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2023年4月の4件の記事

2023年4月25日 (火)

【読】池澤夏樹さんの新刊『また会う日まで』

池澤夏樹さんの新刊が出た。

700ページを超える大作で、値も張る(税込3600円)。
このところ本代が嵩んでいるので、本屋では眺めるだけ。
地元の図書館にリクエストしたところ、それほど待たずに借りられた。

池澤夏樹 『また会う日まで』
 朝日新聞出版 (2023/3/7) 728ページ

Amazonより

海軍軍人、天文学者、クリスチャンとして、明治から戦後までを生きた秋吉利雄。
この三つの資質はどのように混じり合い、競い合ったのか。著者の祖母の兄である大伯父を主人公にした伝記と日本の近代史を融合した超弩級の歴史小説。
『静かな大地』『ワカタケル』につづく史伝小説で、円熟した作家の新たな代表作が誕生した。朝日新聞大好評連載小説の書籍化。
(目次から)
終わりの思い 海軍兵学校へ 練習艦隊 第七戒 海から陸へ、星界へ 三つの光、一つの闇 チヨよ、チヨよ ローソップ島 ベターハーフ 潜水艦とスカーレット・オハラ 緒戦とその先 戦争の日常 立教高等女学校 笠岡へ 終戦/敗戦 希望と失意 主よ、みもとに コーダ

かつて『静かな大地』を読んで、深く感銘を受けた。
たしか、単行本で二度、その後、文庫版で再読した。

池澤さんの先祖を題材にして、「開拓」時代の北海道が舞台の小説。

このブログでも、「静かな大地」というカテゴリーを作って、あれこれ書いたほど、入れ込んだ作品だ。

 

静かな大地: やまおじさんの流されゆく日々
http://yamaoji.cocolog-nifty.com/blog/cat20103693/index.html

※池澤さんの『静かな大地』というタイトルは、花崎皋平(はなざき・こうへい)『静かな大地 松浦武四郎とアイヌ民族』に倣っている(花崎氏の許諾をえているはず)。私のブログ記事でも、花崎氏の本や松浦武四郎について、たくさん触れている。

【読】長い物語: やまおじさんの流されゆく日々
http://yamaoji.cocolog-nifty.com/blog/2005/10/post_570d.html

この新作『また会う日まで』も、池澤さんの祖母の兄(大伯父)・秋山利雄が描かれているようだ。
まだ、はじめの70ページほどを読み始めたばかりなので、秋吉利雄という人の生涯を追うのは、これから。

池澤さんの文章が好きなので(『静かな大地』は、かなり凝った文体だったが)、この小説は楽しめそうだ。

ネタバレになりそうだが、新聞の書評を紹介しておこう。

今週の本棚:湯川豊・評 『また会う日まで』=池澤夏樹・著 | 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20230318/ddm/015/070/008000c

池澤夏樹が3作目の歴史小説「また会う日まで」で描いた大伯父の3つの顔 現在と重なる日本の戦中史:東京新聞 TOKYO Web
https://www.tokyo-np.co.jp/article/242514

 

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2023年4月24日 (月)

【雑】ゆっくりと春から初夏へ

立川までバスに乗って出かけた。

バス待ちのバス停横の公園で。

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今日は薄曇り。
最高気温15度と、すこし肌寒い。

 

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2023年4月15日 (土)

【読】沢木耕太郎『天路の旅人』を読む

自分で買わず、図書館に予約しておいた本。
発売から半年たって、ようやく読むことができた。
三日間、家と乗り物のなかで集中して読み切った。

以下は、所属する図書館友の会の「交流紙」向け原稿(初稿)に手を入れたもの。
交流紙に掲載してもらう原稿は、もっと短くした。

沢木耕太郎『天路の旅人』
新潮社 2022年10月27日発行
574ページ 2,640円(税込)
第74回 読売文学賞 随筆・紀行賞受賞

発売直後に読んだという友人の紹介で知り、図書館の10人を超す予約待ち「行列」に並んで待つこと4か月。
ようやく読むことができた。

沢木耕太郎の9年ぶりの長編ノンフィクション。

概要を新潮社のサイトから引用。
<第二次大戦末期、敵国の中国大陸の奥深くまで「密偵」として潜入した若者・西川一三。敗戦後もラマ僧に扮したまま、幾度も死線をさまよいながらも、未知なる世界への歩みを止められなかった。その果てしない旅と人生を、彼の著作と一年間の徹底的なインタビューをもとに描き出す。著者史上最長にして、新たな「旅文学」の金字塔。>

この西川一三という人がじつに魅力的。
「こんなにすごい人がいたのか!」と、深い感銘を受けた。

1943年、25歳でモンゴル(蒙古)の「興亜義塾」を卒業。
「密偵」としてラマ僧に扮し、ラクダを引いて中国の奥地へ。
さらに鎖国中だったチベット(西蔵)に潜入、ブータン、ネパール、ヒマラヤ山脈の高地を超えてインドまで――これが彼のおおまかな足跡。
ヒマラヤの峠(標高4500メートルほどだったらしい)を超えて、インド~チベット間を何度も往復している。
蒙古を発ってから帰国までの8年にも及ぶ「旅」は、常人にはとうてい真似のできない過酷なもの。

チベットで日本の敗戦を聞き、インドでそれが本当だったと知るが、その後5年の「旅」が、またすごい。
敗戦を知るまでの「密偵」としての旅もさることながら、敗戦後、ラマ教の僧院に滞在して下働きをしたり、インドでは鉄道建設隊で苦力頭として働いたりと、行く先々で現地の人々の中に入りこみ、言葉を覚え、最も下層の生活に身を浸す姿が立派で、沢木さんが言うように「かっこいい」のだ。

1950年に帰国(強制送還に近い)、GHQの取り調べを受ける。
その後、コツコツと自らの体験を書き綴り(なんと原稿用紙3000枚超)、『秘境西域八年の潜行』(芙蓉書房/上・下・別巻/1972年)として不完全ながら出版され、一時、有名になった。

この著作は、その後、再編集され中公文庫から3巻で出版されている(1990年)。
地元の図書館にもあったが、沢木さんの著作の影響か、貸出中。

 

この原稿を清書してくれた女性と縁があって結婚、盛岡に移住。
2008年に89歳で亡くなったが、病を得る85歳まで、盛岡で、ひっそりと、淡々と、理美容材卸業を営み、元旦以外は休まず働き続けたという。
その生き方にも好感が持てる。

沢木さんは一年かけて盛岡まで何度も足を運び、仕事を終えた彼と酒を酌み交わしながら取材を続けたそうだ。
本書冒頭に取材の経緯が書かれている。

また、出版後のインタビューで次のようにも語っている(要約)。

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/73471 より(記事4ページ目)

<西川一三のドラマチックな「旅」と帰国後の何もなさ過ぎる日々との落差。その落差を生み出すキーになるのは、彼が「自己認証」を必要としなかった人だったからではないか。周りからすごい人間だと思われたいという欲求をほとんど持っていなかった。まるでラマ僧の修行のような生活。日々の同じことの繰り返しがそんなに嫌いではなかったんじゃないか。その点で『凍』(沢木作品)の主人公・山野井泰史と共通するものがある。山野井もクライマーとしてすごいことをやりながら、基本的に目立つことを好まずひっそり生きている人。自分の能力や生き方をみんなにアピールしようとは思っていない。自分が好きな山や崖に登れればそれでいいと。>

【もう一冊】
 江本嘉伸 『新編 西蔵漂泊 チベットに潜入した十人の日本人』

(山と渓谷社 ヤマケイ文庫/2017年)
沢木さんの本でも参照されている。川口慧海をはじめとする明治から大正、太平洋戦争前後にかけてチベットに潜入した十人の日本人を追うノンフィクション。この中に西川一三や、同じような境涯を送った木村肥佐生(西川とも行動を共にしたが、帰国後は大学教授を勤めたりして対照的な後半生を送った)も登場。

【2023/4/16追記】
新潮社の「波」という広報誌(というのだろうか、書店で無料配布している月刊の冊子)に、沢木さんの「刊行記念特別エッセイ 空と天」が掲載されている。
図書館から借りて読んでみたが、その内容がネット記事にそのまま掲載されていた。

「天路の旅人」という書名を選んだ経緯が書かれていて、興味深い。

沢木耕太郎 『天路の旅人』 | 新潮社
→ インタビュー/対談/エッセイ 空と天
https://www.shinchosha.co.jp/book/327523/

<去年の秋のことだった。
夕方、神楽坂で人と会う約束があり、少し時間に余裕があったので、飯田橋駅に近い書店に立ち寄った。
(中略)
この日は、久しぶりだったが、やはり、特に何か本を買おうというより、時間を潰すことが目的という、書店にはあまりありがたくない客だったかもしれない。
かつてと同じく正面から入ると、のんびり右側の奥に位置する文芸書の新刊のある棚に向かった。
だが、平台に並んでいる本に眼を落としながら歩いていた私は、あるところで、思わず「あっ!」と声を出しそうになるほど驚いて、足を留めた。
そこには『天路』というタイトルの本が置かれていたのだ。
(以下、略)>

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2023年4月 1日 (土)

【読】2023年3月に読んだ本(読書メーター)

2023年3月は、北方謙三『楊令伝』(『水滸伝』の続編)を読み続けている。
あいまに、岡崎武志さんの本を3冊。

3月の読書メーター
読んだ本の数:9
読んだページ数:3301
ナイス数:108

楊令伝 1 玄旗の章 (集英社文庫)楊令伝 1 玄旗の章 (集英社文庫)感想
北方『水滸伝』に続けて読み始めた。梁山泊の生き残りたち、楊令、梁山泊二世たちが、あらたな物語を展開していく予感。子午山の王進のもとに、あらたな梁山泊二世が預けられる。北の遼・金では”幻王”の正体が巻末で明かされ、次巻以降につながる。この先が楽しみだ。この巻の解説は宮部みゆき。
読了日:03月02日 著者:北方 謙三

楊令伝 2 辺烽の章 (集英社文庫)楊令伝 2 辺烽の章 (集英社文庫)感想
楊令が梁山泊に復帰。岳飛(実在の人物だと知った)という少年がこの巻で登場。なるほど、彼が後続の『岳飛伝』の主人公になるのか。この巻の解説は北上次郎(見黒孝二、つい先日、惜しくも亡くなった)。その解説によれば、『楊令伝』第九巻で大転換があるという。この先も楽しみな大作ではある。
読了日:03月07日 著者:北方 謙三

楊令伝 3 盤紆の章 (集英社文庫)楊令伝 3 盤紆の章 (集英社文庫)感想
この巻で物語は大きく動き始める。楊令が梁山泊の頭領として北から復帰。金と遼の戦い。江南では方臘というとてつもない宗教指導者が大きな叛乱を起こし、その懐に趙仁を名乗って潜入している呉用の運命や如何。まだまだ先は長い。
読了日:03月13日 著者:北方 謙三

楊令伝 4 雷霆の章 (集英社文庫)楊令伝 4 雷霆の章 (集英社文庫)感想
梁山泊二世たちの活躍が目立つ。楊令を筆頭とする、子午山の王進の許で鍛えあげられた若者たち。なかでも花飛麟が頼もしい将校に成長。この巻の終盤、子午山で修行した楊令、史進、鮑旭、馬麟、花飛麟、楊平の六人が集い、王母(王進の母)の死を焚火を囲んで悼むシーンにはジーンときた。あたらしい梁山泊の周辺で、にわかに戦の匂いが。次巻が楽しみだが、ここらで毛色のちがう別の本も読んでみようか、というところ。
読了日:03月19日 著者:北方 謙三

楊令伝 5 猩紅の章 (集英社文庫)楊令伝 5 猩紅の章 (集英社文庫)感想
江南での長い長い方臘の乱が、ようやく童貫軍によって鎮圧された。気分の悪くなりそうな宗教叛乱の鎮圧。信徒たちの「度人」という行為が不気味。趙仁がようやく呉用に戻って梁山泊に復帰(というか半ば拉致された格好)。北では金の阿骨打が死亡。青蓮寺の李富と聞煥章の競り合いも興味津々。全15巻のこの先の展開がまったく予測できない。まだ5巻目。道のりは遠い、という感じ。
読了日:03月24日 著者:北方 謙三

憧れの住む東京へ憧れの住む東京へ感想
個人的にもよく知っている岡崎武志さんの新刊。ご本人から出版記念イベントの案内をいただいて知った本。三部作とも言える『上京する文學 春樹から漱石まで』(新日本出版社のち、ちくま文庫)『ここが私の東京』(扶桑社のち、ちくま文庫)に続く三冊目。赤瀬川原平、洲之内徹、浅川マキ、田中小実昌、山之口貘、耕治人の6人
表現者(いずれも上京者)の上京後の足取りが、緻密な下調べに依って、ていねいに描かれている。私もまた上京者。岡崎さん(大阪出身)の思いがよくわかる。なかでも浅川マキと山之口貘の章が、私には特にうれしかった。
読了日:03月28日 著者:岡崎武志

楊令伝 6 徂征の章 (集英社文庫)楊令伝 6 徂征の章 (集英社文庫)感想
最終章にいたく感動。扈三娘が絶体絶命のピンチから脱出。聞煥章の死。童貫が子午山の王進を訪ねる。…思いがけない展開だった。楊令が洞庭山を訪れて呉用を梁山泊に復帰させる。いよいよ梁山泊軍と童貫率いる宋禁軍との戦が始まるのか。まだ6巻目。この先、どういう展開が待っているのだろう。
読了日:03月29日 著者:北方 謙三

ここが私の東京 (ちくま文庫 お-34-10)ここが私の東京 (ちくま文庫 お-34-10)感想
単行本も持っているが文庫で読んだ。文庫版には「草野新平」の章が追加されており、牧野伊三夫さん(画家で岡崎さんと親しい。本書の装画・挿画も担当)の解説文がある。この本の前に読んだ『憧れの住む東京へ』(2023年1月刊)の前作にあたる(単行本は2016年刊)。文庫巻末に追加されている岡崎さん自身の上京記「これが私の東京物語」が興味ぶかい。さまざまな”上京者”にそそぐ岡崎さんの眼差しは、優しく、あたたかい。それにしても、とりあげる人物たちについてよく調べあげたものだと感心する。
読了日:03月30日 著者:岡崎 武志

上京する文學 (ちくま文庫)上京する文學 (ちくま文庫)感想
岡崎さんの「上京者シリーズ」と呼びたい一連の著作の一冊目。2012年上梓の単行本を持っているが、書棚で眠ったまま。文庫化(2019年)されたものを買い求め、勢いで読んだ。単行本とは収録順序が違う。冒頭が村上春樹(単行本では斎藤茂吉)。書名の副題も「漱石から春樹まで」が「春樹から漱石まで」に変わっているのが興味を引く。そのほか、文庫版には岡崎さんが敬愛する野呂邦暢の章が加えられ、重松清による自身の上京記が「解説」代わりに添えられている。岡崎さんの人がらを感じさせるウイットに富んだ文章に、あらためて感心した。
読了日:03月31日 著者:岡崎 武志

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