【読】泉ゆたか著『ユーカラおとめ』を読んだ
宇梶静江さんのトークイベントのことを書いたら、この本のことを思い出した。
3/18から3/20にかけて読んだ。
図書館本。
泉ゆたか 『ユーカラおとめ』
講談社 (2024/1/29) 268ページ
https://amzn.to/3xx9hce
(書影はAmazonサイトより)
―出版社(講談社)のサイトから紹介文―
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000377108
「ユーカラを書き記すことは、私が生まれてきた使命なのだ」
絶滅の危機に瀕した口承文芸を詩情あふれる日本語に訳し、今も読み継がれる名著『アイヌ神謡集』。著者は19歳の女性だった。
民族の誇り。差別との戦い。ユーカラに賭ける情熱。短くも鮮烈な知里幸恵の生を描く、著者の新たな代表作!
「いつまでも寝込んでいるわけにもいきません。私には時間がないんです」
分厚く腫れた喉から流れ出した自分の言葉に、幸恵ははっとした。
私には時間がない。
そうなのか?
思わず胸に掌を当てた。満身創痍の身体の中心で、心臓は未来へ駆け出す足音のように勢いよくリズムを刻んでいた。
(本文より)
私は、以前から知里幸恵(正式な漢字は「幸惠」)への関心が深く、『アイヌ神謡集』にまつわる書籍や彼女を扱った評伝などを読み漁った時期がある。
この小説『ユーカラおとめ』も、フィクションながら、知里幸恵を描いたものなので興味深かった。
以下、私が所属している「図書館友の会」の会員向け交流紙(月刊)に寄稿した「おすすめの本」の文章を掲載しておく。
この交流紙は、紙媒体で友の会会員に配布される(一部の会員にはPDF版で配布)。
いわば非公開の文章なのだが、せっかく自分が書いたものなので、原文通りここにコピペしておこうと思う。
手抜きといえば手抜きだが。
※ブログ画面での読みやすさを考慮して、段落改行を変更。
『アイヌ神謡集』一冊を遺して、十九歳という若さで世を去ったアイヌの女性・知里幸恵(幸惠)。
1903(明治36)年6月生まれ~1922(大正11)年9月没。
『アイヌ神謡集』については、12年ほど前に交流紙で紹介したことがあります。
彼女をモデルにした映画「カムイのうた」も、今年1月から公開されているようです。
https://kamuinouta.jp/
没後百年を過ぎても、ちょっとした知里幸恵ブームになっているのでしょう。
この小説は、東京の金田一京助宅に招かれて『アイヌ神謡集』を推敲し完成させながらも、発刊を待たずに急死した1922年5月から9月までのわずか4か月の、幸恵の軌跡(上京から死去まで)がリアルに描かれています。
作者はフィクションと断っていますが、金田一京助とその妻・静江、金田一の子息・春彦と妹の若葉、それに、金田一を“おじさま”と呼ぶ荒木百合子(旧姓・中條百合子、のちの宮本百合子)、金田一邸の女中・菊などが実名で登場します。
薄幸の乙女、というイメージを抱きがちなアイヌの女性の複雑な内面を、そこまで書くか、と驚かされるほど(これが小説家の想像力なのでしょう)赤裸々に描いていて、驚きました。
なかでも、金田一の細君(静江)は、奇矯な言動が多く、かなり迷惑な人物。
金田一との間にできた二人のこどもを幼くして亡くし、それが原因なのか、精神を病んでいたようです。
荒木百合子も、金持ちのお嬢さんらしい自分勝手な女性として描かれています。
幸恵の、このふたりに向ける眼差しは厳しく、彼女が心情を吐露するモノローグも辛辣。
読んでいてはらはらしました。
それでも、幸恵が亡くなる直前に静江が見せた優しさや、百合子の的確な金田一評と幸恵に見せる思いやりに、ほっとします。
アイヌ文化・ユーカラの理解者、紹介者とされている金田一京助ですが、その功罪を見直す必要もありそうです。
ずいぶん前に読んだのですが、藤本英夫(故人)が書いた評伝『銀のしずく降る降るまわりに 知里幸恵の生涯』(1991)
『知里幸恵 十七歳のウエペケレ』(2002年)(共に草風館)
『金田一京助』(1991年/新潮選書)なども、あらためて読み直してみようと思っています。
『100分de名著 知里幸恵・アイヌ神謡集』(2022年9月)もおすすめします。
(2024.4.16 記)
【参考】草風館のサイト
http://www.sofukan.co.jp/ より
『知里幸恵(ちり・ゆきえ)──十七歳のウエペケレ』 藤本英夫 著
http://www.sofukan.co.jp/books/128.html
『銀のしずく降る降るまわりに―知里幸恵の生涯』 藤本英夫 著
http://www.sofukan.co.jp/books/75.html
草風館からは、『アイヌ神謡集』に収録されている神謡(ユカㇻ)を、元々の姿(節をつけて謡われた形)で”復元”した音源のCDも出ている。
「アイヌ神謡集」をうたう うた:中本ムツ子/復元:片山龍峯
http://www.sofukan.co.jp/books/134.html
※片山龍峯さんの手になる『アイヌ神謡集』の解説書(アイヌ語読解)も、草風館から出ている。
また、岩波文庫の”赤版”(外国文学)のロングセラー『アイヌ神謡集』は、昨年、中川裕さんによる改訂新版が出ている。
知里幸惠 アイヌ神謡集 (岩波文庫 赤80-1) 文庫 – 2023/8/10
Amazon
https://amzn.to/3xKsyXK
| 固定リンク | 0
「【読】読書日誌」カテゴリの記事
- 【読】2024年8月に読んだ本(読書メーター)(2024.09.01)
- 【読】2024年7月に読んだ本(読書メーター)(2024.08.01)
- 再読 服部文祥『北海道犬旅サバイバル』(続々・終)(2024.07.21)
- 再読 服部文祥『北海道犬旅サバイバル』(続)(2024.07.21)
- 再読 服部文祥『北海道犬旅サバイバル』(2024.07.21)
「こんな本を読んだ」カテゴリの記事
- 【読】2024年8月に読んだ本(読書メーター)(2024.09.01)
- 【読】2024年7月に読んだ本(読書メーター)(2024.08.01)
- 再読 服部文祥『北海道犬旅サバイバル』(続々・終)(2024.07.21)
- 再読 服部文祥『北海道犬旅サバイバル』(続)(2024.07.21)
- 再読 服部文祥『北海道犬旅サバイバル』(2024.07.21)
「アイヌ民族・アイヌ語」カテゴリの記事
- 【読】泉ゆたか著『ユーカラおとめ』を読んだ(2024.04.16)
- 【雑】地球永住計画2024.4.11(宇梶静江さん)(2024.04.15)
- 【読】2024年3月に読んだ本(読書メーター)(2024.04.01)
- 【読】いつも読みたい本ばかり(2022年総集編に代えて)(2022.12.25)
- 【読】「ゴールデンカムイ」31巻通読(2022.09.08)
コメント