑誌」を敵として見る 124
『マヤの一生』椋鳩十著

アラスカ版デルスー、シドニー・ハンチントンその人生を表す題なし 128
『熱きアラスカ魂』 シドニー・ハンチントン著/ジム・リアデン編/和田穹男訳

体験は善も悪もなくそこにあるあの時の我いまどこにいる 132
『スローターハウス5』カート・ヴォネガット・ジュニア著/伊藤典夫訳

狩猟とはなにかド直球で問いただす狩りの言葉のSFラブコメ 136
『明日の狩りの詞の』石川博品著

天稟のすべてを出すのが犬の幸せリスク見積もる人にわからず 140
『犬物語』ジャック・ロンドン著/柴田元幸訳

ネタバレの心配がないネタがない でも面白い文字列の意義 144
『光の犬』松家仁之著

西部劇のように荒野を旅したい犬とライフルを相棒にして 148
『オンブレ』エルモア・レナード著/村上春樹訳

便利安全快適な今日予定調和でつまらない明日 152
『ブッチャーズ・クロッシング』ジョン・ウィリアムズ著/布施由紀子訳

最強のコマンチ族文明と戦って最後の族長数奇な運命 156
『史上最強のインディアン コマンチ族の興亡』S・C・グウィン著/森夏樹訳

戦慄の光景それは風景でなく情景である色即是空 160
『孤島の祈り』イザベル・オティシエ著/橘明美訳

入れ子式の夢を見ている夢を見る自ら死を待つ番になるとき 164
『休戦』プリーモ・レーヴィ著/竹山博央訳

年老いた少年レバーアクションを手にアメリカ南部文学を読む 168
『ねじれた文字、ねじれた路』 トム・フランクリン著/伏見威蕃訳

アラスカの森で独り脱化石燃料試すオッサン魂 172
『独りだけのウィルダーネス アラスカ・森の生活』 リチャード ・プローンネク著/サム・キース編/吉川竣二訳

アンディに地位を奪われ家畜と堕すデジタル未来をアナログで読む 176
『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』 ユヴァル・ノア・ハラリ著/柴田裕之訳

死にたくはないけどいつか死ぬいいえゆっくり死んで戻る生前? 180
『「死」とは何か イェール大学で23年連続の人気講義』 シェリー・ケーガン著/柴田裕之訳

水垢離息止め鍛える代謝免疫いま健康は辛く厳しい 184
『サバイバルボディー 人類の失われた身体能力を取り戻す』 スコット・カーニー著/小林由香利訳

唯一無二の人生映す発想はそのまま人格避けて進めず 188
『NORTH 北へ アパラチアン・トレイルを踏破して見つけた僕の道』 スコット・ジュレク著/栗木さつき訳

〝ただ生きる〞ために殺す必然性開拓時代の老猟師手記 192
『ヒグマとの戦い ある老狩人の手記』西村武重著

末端の物資生活人員が映す敗戦兵の惨状 196
『日本軍兵士 ─アジア・太平洋戦争の現実』吉田裕著

獲物になったり戻ったり猟師的視野新人類学 200
『ソウル・ハンターズ シベリア・ユカギールのアニミズムの人類学』 レーン・ウィラースレフ著/奥野克巳、近藤祉秋、古川不可知訳

感じない機械に世界はあるのだろうか五蘊皆空とブッダ言うけど 204
『人工知能はなぜ椅子に座れないのか情報化社会における「知」と「生命」』松田雄馬著

まだ死ねない現生人類に科せられた幸福な報い介護と看取り 208
『死を生きた人びと 訪問診療医と355人の患者』小堀鷗一郎著

食肉は迷宮にありひも解いてケモノと共に影と闘う 212
『いのちへの礼儀 国家・資本・家族の変容と動物たち』生田武志著

生まれ出ていままで生きてきたなかで一番きれいな約束だから 216
『流砂』ヘニング・マンケル著/柳沢由実子訳

自己矛盾感じ己を否定するとき スタンドバイミーハニーハンター 220
『HONEY HUNTERS OF NEPAL』Eric Valli, Diane Summers著

命とは流動系のひとつのかたち特別でなく物理法則 224
『流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則』 エイドリアン・ベジャン、J・ペダー・ゼイン著/柴田裕之訳

意識ある存在であるこの奇跡「いつか消える」と必ずいっしょ 228
『僕はなぜ小屋で暮らすようになったか 生と死と哲学を巡って』高村友也著

北海道無銭二ヶ月旅のあと十二国を二ヶ月旅す 232
『図南の翼』小野不由美著

名犬であれと信じて旅をした 駄人駄犬と気づかないまま 236
『ヒト、犬に会う 言葉と論理の始原へ』島泰三著

外界はそのまま己鍛えて登れ世界とフェアに向き合う命 240
『ザ・プッシュ ヨセミテ エル・キャピタンに懸けたクライマーの軌跡』 トミー・コールドウェル著/堀内瑛司訳

セイウチに父を殺されエスキモー少年皮嚙み雪原をゆく 244
『北のはてのイービク』 ピーパルク・フロイゲン著/野村泫訳

給料の代わりにもらった銃を手に森に入った猟師リア充 248
『俺のアラスカ 伝説の〝日本人トラッパー〟が語る狩猟生活』伊藤精一著

あとがきにかえて 私と山岳書 252

 

|

« 【楽】上々颱風、一日復活? | トップページ | 【読】2022年6月に読んだ本(読書メーター) »

【読】読書日誌」カテゴリの記事

こんな本を読んだ」カテゴリの記事

服部文祥」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 【楽】上々颱風、一日復活? | トップページ | 【読】2022年6月に読んだ本(読書メーター) »