カテゴリー「こんな本を読んだ」の756件の記事

2024年9月 1日 (日)

【読】2024年8月に読んだ本(読書メーター)

8月の読書メーター
読んだ本の数:10
読んだページ数:2632
ナイス数:126

あのころ、天皇は神だったあのころ、天皇は神だった感想
タイトルに惹かれ、図書館から借りて読んだ。先の大戦、アメリカに住んでいた日系人の排斥、強制収容を体験した家族の様子が小説の形で描かれている。翻訳で読んでも伝わってくる詩的で端正な文章が魅力的。章ごとの人称の変化も巧み。作者の自身の祖父母と母、母の弟(作者の叔父)の苦難が淡々と描かれている。いい作品だ。『屋根裏の仏さま』という続編も、機会があれば読んでみたい。訳者あとがきで紹介されている「日系アメリカ人の歴史ポータルDensho」も読んでみたい。→http://nikkeijin.densho.org
読了日:08月02日 著者:ジュリー・オオツカ

エベレストには登らないエベレストには登らない感想
大好きな書き手なので、タイトルに惹かれて購入、読んでみた。2019年末に刊行されていたこの本は、見落としていた。雑誌「BE-PAL」に連載された短いエッセイを集めたものなので読みやすい。2017年に雑誌掲載された文章が最後。ちょうど『極夜行』が刊行される直前なので、犬橇を始める前の時期だ。本書の最後のエッセイに、犬橇への転換を思いたった事情が書かれている。現在も「BE-PAL」連載が続いているようなので、その後の文章を集めた単行本の刊行が待たれる。
読了日:08月07日 著者:角幡 唯介

探検家、36歳の憂鬱探検家、36歳の憂鬱感想
積読本、ようやく読了。十数年前の文章を集めたエッセイ集。ところどころ理屈っぽいところもあるが、面白かった。なかでも「震災――存在しなかった記憶」では、東日本大震災のとき北極圏にいたために震災を体験できなかったことの”欠落感”が綴られていて、興味深い。帰国後、被災地を訪れたときの体験談(大槌町で出会った被災者との邂逅)がいい。その他、雪崩体験、富士登山ブームの考察、熱気球冒険家の神田道夫さんの話なども、よかった。角幡さんの『探検家、40歳の事情』『探検家の憂鬱』『探検家の事情』などのエッセイ集も読みたい。
読了日:08月10日 著者:角幡 唯介

探検家の事情 (文春文庫 か 67-2)探検家の事情 (文春文庫 か 67-2)感想
『探検家、40歳の事情』(文藝春秋/2016年)の文庫版。単行本を増補・改訂、改題。単行本と文庫本の両方を図書館から借りてみて、はじめて同じ本だと知った(書名が微妙に違っていたので、ひょっとして別の本かと誤解)。前作『探検家、36歳の憂鬱』(これも『探検家の憂鬱』と改題、増補・改訂して文庫に)の続編。36歳当時の『憂鬱』よりも面白かった。4年のあいだに著者の境遇、体験が大きく変化している。巻末に追加されている宮坂学ヤフー会長との対談も興味深い。角幡さん、探検記やドキュメントもいいが、エッセイも読ませる。
読了日:08月13日 著者:角幡 唯介

探検家の憂鬱 (文春文庫 か 67-1)探検家の憂鬱 (文春文庫 か 67-1)感想
つい最近、親本の単行本『探検家、36歳の憂鬱』を読んだばかりだったので、この文庫は増補部分だけ読んだ。「極地探検家の下半身事情」は、扱っているテーマを照れることなく考察していて好感が持てる。単行本にもあったブログ記事の抜粋の、文庫追加分も面白い。ネット公開されているらしい角幡さんのブログも読んでみたい。巻末「文庫版あとがきに代えて」という副題の「イスラム国事件に対して思うこと」は、この衝撃的な事件に対する、冒険家・角幡さんならではの感じ方、受け止め方が前面に出ていて、共感した。
読了日:08月13日 著者:角幡 唯介

JAL123便墜落事故真相解明: 御巣鷹山ファイルJAL123便墜落事故真相解明: 御巣鷹山ファイル感想
JAL123便墜落事故をネットで調べていて知った。墜落原因を自衛隊の無人標的機衝突による垂直尾翼破壊とし、さらに証拠隠滅のため自衛隊のミサイルによる”とどめ”とする、いちばん過激な説を展開。当時の新聞・週刊誌記事の引用などによって自説の裏付けをしているのだが、かなり強引な(見てきたような)記述が続く。なによりも文章と本の構成が稚拙――「である」の乱発にうんざり。それでも「あったかもしれない」説のひとつとして気にはなる。私自身は、無人標的機の衝突→垂直尾翼の破壊があったと思う(圧力隔壁説はウソだと思う)。
読了日:08月23日 著者:池田 昌昭

JAL123便は自衛隊が撃墜した: 御巣鷹山ファイル2JAL123便は自衛隊が撃墜した: 御巣鷹山ファイル2感想
ざっと流し読み。前作『御巣鷹山ファイル JAL123便墜落「事故」真相解明』(文芸社1998年1月)の続編。前作と比べて特に目新しさはなく、くどくどしい文章に嫌気がさして、著者の独白めいた部分は読み飛ばした。書名が示すように、著者はJAL123便の最後は自衛隊機によるミサイル射撃(右エンジンに命中)によって、いわば”とどめ”を刺された形で墜落したという(仮説だが、あたかも真相のように断定)。せっかく当時の新聞記事を引用しているのだから、もっと綿密な検討経緯がわかる記述にすればいいのに。構成がめちゃくちゃ。
読了日:08月24日 著者:池田 昌昭

JAL123便空白の14時間: 御巣鷹山ファイル3JAL123便空白の14時間: 御巣鷹山ファイル3感想
シリーズ3冊目。これも、ざっと流し読み。帯に「…ボイスレコーダーを無人標的機の接触から墜落までを独自の仮説で大胆に再現!」とあるが、著者の大胆な仮説――自力でなんとか不時着しようとしていたところを自衛隊機から発射されたミサイルによって”撃墜”された――の裏付けが希薄。「第Ⅱ部 仮説・ボイスレコーダー」も著者の妄想でしかなく、読み飛ばし。挿入されている図表の説明もなく、どこまで裏付けに基いているのかも不明。この著者の本を知るきっかけになったネット記事にも「眉唾」との評があったが、同感。参考資料として読んだ。
読了日:08月25日 著者:池田 昌昭

探検家の日々本本 (幻冬舎文庫)探検家の日々本本 (幻冬舎文庫)感想
長いこと積読本だった単行本で読み始め、途中から文庫版(あらたに購入した)に乗り換えて読了。角幡さん、そうとうな読書家だ。巻末の書名索引を見て、その幅広い読書に驚いた。書評的な文章も参考になるが、読み込んだ本をテーマに書かれた長めのエッセイも読み応えがある。2015年2月発行(単行本)。ちょうど「極夜行」を計画していた頃の、探検への思いが詰め込まれている。
読了日:08月26日 著者:角幡 唯介

日航123便墜落事件 隠された遺体日航123便墜落事件 隠された遺体感想
青山透子さん(ペンネーム)の最新刊。第二章「看護婦が見た隠された遺体」で新事実が明らかにされる。JAL123便の機長の遺体が8月12日の事故後の翌々日14日(検死の初日)に発見され、遺体安置所に運ばれて検死を受けていたこと。機長の制服もない丸裸だったこと。乗客が付ける酸素マスクが付けられていたこと。一般乗客とは別の出入口から安置所に搬入・搬出されたこと。これらが当時、検死にあたっていた看護婦の証言から明らかにしている。事故機機長の遺体が闇に葬られたということで、いよいよ墜落原因隠蔽工作が疑われる。
読了日:08月30日 著者:青山 透子

読書メーター

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2024年8月 1日 (木)

【読】2024年7月に読んだ本(読書メーター)

2024年7月は、2冊しか読めなかった。

椎名誠さんの文庫は、6月末から読み始めたものの、中断が長くなり、ようやく月末に読了。
7月はじめの北海道旅行にも持って行ったのだが…。

 7月の読書メーター
読んだ本の数:2
読んだページ数:505
ナイス数:61

北海道犬旅サバイバル北海道犬旅サバイバル感想
5か月前に読んだばかりだが、わけあって再読。図書館本で読み始め、途中で自腹購入。あらためて面白かったのは、旅の終盤、楽古山荘から襟裳岬までの往復の途中、想定外のカンパ(ファンからの食糧カンパと、謎のおじさんからの少なからぬ現金カンパ)に動揺しながら、それまでの無銭サバイバル旅とのギャップに悩む姿だった。お金の使い道に迷う自分を面白がっているようなところに好感が持てる。服部流サバイバルの集大成ともいえる旅の記録は、貴重だ。旅程の地図が役立つ。惜しむらくはナツとのカラー写真が(カヴァー写真以外に)欲しかった。
読了日:07月20日 著者:服部文祥

すばらしい暗闇世界 (新潮文庫 し 25-43)すばらしい暗闇世界 (新潮文庫 し 25-43)感想
シーナさんらしい軽妙なエッセイ集。ナショナルジオグラフィック(通称ナショジオ)の特集をたくさん引いているのも興味深い。「生肉族の誇り」と題された文章で「エスキモー」がけっして蔑称ではないことを知った。エスキモー:生肉を食う人びと――生肉を食らう奴ら、という差別意識に満ちた呼称と思われていた――この呼称の何が悪い、というくだり。彼ら自身、自らをエスキモーと呼ぶ。生肉が本当に好きだし、そのことに誇りさえ持っている、とシーナさんは言う。森林限界を超える地域で植物からのビタミン摂取ができない彼らの知恵なのだった。
読了日:07月31日 著者:椎名 誠

読書メーター

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2024年7月21日 (日)

再読 服部文祥『北海道犬旅サバイバル』(続々・終)

思いがけず長い投稿になってしまったが、これで終わりにしたい。

服部文祥 『北海道犬旅サバイバル』 (みすず書房、2023年9月)
https://amzn.to/4bWQJAG

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■終盤戦■  (続き)
2019年10月31日~11月25日。
山小屋芽室岳~幌尻岳~ペテカリ山荘~楽古山荘~襟裳岬~帯広空港。375キロ。

■楽古山荘から襟裳岬まで往復。
天気が悪くなり、食料不足も重なって、北海道の南端・襟裳岬まで往復することに意味があるのか迷う。
襟裳岬までに宿泊(野宿)可能なポイントは少なく、焚火を熾すには人目を避けなければならない。焚火を熾すなら、日数の短縮は無理だ。
そこで、突然ひらめいたのは、固形燃料! という発想だった。
楽古山荘に誰かが置いていったもの。
「燃料置くなら食いもん置いとけ」と毒づいた固形燃料を使えば、焚火しなくてすむ。
ただし、食料不足は解決していない。
毎日飲み続けてきたチャイも、茶葉だけは豊富に残っているものの、砂糖とミルクパウダーの残りがわずか。
濃いチャイと薄いチャイを作り分けることに。
鹿だけは、獲ることができた。

■11月17日、襟裳岬へ向けて出発。
山越えの藪漕ぎから林道へ。そこから国道に出る。
郵便局の横の公衆電話で”神のお告げ”(天気予報)をテレフォンカードを使って聞く。

神社の横のガレージに、厳密にいえば不法侵入になるかもしれないと思いつつ、一泊する。

コンビニを目にして、もし100円拾ったら何を買うか、妄想する。
500円硬貨だったら、牛乳と砂糖だな、などと。

メイン道路の交差点に料亭があり、店の裏にまわり込んでゴミバケツを探す。
服部さん、旅の終わりに、かなり逼迫している。
町はずれの住宅街のゴミ箱まで覗いている。
<…運よく燃えるゴミの日だった。捨てたばかりと思われる袋をちょっと持ち上げると、底に溜まった生ゴミの水分にミニトマトが浮かんでいた。一瞬悩んだが、取り出すほどではない。つぎのゴミ袋を持ち上げたとき、目の前の玄関が開き、おじさんがゴミ袋を持ったまま私を見て固まっていた。/「おはようございます」と言い捨てて、走って逃げた。残飯の誘惑に負け、いつのまにか、ひと目を気にしなくなっていた。>(P/215)

■この後、服部さんにとって僥倖ともいえるできごとが続く。
ゴール地の襟裳岬に着き、10分ほど滞在。写真を撮って往路を戻る途中、車が止まって「服部さんですよね?」と。
夫が服部さんのファンで、朝、車から見かけて、頼まれたという女性。
著書にサインをせがまれ、「サインの代わりってほどおれのサインに価値があるとは思っていませんが…」と、食料をせがんでみる。「なんでもいいです。米、麺、餅…」。いったん走り去った女性、その先で追いついてきて、おにぎり、五合ほどの生米、カップ麺数種類、羊羹、パンの缶詰、リンゴ、アルファ米…と、夢のような食料の山が手に入る。
足取りも軽く幌満近くの神社のガレージに帰っていった。

■その途中、観光案内所の「休憩所コーヒー無料」の掲示にひかれて、ふらふらと中に入る。
インスタントコーヒーとスティックシュガーとクリープの小ビンが、ポットのお湯とともに置いてあった。瓶はクリープだが、中身は植物油脂を使った安物だったと言いながら、残り少ないミルクパウダーを全部、お湯に溶かしてナツにも分けてやる。

「忘れ物」と書かれた箱に、オモチャがいくつかとプリッツ(菓子)の旨サラダ味があった。
受付の女性に「この忘れ物のお菓子、誰もとりにこないんじゃない?」と、つい聞いてしまうが、「くると思いますよ」とあっさり答えられて、がっかりする。が、受付の女性がナツに気をとられている隙に、ちゃっかりズボンに挟んで、頂戴してしまう。…こうなると犯罪者の一歩手前だが、憎めない。

<小袋を開けてプリッツを食べながら「月日は流れ、世界は変わった」と強く意識した。カウンターに座っていたのがおばさんで、私が若い旅人なら「お菓子の忘れ物なんかもっていっていいわよ」と言ってもらえたはずだ。だが、もはや私は五〇歳のオッサンで、相手もおばさんではなかった。世の中は変わったのだ。>(P.222)

■翌日、さらにラッキー過ぎる出来事が。
薄暗いうちにガレージを出て楽古山荘に向かう。
いきなり「おい、あんた」と呼び止められる。「犬連れてる、あんただよ」とさらに強調したのは、赤い自販機の前に立っているオッサン。ガレージ泊とプリッツの件で後ろめたさがあるため、「ども、おはようございます」と、関わりを避けたかったのだが「おう、茶、飲んでいけよ。なにがいい」と、おっさんは自販機に小銭を入れたので、安堵する。ミルクティがなかったので、温かくてカロリーが高そうなココアを指さし、おごってもらう。

この後、オッサンの質問攻めにあうが、その質問がいちいち的を射ている。服部さんは「本質的なことを理解するのが速いな」と思った。
さんざん旅の意義などをしゃべったところで、最後にオッサンが
「面白い話だった。正直、驚いた」と言いながら、ポケットから財布を出した。
「おれが餞別をやるって言ったらどうする?」
返答に窮しているあいだに、オッサンは財布から千円札を3枚と小銭入れの中身を全部出して置いていった。「小銭だよ」と言いながら。(オッサンの財布には一万円札が二十枚くらいあふれ出していた)
「けっこうあったな」とオッサンは笑い、「面白い話の礼だ。いらなかったら、そのへんの神社の賽銭箱に入れちゃいな。あばよ」と言って、軽トラに乗り込むや、振り向きもせずに立ち去った。

<オッサンもオッサンとの会話も白昼夢のようだったが、私の右手には千冊三枚とけっこうな量の小銭があった。/かすかな罪悪感から私はいくらあるのか確認せずにお金をポケットに入れて、立ち上がり、逃げるようにその場を去った。>(P.228)

もう、さすがにだれも来ないだろうというところで、ポケットのお金を数えてみると、4760円あった。
まるで落語のような展開に、笑ってしまう。

■その後の展開はもう書かないが、服部さんは、旅の最後、思いがけず、”にわか長者”のようになってしまった。
現金も免許証も持たないと決めた旅の最後に、だ。
こんな大金をどうしようか、何を買って食べようかと、急に悩みだす姿が微笑ましく、後味のいい結末だった。

(おしまい)

【追記 2024/7/22】
読書メーター
https://bookmeter.com/login
に掲載の感想文(255文字までの制約あり)
https://bookmeter.com/books/21493849

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再読 服部文祥『北海道犬旅サバイバル』(続)

服部文祥 『北海道犬旅サバイバル』 (みすず書房、2023年9月)
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2024/7/12~7/20 再読
2024/2/18~2/19 初読

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昨夜読み終えた、この本の感想の続き。

■中盤戦■  (続き)
2019年10月17日~30日。
天塩岳ヒュッテ~山小屋芽室岳。193キロ。

山小屋芽室岳のデポは、そもそもヌプン小屋に置く予定だったという。
ヌプン小屋への林道が豪雨で壊れ、デポ設置が丸一日行程になるとの情報を得て、登山口近くにある山小屋芽室岳(ここも無人の避難小屋のひとつ)に変更していた。

ここで、角幡唯介さんの著作『極夜行』に触れている。
<角幡(唯介)君の極夜行は、デポが白熊に荒らされていることが発覚してから、がぜん面白くなっていった。連れている犬まで食べるかという窮地に追い込まれるのだ。/その報告を読んだとき「デポを回収できない事態を想定して食糧計画を立てておけよ」と思い、角幡君にもそう言ったのだが、実際に長期の旅をやってみると、デポを回収できないことを想定したら、デポの意味がないことがわかった。デポが回収できなくても旅が成り立つなら、最初からデポがなくてもいいからだ。>(P.162)

あたりまえと言えば、あたりまえ。
こんなふうにカッコつける服部さんも、私は好きだ。

角幡唯介さんの本は、私もたくさん読んできた。
『極夜行』『極夜行前』も、面白い本だった。

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■無人小屋へのデポは、事前に管理者・団体に届けてあるとはいえ、心ない登山者に荒らされる可能性がなくはない。
さいわい、服部さんの山小屋芽室岳のデポは無事だった。
ただ、天塩岳ヒュッテでも食べたスナック菓子のポリンキーが無かった!
<三日くらい前からずっとポリンキーのことを考えていたのだが、蓋を開けて中を見て、スナック菓子が天塩デポのスペシャルメニューだったことを思い出した。自分自身に期待して自分自身に騙された自分自身のばかさ加減にがっくりくる。>(P.164)

このあたりも可笑しいが、がっくりする気持ちはよくわかる。
ここまでが中盤戦の記述。

■後半戦■
2019年10月31日~11月25日。
山小屋芽室岳~幌尻岳~ペテカリ山荘~楽古山荘~襟裳岬~帯広空港。375キロ。

いよいよ、この山旅のフィナーレ、核心部だ。
日高山脈の縦走。といっても、稜線歩きは避けて、主脈西側の沢を辿る。
途中、いくつか尾根を越える。

次のデポ地はペテガリ山荘。
荷物を少しでも軽くするために、山小屋芽室岳にデポの半分を置いていくことにした。
すいぶん悩んだ末の決断。
<そうだ、食料を残しておけば、やばくなったら帰ってきて、仕切り直すこともできる。>(P.168)

この判断が、のちに裏目に出るのだが…。

■ここまで鹿ばかり撃って食料にしてきたが、キタキツネに出会い、撃ち逃す。
<ちょうど引き金を引くときにナツが吠えながらリードを引いた。完全な失中。…/「なにやってんだよ」とリードを引いて小突いた。/運ぶ重量を考えても、肉の旨味を考えても、ここでキツネが獲れたら理想的だった。ナツのせいで取り逃がした、といっても、獲物を見つけたのもナツである。ナツは私が腹を立てている理由がわからないようで困った顔をしている。>(P.171)

ナツの擬人化が面白い。ここまでも、ナツが「どうしたんですか」とか「何してるんですか」という顔をする、といった記述が多く、それが微笑ましい。

戸蔦別岳から幌尻岳へ。積雪の上を”バリズボ”歩行。
ナツの足が切れて出血するも、ナツが気にしているそぶりはない。

■新冠ポロシリ山荘(避難小屋)に二泊して休養。
その後、ナツが行方不明になる。
ナツ失踪のそれまでの最長記録が40分。それをはるかに超えて3時間たってもナツが戻らない。
服部さんは本気でナツの遭難(死亡)まで覚悟し、家族への弁解を考える。
読んでいて、ハラハラする。
<私は「ナツは死んだ」と納得するまで何日かかるのだろう。/もう戻らないとあきらめたとき、私はどこに向かうのか?/そこまで考えて、ふと「私は何のために歩いているのだ?」という自問に行き当たり、ぞわぞわと背筋が泡立つような感じがした。>(P.183)
<…ナツが戻らなかったら、「ナツは死んだ」と自分が納得し、家族に言いわけが立つまでここで待って、そのあととぼとぼと帯広に向かうということだけだ。帰宅後、もし家族が納得しなかったら、ここに家族を連れてくるしかない。/それをすべてやって、決着し、一段落した後、私はもう一度この旅をやり直すだろうか。>(P.183)

結局、ナツは3時間を過ぎた頃、幕営地の服部さんのところに戻ってきた。
さすがにバツが悪いのか、服部さんを遠巻きにしながら、なかなか近くまで来ない。
<チャイを一杯飲んでから立ちあがり、ぐるりとまわり込むようにナツとの距離を縮めていく。ナツは観念しているようだ。一メートルほどまで近づいてから、おもむろに首根っこを掴んで、手荒く持ち上げ、「どんだけ心配したかわかってんのか!」と怒鳴りつけた。/たった三時間の不在なのに、ちょっと涙声になってしまう。>(P.185)

感動的なシーンだ。

この後、面白いエピソードが続き、私にはこの「後半戦」の部分がいちばん楽しめた。

■肛門不調事件
ここまで食べるシーンはあっても、”出す”シーンがなく不満だったが、ここで肛門問題が出来。
旅の始めから、長くアスファルトを歩くと肛門の調子が悪くなり、山に入ると治るというパターンを繰り返していた。
<…肉と米しか食べない長期の冬期サバイバル登山をくり返してきた私は、繊維質の足りない大便をひり出すことが多く、肛門に古傷を抱えていた。その古傷に新冠ポロシリ山荘滞在時の二日ぶりのウンコで、痛みが走った。>(P.188)

山登りをしていた私にもよくわかる、深刻なモンダイだ。

触ってみると、古傷部分が小豆サイズに腫れている感じがするというから、イボ痔になりかけていたのだろう。
それまで、出発時に山仲間が差し入れてくれた抗生物質で、なんとかなだめてきた。
鏡がないので、コンデジ(カメラ)で接写してみたという。その姿を想像すると、笑うに笑えない。

服部さんが考えついた”処方”は、鹿の脂(これは豊富にある)を抽出し、排便前に浣腸するというもの。
問題は二つあり、その一つは、浣腸する注射器がないこと(当然のことだ)。
ポイズンリムーバー(蜂に刺されたときに毒を吸引するためか)を持っていたが、肛門に挿入する管がない。ボールペンの軸で代用する。
もう一つの問題は、鹿の脂の温度。鹿は体温が高く、鹿脂は融解温度が高いそうだ。そのため、人間の体内では、冷めて蠟のように硬くなってしまう。液状のままだと、熱すぎて直腸を火傷してしまいそう。

苦労の末、体内注入に成功。硬い便がスムーズに排出された。鹿の脂は外気温ですぐに固まり、大便は厚めの砂糖衣をまとったカリントウのようになっていたそうだ。その便は、後日、キタキツネが食べた、とも。
微に入り細を穿つリアルな描写に笑ってしまう。

<ズボンもパンツも脱ぎ、傾けて脂を寄せたフライパンから、ポイズンリムーバーで脂を吸い、若いころ複雑な気持ちで眺めた「タンポン挿入法」のイラストと同じ姿勢で、ボールペンの軸を挿入し、ゆっくりとポイズンリムーバーの軸を押した。この瞬間に、もし誰かが小屋に入ってきたら私は言いわけの余地がない変態だ。>(P.192-193)

■上記の”処方”は、デポ地のペテカリ山荘でのこと。
ここで食料不足が明確になってきた。
<デポの整理をすべく、並べてみるとペテカリ山荘のデポは、これまでのデポに比べて内容が貧弱でチャンポンや本格インドカレーのレトルトが入っていなかった。それを見て、デポ設置時「旅も後半になれば、心身ともに研ぎすまされてストイックになっているだろうから、自分を甘やかす必要はない」などと考えていたことを思い出した。/「ふざけんなよ」と過去の自分を毒づいてしまう。>(P.194-195)

ちなみに、このペテカリ山荘の写真が掲載されているが、なるほど、立派な山小屋。服部さんは何度も利用しているという。

肛門は小康状態。
初冬のペテガリ岳を、ナツといっしょに往復。
いよいよ終盤戦。荒れ模様の天気のなか、襟裳岬までの往復と、楽古山荘から楽古岳を越えて帯広空港までの道のりが控えている。外は吹雪。
米の残りがあと10日分ほどになり、一日200グラムに制限する。
山荘の水道の水も止まってしまい、ナツの食料も乏しい。

■ペテカリ山荘から楽古山荘へ。
楽古山荘には残りの地図と飛行機に乗るためのシャツをデポしてあった。
ペテカリ山荘で小屋の備蓄食料に手を出したことで”気持ちのタガが緩み”、楽古山荘でも備蓄食料を食べるつもりまんまんになっていたのだが・・・小屋に食料はなく、ミツカンの麺つゆがひと瓶と、固形燃料の缶が6個あるだけだった。
小屋には薪ストーブがあるので、固形燃料を使う必要はない。
「食いもん置いとけよ」と八つ当たりする。

※ここまでも、ずいぶん長くなってしまったので、さらに続く。

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再読 服部文祥『北海道犬旅サバイバル』

今月(2024年7月)北海道旅行で5年ぶりに再会した友人。
かれこれ20年にもなるだろうか、東京から北海道 北見の近くの置戸町に移住。
オケクラフトと呼ばれる木工の工房を自宅で営みながら、北海道の山を歩き続けている友人だ。

今回、会ったときも、北海道の山の話で盛りあがった。
私も、高校時代(もう50年以上も昔)、山岳部に2年間所属し、いくつかの山を登っていた。
数えるほどの山しか知らないが、日高の山々には、とくに憧れをもっていた。
友人は、そんな日高の山にも、アプローチに自家用車を使って登ったという。

服部文祥『北海道犬旅サバイバル』(みすず書房、2023年9月)
私には興味津々の本だった。
今年2024年2月、図書館にリクエストし、借りてきて読んだ。

北海道旅行から帰宅後、この本のことを思い出し、友人に送ってあげた。
私自身も、この本を持っていなかったので、同時に購入。
本が届くまで図書館の本を再読し、途中から、書店に届いた本に切り替えて読了。

以下、印象が消えないうちに、この本のことを書いておきたい。

https://amzn.to/4bWQJAG

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目次
序章 旅立ち前
五〇を前に惑う/ナツとの出会い/山旅犬/覚醒の途中/荒野の旅
I 前半戦
宗谷丘陵
まず羽田まで/北海道上陸/宗谷岬へ/牧場の分水嶺
森から強制退去
気のいいおじさん/国有林の山旅/強制連行/宗谷の日曜日/一日の歩行スタイル/道迷い/問寒別のヒグマ
街を歩く
ヒグマの親子/牧草地の奥で/国道を使って/車道に出る/中川町に入る/コンバット/国道を歩く
天塩岳ヒュッテへ
音威子府通過/街場の調達食料/クズ野菜の助け/引退セレモニー/豆ご飯/朝日町/野菜調達方法/廃道の鹿/天塩岳ヒュッテ
II 中盤戦
大雪山系を越えて
デポ回収/完全休養日の目論み/天塩岳の登山者/廃道/国道の誘惑/誕生日の層雲峡/大雪越え
山小屋芽室岳へ
廃道/ヌプン小屋/荒野の旅/十勝川林道/新得の街場/デポという不確定要素
III 後半戦
ナツを待つ
旅の核心部へ/チロロ越え/幌尻越え/新冠ポロシリ山荘/古道ナメワッカ沢/ナツ行方不明/犬と山を歩く意味/ペテカリ山荘へ
襟裳岬を往復する
基礎疾患対策/いよいよ終盤戦へ/ペテガリ岳/終盤戦開始/冬将軍到来/食料制限/アタック準備/岬アタック開始/襟裳岬
旅の終わり
本町無料休憩所/謎のオッサン/現金があるということ/現金があるということ 2/楽古岳越え/クッキーシュー/生還
ちょっと長いあとがき

■2019年10月1日から11月25日まで、約2か月かけて宗谷岬から襟裳岬まで北海道を縦断する徒歩の山旅。
相棒は、北海道生まれの野良犬の仔、知人から引き取った雌犬のナツ。
現金も免許証も持たず、食料は、出発時に持参した米などの他、ルートの途中にデポしておいたもので賄う。
あとは、猟銃で獲物を得る現地調達。

■序章■
この山旅を思いたった動機が語られる。

鉄砲を肩に荒野を犬と歩く、現金もクレジットカードも持たずに歩けば北海道も「荒野」といえないか?
狩猟犬として服部さんの相棒となった「ナツ」との出会いも運命的。

■前半戦■
自宅から羽田まで歩き、飛行機で
稚内空港へ。
宗谷岬まで歩いて、そこが出発点。
野宿を重ね、4日目にさっそくの試練にみまわれる。
おせっかいなジイさんに出会ったばっかりに、森林管理署員に通報され、国有林からの退去を命じられる。

■コンパスを紛失する。ピンチだが、のちに、デポ地の避難小屋で出会った登山者から借りることができた。
コンパスを探しているとき、思いがけずウェストポーチから100円玉が出てきて、その使い道に悩む。
街の郵便局でハガキを一枚買い、家族宛に投函することを思いつく。
日ごろ「連絡をしない」となじられている留守宅の妻とその友人に、家族愛を強くアピールできるという下心。
また、帰りの帯広空港からの飛行機便(チケットだけは仮搭乗日で購入済み)の搭乗日変更連絡に使うため持ってきたテレフォンカード。その使い道も思いつく。その「ジョーカー的魔力」とは、麓の街の公衆電話で天気予報を聞くことだった。
以後、里に降りるたびに公衆電話を探して「天の声」(ダイヤル177の天気予報)を聞こうとするのも、可笑しい。

■道北の問寒別(といかんべつ)あたりから国道に降りて人里歩き。音威子府(おといねっぷ)、美深、名寄あたりまで、里の道を歩く。その途中で、とうぜん、人と出会うのだが(街を歩く)、そのやりとりがまた、可笑しい。
中川町の生涯学習センター図書室で、市街地の地図をコピーさせてもらおうとしたがコピー機がなく、近くのコンビニ(セイコマート)まで行くのだが、図書室の登録カードを作る必要があると言われ、免許証がないので銃の所持許可証を見せるはめに。それを見た司書のおねえさんは、言葉に詰まる。
<銃の所持許可証は国家公安委員会が「銃を持たせても大丈夫なほど安全公正な人間である」と保証した証明である。これ以上ないくらいまともな人間であることを国が保証しているのだ。だが、その手帳を図書室で出す焚火くさいオッサンはやっぱり怪しい変なヤツでしかない。>(P.96)
焚火くさいオッサン…。こういうところが服部さんの文章のウマイところだ。

■朝日町では、畑仕事をしているおじさんに声をかけて、積んであるクズ野菜をもらっていいかどうか聞く。
ここまでも、道に倒れていたトウモロコシから一本もぎ取って失敬したり、クズ白菜やクズカボチャを拾ったり、道路にこぼれ落ちているダイズの粒を拾っては、夕食のオカズにして、うまい、うまいを連発している。
朝日町のおじさんは、太いダイコンとネギをくれた。
野菜の摂取は、だいじ。山菜が採れる時期ではないので。

ここまでが「前半戦」。
10月1日~17日。宗谷岬~天塩岳ヒュッテ。331キロ。

■中盤戦■
10月17日~30日。天塩岳ヒュッテ~山小屋芽室岳。193キロ。

デポ地の天塩岳ヒュッテで、事前にデポしてあったお菓子や豪華な食材(といってもレトルト食品など)をむさぼり食う。
この避難小屋で、筆記用具の予備としてチビた鉛筆をゲット。
泊まりに来た男女の登山者から(男性の方は服部さんのファンだった)から、待望のコンパスを借りることができた。
天塩岳は、私も登ってみたかった北海道の山のひとつ。
登山者が多いらしく、この小屋に四人の登山者が訪れ、やはり服部さんを知っている人がいた。
ボルシチと酒のつまみが並ぶ、小屋での”宴会”に誘われて同席する。
<どちらもここ二十日間食べていない味なので嬉しい。がつがつ早食いしないように、かなり気をつけた。/このときもナツがオナラをしてすごい匂いが部屋に充満した。たぶん四人は、私がオナラをしたと思ったはずだ。というのも私もしたいオナラを耐えていたからだ。私は我慢したのにまったく意味がなかったことになる。>(P.134)
”荒野”での、ひとりと一匹の山旅だったはずだが、ときどき人間との出会いのシーンがあって、それがアクセントになっている。

■天塩岳登頂後、日高山脈の入口である山小屋芽室岳への大雪山系超え。
この地域は、私にも馴染みのある山系。
奥深い大雪山系の山道を避けて(雪が積もる前に大雪を越えてしまいたいとの思い)、上川の街に降りる。
ここでもヤマブドウを収穫していたおじいさんを手伝って、お裾分けをもらう。
層雲峡の自転車専用道路を延々と歩く。
大雪超えは、ルート選択に迷って難航したようす。

ヌプントムラウシ温泉の近くに建つヌプン小屋(避難小屋)に着くも、薪ストーブがなく「火気厳禁」だった。
この小屋、私は知らなかったが、本書には写真が掲載されている(P.151)。
いかにも北海道の避難小屋らしい佇まい。

■十勝川林道を下って、新得の街へ。
旅の開始から痛んでいた左足が、この頃になって痛みが少なくなっている。
このあたりでも、出会った老夫婦にクズ野菜をねだったところ、ダイコンとネギをもらう。
農家でもなさそうな老夫婦の立派な家を見て、廊下でもいいから泊まらせてくれればなあ、と思う。
かなり旅疲れしてきたようす。

※ここまで書いて、まだ長くなりそうなので、続きは別投稿で。

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2024年7月 1日 (月)

【読】2024年6月に読んだ本(読書メーター)

6月の読書メーター
読んだ本の数:9
読んだページ数:2290
ナイス数:150

三省堂国語辞典から 消えたことば辞典三省堂国語辞典から 消えたことば辞典感想
「新明解国語辞典」(新解)は、よく知っていて、面白いなと思っていたが、その前身に「明解国語辞典」(明国)→「三省堂国語辞典」(三国)という歴史があったとは、知らなかった。「明国」「三国」という略称も、おかしい。いずれも編者の個性(編集方針)が色濃く出ている辞典。そこから消えたことばも、懐かしかったり、時代に密着したものだったり。言葉は時代とともに生きているものだと、あらためて痛感。面白い一冊だった。図書館本。
読了日:06月02日 著者:見坊 行徳,三省堂編修所

もっと悪い妻もっと悪い妻感想
一年ほど前に出た桐野さんの新刊。といっても、次の新刊がもうすぐ出るらしい。新古書店で見かけて、よほど買って読もうかと思ったが、ページ数の割には高かったので、図書館に予約。順番がまわってくるまで、ずいぶん時間がかかった。桐野さんらしく、日常生活に潜む不気味さを抉り出す、よく出来た短編集(雑誌連載)だったが、いまひとつ満足できなかったのは残念。やはり長編で力を発揮する作家なのかもしれない。図書館から借りてきて、あっという間に読み終えた。
読了日:06月02日 著者:桐野 夏生

墜落の夏―日航123便事故全記録 (新潮文庫)墜落の夏―日航123便事故全記録 (新潮文庫)感想
日航機123便墜落事故から1年後に書かれた本。ずいぶん前に読んだかもしれないが、憶えていない。あらためて? 読んでみた。まだ事故調査報告書が出されていない時期(報告書「案」は出ていた)。事故原因と言われていた圧力隔壁破損説に基いて書かれているものの、それが尾翼破壊につながったとされることには、疑問を呈している。520人の死者とその遺族の境遇を(毎日新聞記事1985/9/12を引きながら)詳述していたり、生存者・落合さんへの単独インタビュー、関係者からの聞き取りなど、取材の丁寧さが光る。
読了日:06月09日 著者:吉岡 忍

だからあれほど言ったのに (マガジンハウス新書)だからあれほど言ったのに (マガジンハウス新書)感想
タイトルにも魅かれて読んだ図書館本。内田樹が書いた本(文章)が好きだ。実際に会ったことも話を聞いたこともない人だけれど、”武芸者”らしい?率直な文章が好ましい。何よりも様々な気付きを与えてくれる。雑多な文章が集められた中では、子どもたちを「決して傷つけず『無垢な大人』に育て上げる」ことの大切さ、というテーマに共感。また、村上春樹の創作の秘密を解き明かす「村上春樹が描く『この世ならざるもの』」には思わず膝を打った。「日本国憲法は”空語”」「日本(政府)はアメリカの言いなり」などは、いつもの”内田節”。同感。
読了日:06月10日 著者:内田樹

一日一考 日本の政治 (河出新書)一日一考 日本の政治 (河出新書)感想
うるう年の2月29日を含む1年366日、1日ごとに「日本の政治」を考えるヒントになる短い文章(著名人や無名人)を挙げ、著者による短いコメントを付したもの。1日分が新書の1ページにまとめられているので、ときどき開いて読み続けた。6月18日(連合赤軍事件の公判、永田洋子の死刑判決の日)の項、桐野夏生『夜の谷を行く』から引用された部分。原武史さんと桐野夏生さんの対談を思い出した。天皇・皇室関係が多いのも、原武史さんらしい。引用された文章には、知らなかった人物も多く、刺激を受けた。
読了日:06月13日 著者:原武史

書くことの不純 (単行本)書くことの不純 (単行本)感想
今年1月に出た角幡さんの新刊。元新聞記者の角幡さんの文章は、論理的でしっかりしているのだが、私にはなかなか難しい内容だった。加藤典洋、三島由紀夫、開高健らの作品・文章を引きながら、行為と表現にまつわる彼自身の悩みを縷々、書き綴っている。三島由紀夫『金閣寺』を読み込んでいることに、驚いた。読書家なんだな。角幡さんの登山観・冒険観が出ている部分は興味ぶかく、なかでも「羽生と栗城」の章が面白かった。夢枕獏『神々の山嶺』は私の愛読書なので。
読了日:06月17日 著者:角幡 唯介

ノイエ・ハイマートノイエ・ハイマート感想
池澤さんのファンなので、この新刊を知って図書館から借りてきた。「短編と詩、引用などからなる雑多な構成」は意図的なもの。いかにも池澤さんらしい試みだ。”難民”をテーマに、フィクションでありながらリアリティーがあり、胸に迫る。なかでも、満州からの引揚者(これも難民)を描いた『艱難辛苦の十三個月』と、レバノンからの難民(密航者)を描いた『サン・パピエ』の2編がよかった。池澤さんのいい読者ではないが、過去の作品をあらためて読んでみようと思う。メルマガをまとめた『新世紀へようこそ』(正・続2冊)も読むつもり。
読了日:06月19日 著者:池澤 夏樹

オパールの炎 (単行本)オパールの炎 (単行本)感想
桐野夏生さんの新作。「中ピ連」(中絶禁止法に反対しピル解禁を要求する女性解放連合)の活動で、いっとき有名になった榎美沙子がモデル――ということを知らずに読み始めた。最後に明かされる”執筆者”(40歳のノンフィクションライター)が、主人公・塙玲衣子の関係者を取材して得られた証言を積み重ねて行く構成。桐野さんらしい凝った仕掛けだ。巻末の謝辞にある木内夏生氏は、どうやら榎美沙子の夫だった人物(ネット検索でどういう人物なのかわかる)。実名小説にしなかったのは、本人を含め関係者が存命だからか。面白い小説だった。
読了日:06月27日 著者:桐野 夏生

九十歳。何がめでたい九十歳。何がめでたい感想
上映中で評判になっている映画を、昨日観た。映画が面白かったので、原作を読んでみようと図書館から借りてきた。地元の図書館には6冊収蔵されているのだが、かろうじて1冊、貸し出されていないものがあった。佐藤愛子さんが書いた本は、たぶん初読。軽妙なエッセイ集。今日借りてきて、あっという間に読み終えた。8年前に週刊誌に連載されたものだが、90歳とは思えない元気な様子(今年、100歳を超えている!)。さわやかな読後感。この人の小説も読んでみようかなと思う。
読了日:06月30日 著者:佐藤愛子

読書メーター

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2024年6月 1日 (土)

【読】2024年5月に読んだ本(読書メーター)

日航機123便墜落事故(事件かもしれない)の関連本を、読み漁った。

きっかけは、森永卓郎の最新刊『書いてはいけない』だった。

調べれば調べるほど、疑惑が深まる。

5月の読書メーター
読んだ本の数:9
読んだページ数:2430
ナイス数:136

隠された証言―日航123便墜落事故 (新潮文庫)隠された証言―日航123便墜落事故 (新潮文庫)感想
日航123便墜落事故の真相を探る本を、また一冊読んだ。著者は事故当時、日航パイロットで航空事故調査も担当していたところから、事故直後に現場の御巣鷹山スケノ沢(生存者が発見された場所)に駆けつけている。事故現場の凄惨な様子の描写がすごい。事故原因については、青山透子氏などが唱える「ミサイル誤射説」を珍説・風説として一蹴するが、事故調査会の結論「圧力隔壁破壊」説には真っ向から異を唱え、その根拠をていねいに説明している。事故調の内部告発者から調査資料の提供を受けている。それが「隠された証言」というわけだ。
読了日:05月05日 著者:藤田 日出男

疑惑 JAL123便墜落事故 このままでは520柱は瞑れない疑惑 JAL123便墜落事故 このままでは520柱は瞑れない感想
1985年の日航123便事故から8年後に出版された本。著者は、私が先に読んだ『隠された証言』(新潮社)の著者でもある藤田日出男氏ら日航のパイロットからも話を聞いている。この本では、後部圧力隔壁破損による急減圧が事故の原因とする「事故調」報告を否定。ミサイル標的機説をあげている。さらに、破損・迷走していたジャンボ機がミサイルによって撃たれたのでは、という大胆な仮説まで。事故調や日航がボイスレコーダーの生の音声の公開を拒絶し続ける裏には、やはり、何かありそうだ。もう世間は忘れ去ろうとしているが、大事なことだ。
読了日:05月09日 著者:角田 四郎

日航123便墜落 圧力隔壁説をくつがえす日航123便墜落 圧力隔壁説をくつがえす感想
青山透子さんの「日航123便墜落」事件(筆者は、今や、事件と断定する)に関する本を、立て続けに読んでいる。事故調・日航・政府(当時の中曽根政権)が主張する(根拠が薄弱な)「圧力隔壁説」は、どう見ても整合性のないことがわかる。ただ、著者が想像する「機長共犯?説」(自衛隊出身の機長が自衛隊と打ち合わせのうえでミサイル試射に協力した)は、さすがに”トンデモ説”、”陰謀説”のきらいがあると思う。もう2冊、この著者の本が手元にあるので、読んでみたい。それにしても、これほど”闇”に葬られようとしている事件の不思議。
読了日:05月11日 著者:青山透子

あの航空機事故はこうして起きた (新潮選書)あの航空機事故はこうして起きた (新潮選書)感想
少し前に読んだ同じ著者(日航の元パイロット、2008年死去)の『隠された証言 日航123便墜落事故』新潮文庫に続いて2冊目。日航123便墜落事故の他、世界中で起きた7つの航空機事故について、専門家らしく詳しく、わかりやすく解説している。日航123便事故については、事故調の「後部圧力隔壁説」を真っ向から否定(もっともだ)。この本を読むと航空機事故の多さに驚くが、著者は「ミスはつきもの、その原因を探って再発を防ぐ努力がたいせつ」と力説する。日本の事故調査報告の酷さがわかり、もっと海外に学ばなければと痛感した。
読了日:05月13日 著者:藤田 日出男

日航123便 墜落の波紋: そして法廷へ日航123便 墜落の波紋: そして法廷へ感想
日航123便墜落事故を追う、この著者の4冊目に出版された本。「青山透子」がペンネームであり、本名は非公開ということを、この本で知った。もう一冊の『日航123便墜落事件 JAL裁判』(2022年)も、図書館から借りて手元にあるので読んでみようと思う。森永卓郎『書いてはいけない』(2024年3月)や、青山透子『日航123便 墜落の新事実
目撃証言から真相に迫る』(河出文庫、2020年6月、解説:森永卓郎)など、40年近く前の日航機事故が注目を浴びているのだろうか。私は、ある地域FMの番組を聞いて知ったのだが。
読了日:05月16日 著者:青山透子

JAL裁判JAL裁判感想
日航123便墜落事故(著者は事件と言い切る)に関する、私が読んだ何冊目かの本。2021年6月から22年10月(判決)までの墜落事故被害者による日航を相手どった裁判(ボイスレコーダー、フライトレコーダーの開示請求訴訟)の詳細が書かれていて読むのはしんどかった。現行法に基づく開示請求には無理(限界)があるようだが、今後の控訴審の行方を追っていきたい。JALが所持しているボイスレコーダー、フライトレコーダーの内容を隠す(開示しない)理由は何もない。後ろめたいところがないのなら、開示して事故原因を明らかにすべき。
読了日:05月24日 著者:青山透子

新書885日航機123便墜落 最後の証言 (平凡社新書 885)新書885日航機123便墜落 最後の証言 (平凡社新書 885)感想
著者は共同通信社の米国特派員。米国駐在という地の利を生かして、日航123便墜落の米国関係者多数と、日本国内の関係者を取材した内容。著者は、あくまでも「圧力隔壁原因説」を支持するが、「撃墜説」をとる青山透子氏へもインタビューしていて、ほう、と思った。海底に眠っている事故機の残骸引き上げが不徹底だったことも指摘している。ただ、青山氏の「垂直尾翼を破壊するほど大きな減圧がなかった」との指摘には触れていない。なんとなく事故調や米国関係者が出している事故原因(修理ミス→圧力隔壁破損)を肯定している印象を受けた。
読了日:05月26日 著者:堀越 豊裕

書いてはいけない――日本経済墜落の真相書いてはいけない――日本経済墜落の真相感想
第3章『日航123便はなぜ墜落したのか」を読みたくて購入(図書館では予約待ちの行列だったので)。経済アナリストの森永氏の本題である「日本経済墜落の真相」については、正直、理解するのが難しかった。日航機の墜落原因については、青山透子氏と、この本で紹介されている小田周二氏の『永遠に許されざる者』の説に依るところが多い。「撃墜説」が、とんでもない「謀略説」とは思わない。日航が隠し続ける飛行記録(ボイスレコーダー、フライトレコーダー)の生データを公開すれば「撃墜説」の真偽が明白になるのに、と、あらためて思う。
読了日:05月27日 著者:森永 卓郎

524人の命乞い 日航123便乗客乗員怪死の謎524人の命乞い 日航123便乗客乗員怪死の謎感想
森永卓郎『書いてはいけない』で紹介されていた日航123便墜落事故の遺族が書いた本(数冊のうちの一冊)。自衛隊無人標的機がぶつかったことによる垂直尾翼崩壊、という説には同意できる。横田基地への不時着が自衛隊機(事故機を追尾していたとされる)によって阻止され、最後は自衛隊機F-15Jが発射したサイルが第4エンジンを破壊して墜落させられた(つまり撃墜された)という説には、もっと裏付けが必要と思う。著者が断定する説を肯定するにも否定するにも、隠蔽されているボイスレコーダーの不明とされている部分の公開、解析が必要。
読了日:05月31日 著者:小田 周二

読書メーター

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2024年5月27日 (月)

【読】日航123便墜落の謎

きっかけは、ある地域FMの番組で聞いた話だった。

「あの、日航123便墜落の真相は……こうだったらしい……」

パーソナリティをつとめる、私がよく知るTさんの話に出てきたのが「森永卓郎」の名前だった。
ネットで調べてみて、青山透子という人がたくさんの著作を出していることを知った。
今年4月のことだ。

以下、私が利用している「読書メータ」というサイトに残した、私の感想を転載しておく。
(読んだ順番ではなく、私の関心に沿った順序で)
「読書メータ」は、ひとつの投稿が255文字までという制限があるため、言いたいこと(感想)を書ききることが難しいのだが。

■5/2~5/27読了
森永卓郎 『書いてはいけない 日本経済墜落の真相』
三五館シンシャ (2024/3/20) 203ページ ※2024/5/2購入
【単行本 Amazon】
https://amzn.to/3yMpDPk

<第3章『日航123便はなぜ墜落したのか」を読みたくて購入(図書館では予約待ちの行列だったので)。経済アナリストの森永氏の本題である「日本経済墜落の真相」については、正直、理解するのが難しかった。日航機の墜落原因については、青山透子氏と、この本で紹介されている小田周二氏の『永遠に許されざる者』の説に依るところが多い。「撃墜説」が、とんでもない「謀略説」とは思わない。日航が隠し続ける飛行記録(ボイスレコーダー、フライトレコーダー)の生データを公開すれば「撃墜説」の真偽が明白になるのに、と、あらためて思う。>

※図書館から借りようとしたら、たいへんな予約待ち行列だったので、自腹を切って購入。
経済アナリストの専門分野の本だったので、「日本経済墜落の原因」と著者が言う、経済分析部分は私にはよく理解できなかった。第3部が「日航123便はなぜ墜落したのか」という、私が興味を持ったテーマ。
この本を購入する前、(この本でも取り上げられている)青山透子さんの本を知り、図書館で探して読み始めた。
全部で5冊。他にも著作があるが、私にしては、よく続けて読んだと思う。

■4/19~4/23読了
青山透子
『日航123便墜落の新事実 目撃証言から真相に迫る』
河出書房新社 (2017/7/20) 205ページ 【図書館本】
【文庫版 Amazon】
https://amzn.to/3WPLuNF

<単行本で読んだ。衝撃の内容。日航機123便の悲惨な事故は、いまでもはっきり記憶している。たしかに、遺体の惨状は航空燃料が燃えたことでは説明がつかないと、今になって思う。多くの目撃証言や事故現場の様相、墜落場所が確定できなかった(公表までに不自然に時間がかかった)謎、等々。綿密な状況証拠から、自衛隊と米軍がからんだ事故という仮説を実証しようとしている。この著者の他の本も読んでみたい。なかでも、昨年文庫化された『日航123便墜落 遺物は真相を語る』。これほどの重大事故の真相が真面目に追及されないのが不思議。 >

※このときは地元図書館の単行本を読んだが、のちに、隣接市の図書館に文庫版のあることを知り、借りてみた。
解説を森永卓郎氏が書いている。文庫は2020年6月20日初版。私は、この文庫版と次の『遺物は真相を語る』の二冊の文庫を、のちに購入した。

■4/23~4/30
青山透子
『日航123便墜落 遺物は真相を語る』
河出文庫 (2023/8/10) 227ページ 【図書館本】
【文庫版 Amazon】
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<前著『墜落の新事実』に続いて読んだ。ほとんど報道されることもなく、私も全く疑っていなかった「事故原因」が、真相を隠すための方策だったことは、この本に記された証言、証拠から疑いないと思う。隠され続ける闇。事故ではなく事件の真相が明らかになることを願う。裁判の行方を追いたい。>

※この本で、著者の青山氏は、事故現場の遺留物(金属)の成分を調べて、飛行機燃料ケロシンからは検出されないはずの成分を見つける。火炎放射器に使われる、ガソリンとタールを混合したゲル状の燃料に含まれる成分だ。
事故直後、現場に捜索にかけつけた消防団員の証言として、「ガソリンとタールのような強い臭いがした」というものがある。青山氏の推論は、ちょっと信じがたいものだが、あてずっぽうではなく、すべてに”裏”をとっている(目撃者証言や専門家の意見も聞いてのうえでの推論)なので、信頼性が高いと思う。

■5/9~5/11読了
青山透子
『日航123便墜落 圧力隔壁説をくつがえす』
河出書房新社 (2020/7/20) 229ページ 【図書館本】
【単行本 Amazon】
https://amzn.to/3AqSM38
文庫版あり

<青山透子さんの「日航123便墜落」事件(筆者は、今や、事件と断定する)に関する本を、立て続けに読んでいる。事故調・日航・政府(当時の中曽根政権)が主張する(根拠が薄弱な)「圧力隔壁説」は、どう見ても整合性のないことがわかる。ただ、著者が想像する「機長共犯?説」(自衛隊出身の機長が自衛隊と打ち合わせのうえでミサイル試射に協力した)は、さすがに”トンデモ説”、”陰謀説”のきらいがあると思う。もう2冊、この著者の本が手元にあるので、読んでみたい。それにしても、これほど”闇”に葬られようとしている事件の不思議。>

※事故調査委員会(事故調)の報告書で結論付けられ、一般的に支持されている(あるいは信じ込まされている)事故原因は、墜落事故の7年前に起こした”しりもち事故”の後、後部圧力隔壁の修理の際の、ボーイング社の修理ミス。
その後の(接合部の)金属疲労によって、飛行中に圧力隔壁が破損。そこから噴き出した機内の高圧の空気が、垂直尾翼を破壊したことだという。
青山氏は、専門家の意見を収集、垂直尾翼を破壊するほどの噴出があったとは思えない、と言う。尾翼の構造は、それほど貧弱なものではなく、尾翼を破壊するほどの噴出(減圧)があったなら、機内の乗客や物が、機外に飛び出るほどの勢いだったはず。また、機内の乗客の鼓膜に異常が生じるほどの、気圧の急激な変化がなければ、おかしいと。
このあたりの推論は、科学的で説得力があると思う。

■5/13~5/16読了
青山透子
『日航123便 墜落の波紋 そして法廷へ』
河出書房新社 (2019/7/20) 205ページ 【図書館本】
【単行本 Amazon】
https://amzn.to/3yNPW7J

<日航123便墜落事故を追う、この著者の4冊目に出版された本。「青山透子」がペンネームであり、本名は非公開ということを、この本で知った。もう一冊の『日航123便墜落事件 JAL裁判』(2022年)も、図書館から借りて手元にあるので読んでみようと思う。森永卓郎『書いてはいけない』(2024年3月)や、青山透子『日航123便 墜落の新事実 目撃証言から真相に迫る』(河出文庫、2020年6月、解説:森永卓郎)など、40年近く前の日航機事故が注目を浴びているのだろうか。私は、ある地域FMの番組を聞いて知ったのだが。>

■5/17~5/24読了
青山透子
『日航123便墜落事件 JAL裁判』
河出書房新社 (2022/11/20)373ページ 【図書館本】
【単行本 Amazon】
https://amzn.to/4dtTN8X

<日航123便墜落事故(著者は事件と言い切る)に関する、私が読んだ何冊目かの本。2021年6月から22年10月(判決)までの墜落事故被害者による日航を相手どった裁判(ボイスレコーダー、フライトレコーダーの開示請求訴訟)の詳細が書かれていて読むのはしんどかった。現行法に基づく開示請求には無理(限界)があるようだが、今後の控訴審の行方を追っていきたい。JALが所持しているボイスレコーダー、フライトレコーダーの内容を隠す(開示しない)理由は何もない。後ろめたいところがないのなら、開示して事故原因を明らかにすべき。>

※遺族を原告とする、日航を相手どった裁判の詳細な記録。地裁によって原告の訴えが認められない判決が出ている。
その後、知ったのだが、高裁でも敗訴。最高裁まで行っているようだ。

ここまでが、青山透子氏の著作。
これらを読む合間に、他の筆者による本も読んでみた。
いずれの著者も、基本的には「圧力隔壁説」には疑いを挟んでいない。
そこが、私には不思議なのだが、青山氏らの主張は、「とんでも説」「陰謀説」と、厳しい批判を浴びているのも事実。

ただ、日航が公開を拒絶し続けている「ボイスレコーダー」「フライトレコーダー」の生データは、なぜそこまで隠さなければいけないのか。生データに、何か、公開してはまずい内容があるのではないのか? という疑惑は、至極当然だ。

■5/4~5/5読了
藤田日出男 『隠された証言 日航123便墜落事故』
新潮文庫 (2006/8/1) 341ページ 【図書館本】
【単行本 Amazon】
https://amzn.to/4dNdJUd

<日航123便墜落事故の真相を探る本を、また一冊読んだ。著者は事故当時、日航パイロットで航空事故調査も担当していたところから、事故直後に現場の御巣鷹山スケノ沢(生存者が発見された場所)に駆けつけている。事故現場の凄惨な様子の描写がすごい。事故原因については、青山透子氏などが唱える「ミサイル誤射説」を珍説・風説として一蹴するが、事故調査会の結論「圧力隔壁破壊」説には真っ向から異を唱え、その根拠をていねいに説明している。事故調の内部告発者から調査資料の提供を受けている。それが「隠された証言」というわけだ。>

■5/5~5/9読了
角田四郎 『疑惑 JAL123便墜落事故』
早稲田出版 (1993/12/28) 432ページ 【図書館本】
【単行本 Amazon】
https://amzn.to/3SUToEe

<1985年の日航123便事故から8年後に出版された本。著者は、私が先に読んだ『隠された証言』(新潮社)の著者でもある藤田日出男氏ら日航のパイロットからも話を聞いている。この本では、後部圧力隔壁破損による急減圧が事故の原因とする「事故調」報告を否定。ミサイル標的機説をあげている。さらに、破損・迷走していたジャンボ機がミサイルによって撃たれたのでは、という大胆な仮説まで。事故調や日航がボイスレコーダーの生の音声の公開を拒絶し続ける裏には、やはり、何かありそうだ。もう世間は忘れ去ろうとしているが、大事なことだ。>

■5/11~5/13読了
藤田日出男 『あの航空機事故はこうして起きた』
新潮選書 (2005/9/20) 207ページ 【図書館本】
【単行本 Amazon】
https://amzn.to/4cxHM0Y

<少し前に読んだ同じ著者(日航の元パイロット、2008年死去)の『隠された証言 日航123便墜落事故』新潮文庫に続いて2冊目。日航123便墜落事故の他、世界中で起きた7つの航空機事故について、専門家らしく詳しく、わかりやすく解説している。日航123便事故については、事故調の「後部圧力隔壁説」を真っ向から否定(もっともだ)。この本を読むと航空機事故の多さに驚くが、著者は「ミスはつきもの、その原因を探って再発を防ぐ努力がたいせつ」と力説する。日本の事故調査報告の酷さがわかり、もっと海外に学ばなければと痛感した。>

■5/24~5/26読了
堀越豊裕 『日航機123便墜落 最後の証言』
平凡社新書885 (2018/7/13) 326ページ 【図書館本】
【単行本 Amazon】
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<著者は共同通信社の米国特派員。米国駐在という地の利を生かして、日航123便墜落の米国関係者多数と、日本国内の関係者を取材した内容。著者は、あくまでも「圧力隔壁原因説」を支持するが、「撃墜説」をとる青山透子氏へもインタビューしていて、ほう、と思った。海底に眠っている事故機の残骸引き上げが不徹底だったことも指摘している。ただ、青山氏の「垂直尾翼を破壊するほど大きな減圧がなかった」との指摘には触れていない。なんとなく事故調や米国関係者が出している事故原因(修理ミス→圧力隔壁破損)を肯定している印象を受けた。>

最後に。
森永卓郎氏の『書いてはいけない』で紹介されていた、小田周二さん(123便の墜落で、ふたりのお子さんと親族を亡くしている)が書いた本が隣接市の図書館にあったので、借りてきて、これから読むところだ。

小田周二 『524人の命乞い 日航123便乗客乗員怪死の謎』
文芸社 (2017/8/12) 250ページ 【図書館本】
【単行本 Amazon】
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青山透子氏と同様の主張を続けている方だ。
森永卓郎氏の本で引用されている
『永遠に許されざる者 日航123便ミサイル撃墜事件及び乗客殺戮隠蔽事件の全貌解明報告』
(文芸社、2021年)
も、隣接市の図書館にあったのだが、貸出中なので、後日、借りてみようと思う。

【追記】
事故調の報告書に、後日、「別冊」として追加された図表の中に「異常外力の着陸点」が記された図がある。
ネットで公開されているのを、私も見た。
青山透子氏の著作や、森永卓郎氏の『書いてはいけない』にも掲載されている図(下記リンク)だ。

https://www.mlit.go.jp/jtsb/aircraft/download/62-2-JA8119-huroku.pdf

事故機の垂直尾翼の、ちょうど海底に沈んでしまって回収できていない破壊部分に、外部から何か強い力が加わった形跡を事故調も認めていて、青山氏らの「自衛隊の(おそらく)ミサイル標的機が尾翼に衝突したのでは?」という説を裏付ける。
海底から、ついに引き上げられなかった(引き上げなかった)事故機残骸の調査も必要だった。
引き上げなかったのは、金がかかり過ぎるというのが理由だが、諸外国に比べても、日本の事故調査の不徹底さ(不透明さ)がうかがえる。
このことは、私が読んだ上掲の(青山氏以外の)著者の何人かも指摘している。

(2024/5/27 記)

【2024/8/19 追記】
なぜだか、この古いブログ記事が、多くの人に読まれているようだ。
参考までにAmazonのリンクを追記した。
なかには高額になっているものもある。
購入するかどうかは、ブログ読者の判断でお願いしたい。
図書館本で読むことを薦めたい。

日航123便墜落事故に関する本は、その後も読み続けているし、ネットでもあれこれ検索し続けている。
いずれまた、記事として、このブログに投稿したいと思っている。

ただ…センシティブな事案なので、あまり目立ちたくはないのだが…。
なにしろ、証拠や証言が公にされておらず、さまざまな著作に書かれていることの真偽を判断することが難しい。
ひとつ言えることは、さまざまな隠蔽の意図が見え、このまま闇に葬られることには異議を唱えたい。

 

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2024年5月 1日 (水)

【読】2024年4月に読んだ本(読書メーター)

2024年4月、完全に読み終えたのは4冊だけ。

4月の読書メーター
読んだ本の数:4
読んだページ数:1064
ナイス数:109

黒い海 船は突然、深海へ消えた黒い海 船は突然、深海へ消えた感想
”フォーク者・イサジ式”という名前で演奏活動をしている人のライブにゲストとして呼ばれていた詩人・齋藤貢さんの話で知った本。イサジ式の「冬のノオト(犬吠埼沖350km)」にも歌われている海難事故。2008年6月23日、犬吠埼の沖合350kmに碇泊中の漁船”第58寿和丸”が突然の衝撃後、あっという間に転覆、沈没。5800メートルの深海に沈んだ。17名の死者・行方不明者を出し生存者は3名のみ。原因は荒波によるものとされているが潜水艦の当て逃げの疑いが濃厚。著者は関係者や専門家への取材を丹念に続けた。いい本だ。
読了日:04月13日 著者:伊澤 理江

言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したか (中公新書 2756)言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したか (中公新書 2756)感想
敬愛する高野秀行さんが絶賛していることと、私が所属している図書館友の会の読書会で課題本になったことで読んでみた。私には、ややハードルが高く、読み終えるまで時間がかかった。終章にエッセンスがまとめられているが、そこに至るまでの著者たちの推論は、難解な専門用語もあって理解するのに苦労した。オノマトペ、”記号接地問題”をキーワードに、最終的に言語の本質とは何かという大問題に結論を出すという労作。具体例がたくさん出てきて面白かった(幼児のいい間違いの例とか)。もう一度ぐらい読み直せば、もっと理解が深まるのかも。
読了日:04月14日 著者:今井 むつみ,秋田 喜美

日航123便 墜落の新事実: 目撃証言から真相に迫る (河出文庫 あ 34-1)日航123便 墜落の新事実: 目撃証言から真相に迫る (河出文庫 あ 34-1)感想
単行本で読んだ。衝撃の内容。日航機123便の悲惨な事故は、いまでもはっきり記憶している。たしかに、遺体の惨状は航空燃料が燃えたことでは説明がつかないと、今になって思う。多くの目撃証言や事故現場の様相、墜落場所が確定できなかった(公表までに不自然に時間がかかった)謎、等々。綿密な状況証拠から、自衛隊と米軍がからんだ事故という仮説を実証しようとしている。この著者の他の本も読んでみたい。なかでも、昨年文庫化された『日航123便墜落 遺物は真相を語る』。これほどの重大事故の真相が真面目に追及されないのが不思議。
読了日:04月23日 著者:青山 透子

日航123便墜落 遺物は真相を語る (河出文庫)日航123便墜落 遺物は真相を語る (河出文庫)感想
前著『墜落の新事実』に続いて読んだ。ほとんど報道されることもなく、私も全く疑っていなかった「事故原因」が、真相を隠すための方策だったことは、この本に記された証言、証拠から疑いないと思う。隠され続ける闇。事故ではなく事件の真相が明らかになることを願う。裁判の行方を追いたい。
読了日:04月30日 著者:青山 透子

読書メーター

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2024年4月16日 (火)

【読】泉ゆたか著『ユーカラおとめ』を読んだ

宇梶静江さんのトークイベントのことを書いたら、この本のことを思い出した。
3/18から3/20にかけて読んだ。
図書館本。

泉ゆたか 『ユーカラおとめ』
 講談社 (2024/1/29) 268ページ
https://amzn.to/3xx9hce

Photo_20240416155701

(書影はAmazonサイトより)

―出版社(講談社)のサイトから紹介文―
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000377108

「ユーカラを書き記すことは、私が生まれてきた使命なのだ」
絶滅の危機に瀕した口承文芸を詩情あふれる日本語に訳し、今も読み継がれる名著『アイヌ神謡集』。著者は19歳の女性だった。
民族の誇り。差別との戦い。ユーカラに賭ける情熱。短くも鮮烈な知里幸恵の生を描く、著者の新たな代表作!
「いつまでも寝込んでいるわけにもいきません。私には時間がないんです」
分厚く腫れた喉から流れ出した自分の言葉に、幸恵ははっとした。
私には時間がない。
そうなのか?
思わず胸に掌を当てた。満身創痍の身体の中心で、心臓は未来へ駆け出す足音のように勢いよくリズムを刻んでいた。
(本文より)

私は、以前から知里幸恵(正式な漢字は「幸惠」)への関心が深く、『アイヌ神謡集』にまつわる書籍や彼女を扱った評伝などを読み漁った時期がある。
この小説『ユーカラおとめ』も、フィクションながら、知里幸恵を描いたものなので興味深かった。

以下、私が所属している「図書館友の会」の会員向け交流紙(月刊)に寄稿した「おすすめの本」の文章を掲載しておく。
この交流紙は、紙媒体で友の会会員に配布される(一部の会員にはPDF版で配布)。
いわば非公開の文章なのだが、せっかく自分が書いたものなので、原文通りここにコピペしておこうと思う。
手抜きといえば手抜きだが。
※ブログ画面での読みやすさを考慮して、段落改行を変更。

『アイヌ神謡集』一冊を遺して、十九歳という若さで世を去ったアイヌの女性・知里幸恵(幸惠)。
1903(明治36)年6月生まれ~1922(大正11)年9月没。
『アイヌ神謡集』については、12年ほど前に交流紙で紹介したことがあります。
彼女をモデルにした映画「カムイのうた」も、今年1月から公開されているようです。
 https://kamuinouta.jp/
没後百年を過ぎても、ちょっとした知里幸恵ブームになっているのでしょう。
この小説は、東京の金田一京助宅に招かれて『アイヌ神謡集』を推敲し完成させながらも、発刊を待たずに急死した1922年5月から9月までのわずか4か月の、幸恵の軌跡(上京から死去まで)がリアルに描かれています。
作者はフィクションと断っていますが、金田一京助とその妻・静江、金田一の子息・春彦と妹の若葉、それに、金田一を“おじさま”と呼ぶ荒木百合子(旧姓・中條百合子、のちの宮本百合子)、金田一邸の女中・菊などが実名で登場します。
薄幸の乙女、というイメージを抱きがちなアイヌの女性の複雑な内面を、そこまで書くか、と驚かされるほど(これが小説家の想像力なのでしょう)赤裸々に描いていて、驚きました。
なかでも、金田一の細君(静江)は、奇矯な言動が多く、かなり迷惑な人物。
金田一との間にできた二人のこどもを幼くして亡くし、それが原因なのか、精神を病んでいたようです。
荒木百合子も、金持ちのお嬢さんらしい自分勝手な女性として描かれています。
幸恵の、このふたりに向ける眼差しは厳しく、彼女が心情を吐露するモノローグも辛辣。
読んでいてはらはらしました。
それでも、幸恵が亡くなる直前に静江が見せた優しさや、百合子の的確な金田一評と幸恵に見せる思いやりに、ほっとします。
アイヌ文化・ユーカラの理解者、紹介者とされている金田一京助ですが、その功罪を見直す必要もありそうです。
ずいぶん前に読んだのですが、藤本英夫(故人)が書いた評伝『銀のしずく降る降るまわりに 知里幸恵の生涯』(1991)
『知里幸恵 十七歳のウエペケレ』(2002年)(共に草風館)
『金田一京助』(1991年/新潮選書)なども、あらためて読み直してみようと思っています。
『100分de名著 知里幸恵・アイヌ神謡集』(2022年9月)もおすすめします。

(2024.4.16 記)

【参考】草風館のサイト
http://www.sofukan.co.jp/ より

『知里幸恵(ちり・ゆきえ)──十七歳のウエペケレ』 藤本英夫 著
http://www.sofukan.co.jp/books/128.html

『銀のしずく降る降るまわりに―知里幸恵の生涯』 藤本英夫 著
http://www.sofukan.co.jp/books/75.html

草風館からは、『アイヌ神謡集』に収録されている神謡(ユカㇻ)を、元々の姿(節をつけて謡われた形)で”復元”した音源のCDも出ている。
「アイヌ神謡集」をうたう うた:中本ムツ子/復元:片山龍峯
http://www.sofukan.co.jp/books/134.html
※片山龍峯さんの手になる『アイヌ神謡集』の解説書(アイヌ語読解)も、草風館から出ている。

また、岩波文庫の”赤版”(外国文学)のロングセラー『アイヌ神謡集』は、昨年、中川裕さんによる改訂新版が出ている。
知里幸惠 アイヌ神謡集 (岩波文庫 赤80-1) 文庫 – 2023/8/10
Amazon
https://amzn.to/3xKsyXK

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