【読】2023年5月に読んだ本(読書メーター)
5月の読書メーター
読んだ本の数:12
読んだページ数:3875
ナイス数:205真珠とダイヤモンド 上の感想
今年2月に出たばかり。人気作家・桐野夏生の新作とあって図書館の順番待ちに並ぶこと2か月、ようやく手元に届いた。1986年、バブル最盛期の証券会社。マネーゲームの異様な熱気。その時代に一攫千金を夢みる3人の証券会社新入社員が主役。上巻の冒頭は、ホームレスに近い境遇まで身をやつした、そのうちの一人の女性の描写から始まり、遡って、過去の入社当時の"生き馬の目を抜く"証券会社の様子が異様な迫力で描かれる。話の展開が桐野夏生らしく、いかにも"ストーリーテラー"だなと、感心させられる。興奮しつつ、一気に読了。下巻へ。
読了日:05月01日 著者:桐野 夏生
真珠とダイヤモンド 下の感想
下巻もいっきに読了。プロローグで感じた謎が、エピローグで閉じる、みごとな展開。タイトルの謎も最後に明かされる(薄汚れた真珠と、輝かないダイヤ)。バブルの時代から、それがはじけて数十年。コロナ後の日本社会。この作品でも、女性の生き難さが描かれる。桐野夏生らしい、社会問題を扱った傑作。桐野作品は、どれも救いようのない話ばかりなのだが、私はこの作家が次々と生み出す作品を、これからも追い続けるだろう。
読了日:05月02日 著者:桐野 夏生
間違う力 (角川新書)の感想
タイトルがずっと気になっていた本。ようやく手に入れて読むことができた。高野さんには珍しい新書(親本は2010年刊行の単行本)。世に「〇〇する力」の類いの本は多いが、これはいかにも高野さんらしい内容。災い転じて…というが、何でもポジティブに捉える高野さんらしく、爽快な逸話満載。仲のいい内澤旬子さんのことも書かれていて、内澤ファンの私にはうれしい。革張り本を作りたいために屠畜の世界へ(『世界屠畜紀行』)、さらに自分で豚を飼育してしまう(『飼い喰い』)…そんな内澤さんと高野さんは似ているのかも。好奇心と実践力。
読了日:05月03日 著者:高野 秀行
楊令伝 14 星歳の章 (集英社文庫)の感想
いよいよ終盤。この巻の最終章が泣かせる。南宋との戦で郭盛が壮烈な死を遂げ、史進は愛馬を死なせてしまう。史進の人間味がいい。この巻を読んでいて思ったのだが、楊令が思い描く「国」の姿には、作者・北方謙三の想いが込められている気がする。「岳飛伝」につながる次巻・最終巻が楽しみだ。文庫解説の東えりかは、元北方事務所の秘書だったとか。この解説もいい。
読了日:05月04日 著者:北方 謙三
楊令伝 15 天穹の章 (集英社文庫)の感想
最終巻をいっきに読了。15巻、長かった。楊令の死は、はじめから予想(覚悟)していたが、こんな最期になるとは…。大将どうしの一騎打ちというか決闘で終わらせるところに、ちょっと違和感もあるが、北方流ハードボイルド的味わい。このあと『岳飛伝』で、楊令が願った民の国への想いは、岳飛に受け継がれるのだろうか。「大水滸伝」三部作の最終作品『岳飛伝』がどのような展開になるのか知らないが、岳飛も秦檜も南宋の実在人物だと知ったので、期待しよう。日本や西域も、ますます、からんでくるのだろうな。
読了日:05月05日 著者:北方 謙三
バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)の感想
積読本を思いだして読んだ。新書にしては分厚い本だったが、軽快な文章で、すいすい読めた。写真も満載。ひさしぶりの「エンタメノンフ」を堪能。本書に記載されている「ナショジオ日本語版」の「【研究室】研究室に行ってみた。モーリタニア国立サバクトビバッタ研究所 サバクトビバッタ 前野ウルド浩太郎」連載記事をみつけた。https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20140114/379960/ 私が敬愛する高野秀行さんとのつながりも、読後の検索で知った(Twitter)。
読了日:05月07日 著者:前野ウルド浩太郎
無言館 (アートルピナス)の感想
地元の図書館の片隅に、利用者が不要になった本を置いていく「無料交換棚」がある。ほしい本があれば勝手に持ち帰ってよい。そこでみつけた一冊。上田市の「無言館」のことは知っていたが、行ったことはない。戦没画学生たち(ほとんどが繰上卒業、学徒動員で戦地に赴いた)の遺作集。私の父親より少しだけ年長の青年たちの経歴を読む。こういう才能ある画家・彫刻家まで動員しなければいけなかった(戦える兵士が残っていなかった)、あの戦争の理不尽を思う。
読了日:05月08日 著者:窪島 誠一郎
私たちはどこから来て、どこへ行くのか: 科学に「いのち」の根源を問う (単行本)の感想
これも積読本だったもの。古書店の店頭均一棚にあったのをタイトルに惹かれて買った。1999年から2003年に書かれたエッセイを集めたもの。タイトルは著者が制作した映画『A』『A2』に因む。オウム信者を扱ったこの2本の映画に関するエッセイがほとんど。私は知らなかった映画なのだが、なるほど、そんなことがあったのかと。この著者の小説『千代田区一番一号のラビリンス』(2023年3月)や『日本国憲法』(2007年/太田出版)も読んだが、どんな人かわかった気がする。『放送禁止歌』(知恵の森文庫/2003年)も読みたい。
読了日:05月10日 著者:森 達也
放っておいても明日は来る― 就職しないで生きる9つの方法の感想
つい先日読んだ高野さんの『間違う力』(角川新書/親本は2010年出版)で知った本。絶版だったので中古本を入手。2009年11月出版だから、その少し前に上智大学で非常勤講師を務めたとき(東南アジア文化論)、ご自身の知り合い9人を呼んで、高野さんを聴き手に話してもらったときの内容。自由でユニークな生き方をしてきたゲストたちと、高野さんとの、掛け合い漫才を聴くようで、じつに面白い。卒業後の就職・進路に悩む学生の気もちが”癒された”というのも納得。こういう人生もあるのかと思うと、たしかに、生きていくのが楽になる。
読了日:05月11日 著者:高野 秀行,二村 聡,下関 崇子,井手 裕一,金澤 聖太,モモコモーション,黒田 信一,野々山 富雄,姜 炳赫
アフリカの日々/やし酒飲み (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-8)の感想
「アフリカの日々」は、長大で、私には散漫な印象。読むのに苦労した(途中でやめようかと思ったが、なんとか読み通した)。メイ・サートンの『夢見つつ深く植えよ』に通じる味わいではあったが…。独立前のケニヤ、野生動物をやたらとハンティングする感覚には違和感も。いっぽう、「やし酒飲み」は抜群に面白く、いっきに読み終えた。私だけの印象かもしれないが、アイヌに伝わるユカラやウェペケレを想起させる。なんという豊饒な世界! この作者チュツオーラにも興味がわく。
読了日:05月17日 著者:イサク・ディネセン,エイモス・チュツオーラ
「空気」と「世間」 (講談社現代新書)の感想
この著者の『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』 (講談社現代新書/2017年)を読んだことがあるのと、本書のタイトルに惹かれて買ったままだった積読本。かつて阿部謹也が論じた「世間」と、山本七平が論じた「空気」を引き合いに出して、「空気を読む(読め)」と言われるようになった昨今の「空気」とは、「世間」が流動化したものなのだと喝破。興味深くはあったし、視点の鋭さを感じるところもあったが、いまひとつピンとこなかった。導入としてお笑い番組の「空気」をとりあげているところから、ちょっと読む気が半減。
読了日:05月22日 著者:鴻上 尚史
岳飛伝 1 三霊の章 (集英社文庫)の感想
ついに北方謙三「大水滸伝」三部作の最終作に突入。期待を裏切らないスケールの大きな物語の始まりだ。偉大な頭領・楊令を失った喪失感をそれぞれの胸に秘めながら、梁山泊の生き残りたちの人間味あふれる苦悩がよく描かれている。王貴や張朔といった梁山泊二世たちの今後の活躍や、あらたに登場した耿魁(こうかい)という魅力的な人物のこれから先も楽しみだ。岳飛と一兵卒との会話が印象的だった。子午山の公淑・郝嬌の二人の女性の会話も胸を打つ。原泰久(漫画家)による巻末解説がいい。
読了日:05月31日 著者:北方 謙三
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