カテゴリー「角幡唯介」の8件の記事

2024年7月21日 (日)

再読 服部文祥『北海道犬旅サバイバル』(続)

服部文祥 『北海道犬旅サバイバル』 (みすず書房、2023年9月)
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2024/7/12~7/20 再読
2024/2/18~2/19 初読

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昨夜読み終えた、この本の感想の続き。

■中盤戦■  (続き)
2019年10月17日~30日。
天塩岳ヒュッテ~山小屋芽室岳。193キロ。

山小屋芽室岳のデポは、そもそもヌプン小屋に置く予定だったという。
ヌプン小屋への林道が豪雨で壊れ、デポ設置が丸一日行程になるとの情報を得て、登山口近くにある山小屋芽室岳(ここも無人の避難小屋のひとつ)に変更していた。

ここで、角幡唯介さんの著作『極夜行』に触れている。
<角幡(唯介)君の極夜行は、デポが白熊に荒らされていることが発覚してから、がぜん面白くなっていった。連れている犬まで食べるかという窮地に追い込まれるのだ。/その報告を読んだとき「デポを回収できない事態を想定して食糧計画を立てておけよ」と思い、角幡君にもそう言ったのだが、実際に長期の旅をやってみると、デポを回収できないことを想定したら、デポの意味がないことがわかった。デポが回収できなくても旅が成り立つなら、最初からデポがなくてもいいからだ。>(P.162)

あたりまえと言えば、あたりまえ。
こんなふうにカッコつける服部さんも、私は好きだ。

角幡唯介さんの本は、私もたくさん読んできた。
『極夜行』『極夜行前』も、面白い本だった。

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■無人小屋へのデポは、事前に管理者・団体に届けてあるとはいえ、心ない登山者に荒らされる可能性がなくはない。
さいわい、服部さんの山小屋芽室岳のデポは無事だった。
ただ、天塩岳ヒュッテでも食べたスナック菓子のポリンキーが無かった!
<三日くらい前からずっとポリンキーのことを考えていたのだが、蓋を開けて中を見て、スナック菓子が天塩デポのスペシャルメニューだったことを思い出した。自分自身に期待して自分自身に騙された自分自身のばかさ加減にがっくりくる。>(P.164)

このあたりも可笑しいが、がっくりする気持ちはよくわかる。
ここまでが中盤戦の記述。

■後半戦■
2019年10月31日~11月25日。
山小屋芽室岳~幌尻岳~ペテカリ山荘~楽古山荘~襟裳岬~帯広空港。375キロ。

いよいよ、この山旅のフィナーレ、核心部だ。
日高山脈の縦走。といっても、稜線歩きは避けて、主脈西側の沢を辿る。
途中、いくつか尾根を越える。

次のデポ地はペテガリ山荘。
荷物を少しでも軽くするために、山小屋芽室岳にデポの半分を置いていくことにした。
すいぶん悩んだ末の決断。
<そうだ、食料を残しておけば、やばくなったら帰ってきて、仕切り直すこともできる。>(P.168)

この判断が、のちに裏目に出るのだが…。

■ここまで鹿ばかり撃って食料にしてきたが、キタキツネに出会い、撃ち逃す。
<ちょうど引き金を引くときにナツが吠えながらリードを引いた。完全な失中。…/「なにやってんだよ」とリードを引いて小突いた。/運ぶ重量を考えても、肉の旨味を考えても、ここでキツネが獲れたら理想的だった。ナツのせいで取り逃がした、といっても、獲物を見つけたのもナツである。ナツは私が腹を立てている理由がわからないようで困った顔をしている。>(P.171)

ナツの擬人化が面白い。ここまでも、ナツが「どうしたんですか」とか「何してるんですか」という顔をする、といった記述が多く、それが微笑ましい。

戸蔦別岳から幌尻岳へ。積雪の上を”バリズボ”歩行。
ナツの足が切れて出血するも、ナツが気にしているそぶりはない。

■新冠ポロシリ山荘(避難小屋)に二泊して休養。
その後、ナツが行方不明になる。
ナツ失踪のそれまでの最長記録が40分。それをはるかに超えて3時間たってもナツが戻らない。
服部さんは本気でナツの遭難(死亡)まで覚悟し、家族への弁解を考える。
読んでいて、ハラハラする。
<私は「ナツは死んだ」と納得するまで何日かかるのだろう。/もう戻らないとあきらめたとき、私はどこに向かうのか?/そこまで考えて、ふと「私は何のために歩いているのだ?」という自問に行き当たり、ぞわぞわと背筋が泡立つような感じがした。>(P.183)
<…ナツが戻らなかったら、「ナツは死んだ」と自分が納得し、家族に言いわけが立つまでここで待って、そのあととぼとぼと帯広に向かうということだけだ。帰宅後、もし家族が納得しなかったら、ここに家族を連れてくるしかない。/それをすべてやって、決着し、一段落した後、私はもう一度この旅をやり直すだろうか。>(P.183)

結局、ナツは3時間を過ぎた頃、幕営地の服部さんのところに戻ってきた。
さすがにバツが悪いのか、服部さんを遠巻きにしながら、なかなか近くまで来ない。
<チャイを一杯飲んでから立ちあがり、ぐるりとまわり込むようにナツとの距離を縮めていく。ナツは観念しているようだ。一メートルほどまで近づいてから、おもむろに首根っこを掴んで、手荒く持ち上げ、「どんだけ心配したかわかってんのか!」と怒鳴りつけた。/たった三時間の不在なのに、ちょっと涙声になってしまう。>(P.185)

感動的なシーンだ。

この後、面白いエピソードが続き、私にはこの「後半戦」の部分がいちばん楽しめた。

■肛門不調事件
ここまで食べるシーンはあっても、”出す”シーンがなく不満だったが、ここで肛門問題が出来。
旅の始めから、長くアスファルトを歩くと肛門の調子が悪くなり、山に入ると治るというパターンを繰り返していた。
<…肉と米しか食べない長期の冬期サバイバル登山をくり返してきた私は、繊維質の足りない大便をひり出すことが多く、肛門に古傷を抱えていた。その古傷に新冠ポロシリ山荘滞在時の二日ぶりのウンコで、痛みが走った。>(P.188)

山登りをしていた私にもよくわかる、深刻なモンダイだ。

触ってみると、古傷部分が小豆サイズに腫れている感じがするというから、イボ痔になりかけていたのだろう。
それまで、出発時に山仲間が差し入れてくれた抗生物質で、なんとかなだめてきた。
鏡がないので、コンデジ(カメラ)で接写してみたという。その姿を想像すると、笑うに笑えない。

服部さんが考えついた”処方”は、鹿の脂(これは豊富にある)を抽出し、排便前に浣腸するというもの。
問題は二つあり、その一つは、浣腸する注射器がないこと(当然のことだ)。
ポイズンリムーバー(蜂に刺されたときに毒を吸引するためか)を持っていたが、肛門に挿入する管がない。ボールペンの軸で代用する。
もう一つの問題は、鹿の脂の温度。鹿は体温が高く、鹿脂は融解温度が高いそうだ。そのため、人間の体内では、冷めて蠟のように硬くなってしまう。液状のままだと、熱すぎて直腸を火傷してしまいそう。

苦労の末、体内注入に成功。硬い便がスムーズに排出された。鹿の脂は外気温ですぐに固まり、大便は厚めの砂糖衣をまとったカリントウのようになっていたそうだ。その便は、後日、キタキツネが食べた、とも。
微に入り細を穿つリアルな描写に笑ってしまう。

<ズボンもパンツも脱ぎ、傾けて脂を寄せたフライパンから、ポイズンリムーバーで脂を吸い、若いころ複雑な気持ちで眺めた「タンポン挿入法」のイラストと同じ姿勢で、ボールペンの軸を挿入し、ゆっくりとポイズンリムーバーの軸を押した。この瞬間に、もし誰かが小屋に入ってきたら私は言いわけの余地がない変態だ。>(P.192-193)

■上記の”処方”は、デポ地のペテカリ山荘でのこと。
ここで食料不足が明確になってきた。
<デポの整理をすべく、並べてみるとペテカリ山荘のデポは、これまでのデポに比べて内容が貧弱でチャンポンや本格インドカレーのレトルトが入っていなかった。それを見て、デポ設置時「旅も後半になれば、心身ともに研ぎすまされてストイックになっているだろうから、自分を甘やかす必要はない」などと考えていたことを思い出した。/「ふざけんなよ」と過去の自分を毒づいてしまう。>(P.194-195)

ちなみに、このペテカリ山荘の写真が掲載されているが、なるほど、立派な山小屋。服部さんは何度も利用しているという。

肛門は小康状態。
初冬のペテガリ岳を、ナツといっしょに往復。
いよいよ終盤戦。荒れ模様の天気のなか、襟裳岬までの往復と、楽古山荘から楽古岳を越えて帯広空港までの道のりが控えている。外は吹雪。
米の残りがあと10日分ほどになり、一日200グラムに制限する。
山荘の水道の水も止まってしまい、ナツの食料も乏しい。

■ペテカリ山荘から楽古山荘へ。
楽古山荘には残りの地図と飛行機に乗るためのシャツをデポしてあった。
ペテカリ山荘で小屋の備蓄食料に手を出したことで”気持ちのタガが緩み”、楽古山荘でも備蓄食料を食べるつもりまんまんになっていたのだが・・・小屋に食料はなく、ミツカンの麺つゆがひと瓶と、固形燃料の缶が6個あるだけだった。
小屋には薪ストーブがあるので、固形燃料を使う必要はない。
「食いもん置いとけよ」と八つ当たりする。

※ここまでも、ずいぶん長くなってしまったので、さらに続く。

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2024年7月 1日 (月)

【読】2024年6月に読んだ本(読書メーター)

6月の読書メーター
読んだ本の数:9
読んだページ数:2290
ナイス数:150

三省堂国語辞典から 消えたことば辞典三省堂国語辞典から 消えたことば辞典感想
「新明解国語辞典」(新解)は、よく知っていて、面白いなと思っていたが、その前身に「明解国語辞典」(明国)→「三省堂国語辞典」(三国)という歴史があったとは、知らなかった。「明国」「三国」という略称も、おかしい。いずれも編者の個性(編集方針)が色濃く出ている辞典。そこから消えたことばも、懐かしかったり、時代に密着したものだったり。言葉は時代とともに生きているものだと、あらためて痛感。面白い一冊だった。図書館本。
読了日:06月02日 著者:見坊 行徳,三省堂編修所

もっと悪い妻もっと悪い妻感想
一年ほど前に出た桐野さんの新刊。といっても、次の新刊がもうすぐ出るらしい。新古書店で見かけて、よほど買って読もうかと思ったが、ページ数の割には高かったので、図書館に予約。順番がまわってくるまで、ずいぶん時間がかかった。桐野さんらしく、日常生活に潜む不気味さを抉り出す、よく出来た短編集(雑誌連載)だったが、いまひとつ満足できなかったのは残念。やはり長編で力を発揮する作家なのかもしれない。図書館から借りてきて、あっという間に読み終えた。
読了日:06月02日 著者:桐野 夏生

墜落の夏―日航123便事故全記録 (新潮文庫)墜落の夏―日航123便事故全記録 (新潮文庫)感想
日航機123便墜落事故から1年後に書かれた本。ずいぶん前に読んだかもしれないが、憶えていない。あらためて? 読んでみた。まだ事故調査報告書が出されていない時期(報告書「案」は出ていた)。事故原因と言われていた圧力隔壁破損説に基いて書かれているものの、それが尾翼破壊につながったとされることには、疑問を呈している。520人の死者とその遺族の境遇を(毎日新聞記事1985/9/12を引きながら)詳述していたり、生存者・落合さんへの単独インタビュー、関係者からの聞き取りなど、取材の丁寧さが光る。
読了日:06月09日 著者:吉岡 忍

だからあれほど言ったのに (マガジンハウス新書)だからあれほど言ったのに (マガジンハウス新書)感想
タイトルにも魅かれて読んだ図書館本。内田樹が書いた本(文章)が好きだ。実際に会ったことも話を聞いたこともない人だけれど、”武芸者”らしい?率直な文章が好ましい。何よりも様々な気付きを与えてくれる。雑多な文章が集められた中では、子どもたちを「決して傷つけず『無垢な大人』に育て上げる」ことの大切さ、というテーマに共感。また、村上春樹の創作の秘密を解き明かす「村上春樹が描く『この世ならざるもの』」には思わず膝を打った。「日本国憲法は”空語”」「日本(政府)はアメリカの言いなり」などは、いつもの”内田節”。同感。
読了日:06月10日 著者:内田樹

一日一考 日本の政治 (河出新書)一日一考 日本の政治 (河出新書)感想
うるう年の2月29日を含む1年366日、1日ごとに「日本の政治」を考えるヒントになる短い文章(著名人や無名人)を挙げ、著者による短いコメントを付したもの。1日分が新書の1ページにまとめられているので、ときどき開いて読み続けた。6月18日(連合赤軍事件の公判、永田洋子の死刑判決の日)の項、桐野夏生『夜の谷を行く』から引用された部分。原武史さんと桐野夏生さんの対談を思い出した。天皇・皇室関係が多いのも、原武史さんらしい。引用された文章には、知らなかった人物も多く、刺激を受けた。
読了日:06月13日 著者:原武史

書くことの不純 (単行本)書くことの不純 (単行本)感想
今年1月に出た角幡さんの新刊。元新聞記者の角幡さんの文章は、論理的でしっかりしているのだが、私にはなかなか難しい内容だった。加藤典洋、三島由紀夫、開高健らの作品・文章を引きながら、行為と表現にまつわる彼自身の悩みを縷々、書き綴っている。三島由紀夫『金閣寺』を読み込んでいることに、驚いた。読書家なんだな。角幡さんの登山観・冒険観が出ている部分は興味ぶかく、なかでも「羽生と栗城」の章が面白かった。夢枕獏『神々の山嶺』は私の愛読書なので。
読了日:06月17日 著者:角幡 唯介

ノイエ・ハイマートノイエ・ハイマート感想
池澤さんのファンなので、この新刊を知って図書館から借りてきた。「短編と詩、引用などからなる雑多な構成」は意図的なもの。いかにも池澤さんらしい試みだ。”難民”をテーマに、フィクションでありながらリアリティーがあり、胸に迫る。なかでも、満州からの引揚者(これも難民)を描いた『艱難辛苦の十三個月』と、レバノンからの難民(密航者)を描いた『サン・パピエ』の2編がよかった。池澤さんのいい読者ではないが、過去の作品をあらためて読んでみようと思う。メルマガをまとめた『新世紀へようこそ』(正・続2冊)も読むつもり。
読了日:06月19日 著者:池澤 夏樹

オパールの炎 (単行本)オパールの炎 (単行本)感想
桐野夏生さんの新作。「中ピ連」(中絶禁止法に反対しピル解禁を要求する女性解放連合)の活動で、いっとき有名になった榎美沙子がモデル――ということを知らずに読み始めた。最後に明かされる”執筆者”(40歳のノンフィクションライター)が、主人公・塙玲衣子の関係者を取材して得られた証言を積み重ねて行く構成。桐野さんらしい凝った仕掛けだ。巻末の謝辞にある木内夏生氏は、どうやら榎美沙子の夫だった人物(ネット検索でどういう人物なのかわかる)。実名小説にしなかったのは、本人を含め関係者が存命だからか。面白い小説だった。
読了日:06月27日 著者:桐野 夏生

九十歳。何がめでたい九十歳。何がめでたい感想
上映中で評判になっている映画を、昨日観た。映画が面白かったので、原作を読んでみようと図書館から借りてきた。地元の図書館には6冊収蔵されているのだが、かろうじて1冊、貸し出されていないものがあった。佐藤愛子さんが書いた本は、たぶん初読。軽妙なエッセイ集。今日借りてきて、あっという間に読み終えた。8年前に週刊誌に連載されたものだが、90歳とは思えない元気な様子(今年、100歳を超えている!)。さわやかな読後感。この人の小説も読んでみようかなと思う。
読了日:06月30日 著者:佐藤愛子

読書メーター

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2023年9月 1日 (金)

【読】2023年8月に読んだ本(読書メーター)

2023年7月。
高野秀行さんの『イラク水滸伝』(自腹で購入)を読むのに時間がかかり、たくさん読めなかった。

8月の読書メーター
読んだ本の数:6
読んだページ数:1825
ナイス数:106

子どもお悩み相談会-作家7人の迷回答 (単行本)子どもお悩み相談会-作家7人の迷回答 (単行本)感想
子ども相談室形式だが、実際の相談ではなく、面白みに欠ける。角田光代、高野秀行、三浦しをん、の三人の「回答」は、味わいがあって、良い。高野さんの「『ありがとう』と言わない民族は、世界的にはたいへん多い」との話。さすが、世界中を訪ね歩いている高野さんの言葉には説得力がある。子ども向けの本なので、さっと読めた。
読了日:08月02日 著者:角田 光代,高野 秀行,髙橋 秀実,津村 記久子,東 直子,町田 康,三浦 しをん

 

旅人の表現術 (集英社文庫)旅人の表現術 (集英社文庫)感想
角幡唯介さんの集英社文庫4冊目。雑誌掲載記事、対談、他者の本の解説文などを集めた雑文集。沢木耕太郎との対談、三浦しをんとの対談が面白かった。あらためて思ったのだが、角幡唯介さんの文章は、けっこう理屈っぽい。けっして嫌いではなく、彼の本は、出るたびに読んでいて、好きな書き手なのだが。
読了日:08月07日 著者:角幡 唯介

 

イラク水滸伝イラク水滸伝感想
分厚くて読み応えがあり、読み終えるまで予想外に時間がかかった。文化人類学者顔負けの、(謎の)イラク巨大湿地帯探検。高野さんらしいアプローチ。読んでいて肩が凝らない楽しさ。水滸伝になぞらえて「ジャーシム宋江」「マフディ盧俊義」「アヤド呉用」などと綽名を付けるあたりも、高野さんらしいウィット。木の舟「タラーデ」、目を瞠るばかりの美しい布「マーシュアラブ(アザール)」の発見は、高野さんならでは。いずれ英語版とアラビア語版を出したいという。すばらしい。図書館へのリクエストを待ちきれず自腹で購入。2200円は安い。
読了日:08月20日 著者:高野 秀行

アジア新聞屋台村 (集英社文庫)アジア新聞屋台村 (集英社文庫)感想
高野さんの著作の落穂拾い。タイトルが絶妙。多少フィクションが混じっているかもしれないが――登場人物はすべて仮名、著者の<自伝的>物語として読んで欲しいとの断り書きあり――高野さんがのめりこんだ奇妙な会社「エイジアン」での多国籍新聞編集の現場は、まさに「アジア新聞屋台村」。女性社長の劉さんを筆頭とする魅力的な人物たちと高野さんとのやりとりが生き生きと描かれている。どことなくクールな筆致、とっつきやすい文章が、いい。2005年-2006年雑誌連載。2006年単行本発行。2009年文庫化。高野さんの青春時代。
読了日:08月24日 著者:高野 秀行

極楽タイ暮らし―「微笑みの国」のとんでもないヒミツ (ワニ文庫)極楽タイ暮らし―「微笑みの国」のとんでもないヒミツ (ワニ文庫)感想
高野秀行本の落穂拾い二冊目。ずっと本棚に眠っていた。高野さんには膨大な著作があって、読むのが追いつかない。買っても読まないままの文庫本が、まだ何冊か。ひとつ前に読んだ『極楽タイ暮らし』にもチラッと出てきたこの本。タイ通を自任する高野さんならではの、タイの人々とその暮らし、考え方が生き生きと描かれた傑作。2000年刊。
読了日:08月28日 著者:高野 秀行

極楽アジア気まぐれ旅行 (ワニ文庫)極楽アジア気まぐれ旅行 (ワニ文庫)感想
これも高野秀行本の落穂拾い。姉妹作『極楽タイ暮らし』よりも、バラエティーに富んでいるぶん、面白かった。『アジア新聞屋台村』に描かれた多国籍新聞社(本書では「アジア屋台村新聞」と表記されている)の正体を知ることもできた。「ニューコム新聞社」といって、いまでも実在している。新聞以外にも多様な事業を営んでいるらしいところも、経営者(高野さんが紹介している台湾人女性)の姿が見えるようで興味深い(ウェブサイトを見ると、創業者のこの女性の名前はなかったが)。https://www.newcom.or.jp/
読了日:08月30日 著者:高野 秀行

読書メーター

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2023年8月 2日 (水)

【読】角幡唯介さんと北極圏探検

所属している「小平図書館友の会」の会員向け交流紙に寄稿する、「おすすめの本」の紹介。
下に転載しておこう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
角幡唯介 『極夜行』

文藝春秋 2018/2/10 333ページ
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『裸の大地 第一部 狩りと漂泊』
集英社 2023/3/25 284ページ
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『裸の大地 第二部 犬橇事始』
集英社 2023/7/10 357ページ
https://amzn.to/3ShZJtr

角幡 唯介(かくはた ゆうすけ)
1976年生まれ。ノンフィクション作家・探検家。早稲田大学探検部OB。

余談から――。角幡さんの実家は北海道芦別市でスーパーマーケットを営んでいたという(今は廃業)。私の母の実家があった美瑛町(芦別市から遠くない)に「カクハタ」という店があったことを、母が遺した日記で知り、親しみを感じた。
ここにあげた三冊は、角幡さんの北極圏(グリーンランド)探検(冒険?)の記録。本人は「漂泊」と表現している。野生動物を狩りながらの、行き当たりばったり的な旅だ。もちろん、当初の計画・目標はある。
犬を一匹だけ連れて橇を引いての徒歩旅から、やがて現地のイヌイットに倣って犬橇を使う狩猟の旅へ。その軌跡を追うのが面白い。GPSに頼らない、人力の、命がけといってもいい旅は身震いするほどの緊迫感にあふれている。
『極夜行』は「極夜」(一日中、太陽が出ない日、白夜の正反対)の中の過酷な旅。
『犬橇事始』では、はじめて犬橇に挑戦するも、エスキモー犬の調教の難しさが、これでもか、これでもかと執拗に綴られる。
「裸の大地」は三部作になるという。いつ出るかわからないが三作目が楽しみだ。

ウェブサイト
惑星巡礼 角幡唯介 | 集英社学芸部
https://gakugei.shueisha.co.jp/yomimono/wakuseijunrei/list.html

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単行本を図書館から借りて読んだが、たぶん、文庫化されたら買ってしまうだろうな。
(『極夜行』は、すでに文庫化されているが)

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2023年7月31日 (月)

【読】沢木耕太郎さんと山崎ハコさん

角幡唯介さんの書くものが好きで、よく読んでいる。

まだ読み始めたばかりの、この本に、沢木耕太郎さんとの対談が掲載されている。

角幡唯介 『旅人の表現術』 集英社文庫 (2020/2/25) 335ページ
https://amzn.to/3WvzVfP

驚いたことに、沢木耕太郎さんが山崎ハコさんのデビュー・アルバムに言及している。

対談の前後の脈略を無視して、その部分だけを下にあげる。

「歩き、読み、書く ノンフィクションの地平」(上掲書 P.74)
 初出:「考える人」 2012年秋号[No.42]
 2012年10月4日刊行(新潮社)

沢木
(前略)
一九七〇年代にデビューした山崎ハコさんという女性歌手がいます。最初のアルバムが素晴らしい出来で、でも二枚目、三枚目はなかなかヒットしない。山崎さんがあるときこう言っていました。「それは当たり前だと気づきました。だって十七歳の全人生が最初の一枚にはこもっていたんです。そのあとの一年、二年をこめたものより一枚目がいいに決まってる。そう思えるようになりました」
(後略)

この、ハコさんの言葉を、沢木さんはどこで聞いたのだろうか。
(「あるときこう言っていました」)
とても気になる。

ネット検索などではみつからない。
沢木さんの対談集かインタビュー集などに載っているのだろうか?
それとも、何かの機会でハコさんと話したのか?

妙に説得力のある、ハコさんの言葉なのだが…。

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2015年1月 9日 (金)

【読】角幡唯介さんのエッセイ集

今日も冬晴れ。
午後、小平の歯科医へ。
年末に欠けた歯の治療。
詰め物を取り、型をとって、小一時間かかった


数日前、録画しておいたドキュメンタリーを観た。
角幡唯介さんと、千日回峰をなしとげた僧侶(塩沼亮潤氏)の対談で、これがすこぶる面白かった。

SWITCHインタビュー 達人達(たち) - NHK
http://www4.nhk.or.jp/switch-int/

過去3ヶ月の放送 - SWITCHインタビュー 達人達(たち) - NHK
http://www4.nhk.or.jp/switch-int/5/ より

 2014年12月 6日 (土) NHKEテレ1 午後10時00分~放映

<地球最後の未踏地帯を単独踏破した探検家・角幡唯介と、千日回峰行という命がけの荒行を達成した僧侶・塩沼亮潤。極限状態を経験してきた2人による生と死をめぐる対話。
チベット奥地の峡谷で食糧が尽き野たれ死にしそうになったり、雪崩で生き埋めになったり、幾度も死に直面しながら探検を続けてきた角幡は、千日の間1日も休まず48kmの山道を往復する千日回峰行、9日間飲まず食わず眠らずを貫く四無行などを達成してきた大阿闍梨のもとへ向かう。「過去の人生の映像が見える」臨死体験などをへて塩沼がたどり着いた境地とは?探検家と修行僧が、自然と己と対峙しながら見つめた「命の姿」とは。
【出演】探検家…角幡唯介,僧侶…塩沼亮潤,【語り】吉田羊,六角精児>

SWITCHインタビュー ここだけの話:NHK (ブログ) も面白い
http://www.nhk.or.jp/switch-int-blog/

角幡唯介さんの姿を(写真以外で)はじめて見た。
なかなか魅力的な人だ。
そして、千日回峰というとんでもない修業を成し遂げた塩沼亮潤氏。
この人がまた、すごい。

【参考サイト】
塩沼亮潤大阿闍梨 | 福聚山 慈眼寺

http://shionuma-ryojun.jp/

大峰千日回峰行は、奈良県吉野山にある金峯山寺蔵王堂から24㎞先にある山上ヶ岳(1719m)頂上にある大峰山寺本堂までを1000日間往復する修行です。
毎年5月3日の戸開け式から9月22日の戸閉め式まで、1日48㎞の山道を約4か月、120数日間を行の期間と定め9年の歳月をかけて歩きます。
1度この行に入ると途中でやめることは決して許されません。万が一途中で行をやめざるを得ないと判断したならば、所持している短刀でもって自ら腹を切り、行を終えるという厳しい掟があります。>
 ―上記サイトより―

たまたま見つけて録画しておいたのだが、こんな面白い番組のあることを知らなかった。
なにしろ、テレビ番組をほとんど気にしないで暮らしているものだから。


あらためて、角幡唯介さんのエッセイ集が二年前に出ていることを知り、ネット注文した。
今日、本屋で受けとってきた。
面白そうだ。

角幡唯介 『探検家、36歳の憂鬱』
 文藝春秋 2012/7/20発行 237ページ 1,250円(税別)

<大宅賞作家による初の冒険エッセイ集。受賞作『空白の5マイル』の舞台となったチベット・ツアンポーや、今秋書籍化される『アグルーカの行方』の舞台、北極、その他これまで冒険してきた各地で感じたことと今につながる意識。また、雪崩に三度遭い、死の淵で味わった恐怖、富士登山ブームの考察、東日本大震災の被災地を訪ねて、など読者を様々な場所へ旅させます。赤裸々に語る、探険家として、死に自ら近づいていってしまう性やジレンマについては、胸に迫るものがあります。生と死について、読者それぞれの思いを抱くことでしょう。
冒頭の2作「探検家の憂鬱」と「スパイでも革命家でもなくて探検家になったわけ」で、角幡唯介さんの人となりも知ることができます。
 最後に収められた「グッバイ・バルーン」では、朝日新聞の記者時代に取材した冒険家、神田道夫さんの生き様を、いま再び浮かび上がらせます。本書を読み終える頃には、「探検家、36歳の憂鬱」が何であるのか、腑に落ちるでしょう。そしてきっと「角幡唯介」に会いたくなるはずです。>
 ― Amazon ―

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2014年10月16日 (木)

【読】高野秀行・角幡唯介の対談を読む

早稲田大学探検部のOB二人の対談。
タイトルがいい。
「地図のない場所で眠りたい」――編集者のアイディアなのか、二人の意向なのか不明だが、探検家・冒険家の心意気が伝わってくる。

高野秀行・角幡唯介 『地図のない場所で眠りたい』
 講談社 2014/4/24発行 293ページ 1,500円(税別)
https://amzn.to/4cP4xi6

高野さんは1966年生まれ、角幡さんは1976年生まれ。
ちょうど10歳ちがいで、早大探検部時代に接点はなかったという。

高野さんの本は、これまでたくさん読んできたが、角幡さんのものは読んだことがない。

角幡さんの代表作。
『空白の五マイル』 (開高健ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞)
https://amzn.to/4cOXPZh

『雪男は向こうからやって来た』 (新田次郎文学賞受賞)
https://amzn.to/3zQKnWl

『アグルーカの行方』 (講談社ノンフィクション賞受賞)
https://amzn.to/4f9vZsr

どれも、タイトルからして面白そうだ。
三冊とも文庫化されている(集英社文庫)。
ネット注文したので、近々、書店に届くはず。
楽しみだ。

この対談では、ふたりのライターとしての苦心が伝わってきて、興味ぶかかった。

付録として、ところどころに「探検を知る一冊」というブックガイドがあり、どれも興味深い本ばかり。

三冊目の「サードマン」の本は、以前、図書館から借りて読んだことがある。

→ 過去記事 2013年8月23日 (金)
 【読】シャクルトンのサードマン: やまおじさんの流されゆく日々
http://yamaoji.cocolog-nifty.com/blog/2013/08/post-fb2c.html

二人もこの本に感銘を受けたのだと思うと、うれしかった。

いちど読んだけれど、文庫化されているようなので、買おうかなと思う。

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2014年10月14日 (火)

【読】軽めの本を読む

台風19号が足早に関東地方を通過。
昨夜は強い雨風だったものの、夜が明ければ快晴。
風もおさまった。

ただ、その後強い北寄りの風が吹きはじめて、夜まで続いている。

この台風一過で、いっきに秋が深まったようだ。
涼しくなった。
北海道からは初雪のたよりも。


きのうまで、難しい岩波新書を読んでいて疲れたので、軽めの本を読んでいる。

早大探検部出身のノンフィクション作家二人の、軽妙な対談。
面白い。

高野秀行・角幡唯介 『地図のない場所で眠りたい』
 講談社 2014/4/24発行 293ページ 1,500円(税別)

角幡さんが、北海道芦別市出身だと知った。
実家はスーパーを経営していて、チェーン展開していたとか。
(廃業して、今はないらしい)

そういえば、かつて美瑛にも「かくはた」という店舗があったが、関係あるのかもしれない。
ネット検索してみたところ、富良野にもあったようだ。

以下、本書の概要紹介。
いつものように、e-honサイトから。

[要旨]
探検家前夜から、探検の実際、執筆の方法論、ブックガイド…。伝説の「早稲田大学探検部」出身の二人が縦横無尽に語り尽くす。付録・探検を知る一冊。

[目次]
第1章 僕たちが探検家になるまで
第2章 早稲田大学探検部
第3章 作家として生きること
第4章 作品を語る
第5章 探検の現場
第6章 探検ノンフィクションとは何か

[出版社商品紹介]
講談社ノンフィクション賞同時受賞の二人の探検家。早大探検部の先輩と後輩が語る探検の神髄、探検の実際、執筆から書籍紹介まで。

おすすめコメント
誰もが「探検」の魔力に取り憑かれる一冊。講談社ノンフィクション賞同時受賞記念刊行! 高野秀行と角幡唯介は、早稲田大学探検部の先輩・後輩の関係にある。角幡は、高野の『西南シルクロードは密林に消える』(講談社)を読んで探検ノンフィクションを志したという。二人にとって、探検とは、冒険とは何だろうか。探検家前夜から、探検の実際、執筆の方法論、ブックガイドまで、縦横無尽に語り尽くす。

著者紹介
高野 秀行  (タカノ ヒデユキ)
1966年、東京都八王子市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。同大探検部在籍時に執筆した『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)でデビュー。タイ国立チェンマイ大学日本語講師を経て、ノンフィクション作家となる。『謎の独立国家ソマリランド』(本の雑誌社)で講談社ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞。
角幡 唯介  (カクハタ ユウスケ)
1976年、北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。同社退社後、チベットや北極圏を中心に探検活動を続ける。『空白の五マイル』(集英社文庫)で開高健ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞。『雪男は向こうからやって来た』(集英社文庫)で新田次郎文学賞受賞。『アグルーカの行方』(集英社)で講談社ノンフィクション賞受賞。

角幡さんの書いたものを読んだことがないが、面白そうなので、こんど図書館から借りてみようかな。
文庫版なら、買ってもいいな。

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