カテゴリー「宮部みゆき」の27件の記事

2011年11月 6日 (日)

【雑】宮部みゆき原作「火車」ドラマ化

テレビドラマは、めったに見ないのだけれど。
原作が宮部みゆきさんだったので、昨夜、見た。

 テレビ朝日|宮部みゆき原作 ドラマスペシャル 『火車』
  http://www.tv-asahi.co.jp/kasha/

出演俳優が私の知らない人ばかりだったのが、よかったのかもしれない。
(ゴリと美保純は知っていたが)
原作の内容もすっかり忘れていたので、とても新鮮だった。

原作は原作で、ミステリー・タッチの社会派劇として名作なのだが、このドラマ化も成功だったと思う。
構成、演出、俳優陣の演技が秀逸。
もちろん、原作のちからに依るところが大きい。

見逃した方は、こちらで。
再放送があるかどうか、わからないけれど。

 見逃しチャンネル
  http://www.tv-asahi.co.jp/minogashi/

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2011年5月 2日 (月)

【歩】おいてけ堀

昼休み、錦糸町界隈を歩いていたら、こういうものを発見。
そうか、これが「おいてけ堀」の跡だったんだ。
錦糸堀公園の一角。

すぐ近くの職場に通いながら、通勤経路からはずれているため、これまで見たことがなかった。


20110502_120110502_2 


― Wikipediaより 抜粋 ―

置行堀(おいてけぼり、おいてきぼり)は、本所(東京都墨田区)を舞台とした本所七不思議と呼ばれる奇談・怪談の1つで、全エピソードの中でも落語などに多用されて有名になった。「置いてけぼり」の語源とされる。

江戸時代の頃の本所付近は水路が多く、魚がよく釣れた。ある日仲の良い町人たちが錦糸町あたりの堀で釣り糸を垂れたところ、非常によく釣れた。夕暮れになり気を良くして帰ろうとすると、堀の中から「置いていけ」という恐ろしい声がしたので、恐怖に駆られて逃げ帰った。家に着いて恐る恐る魚籠を覗くと、あれほど釣れた魚が一匹も入っていなかった。
この噺には他にも
「現場に魚籠を捨てて逃げ帰り、暫くして仲間と一緒に現場に戻ったら魚籠の中は空だった」
「自分はすぐに魚籠を堀に投げて逃げたが、友人は魚籠を持ったまま逃げようとしたところ、水の中から手が伸びてきて友人を堀に引きずり込んで殺してしまった」
「釣り人以外にも、魚を持って堀を通りかかった人が魚を奪われた」
「声を無視していると金縛りに遭った」
などの派生した物語が存在する。

本所の置行堀の怪異の正体は諸説あるが、根強いのは河童の仕業という説、タヌキの仕業という説である。
河童説においては、付近の隅田川、源森橋、錦糸堀、仙台堀に河童の伝承があることが根拠とされており、実際にその伝承にちなみ、墨田区江東橋の錦糸堀公園には河童像が建てられている


本所七不思議といえば、もちろん、宮部みゆきさんのこの小説。
『本所深川ふしぎ草紙』

大極宮 -大沢オフィス公式ホームページ-
 大沢在昌・京極夏彦・宮部みゆき公式ホームページ『大極宮』
http://www.osawa-office.co.jp/

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2011年4月17日 (日)

【雑】みゆきさん、いいなあ

みゆきさんと言っても、中島さんじゃなく、宮部さんのほうだが。

東京新聞 2011/4/16(土) 夕刊 3面
 「あの人に迫る」 宮部 みゆき 作家


   日常のすべてが 作品にはね返る

<「火車」も「理由」も、お金という切実なものがからんでいます。私は、決して豊かなところで育ったわけではなく、今は経済的に恵まれるようになりましたが、お金が人生の幸せとどう結び付くかは、一つの大きなテーマになりましたね。/よく、お金があるより、人のつながりが大事とか言うけれど、これって比べることじゃないです。……>
(記事より)

宮部みゆきさんを「いいなあ」と思うのは、こういうところだ。

<インタビューの日は東日本大震災の二日前だった。後日、震災への思いを事務所を通じて尋ねたが、「コメントは控えさせてください」との返事だった。/悲しい事件や災害に人一倍心を痛める宮部さん。強いショックを受けていることが伝わってきた。……>
(記事より)


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2011年2月20日 (日)

【雑】東京どんぶらこ(錦糸町)

東京新聞の土曜朝刊に連載されている 「東京どんぶらこ」 を、毎週たのしみにしている。
きのう(2/19)は、錦糸町がとりあげられていた。

JR総武線の錦糸町駅南口は、私の通勤路だ。
北口にはほとんど行ったことがないけれど、面白そうなところがたくさんあるんだなあ。
南口バス・ターミナル近くにある、伊藤左千夫の歌碑は毎日見ている。

 よき日には 庭にゆさぶり
 雨の日は 家とよもして 児等が遊ぶも

伊藤左千夫が生きていた明治の頃、このあたりは閑静なところで、彼は牛乳搾乳業を営んでいたという。
歌碑は「伊藤左千夫牧舎兼住居跡」にある。
今のにぎわいぶりからは想像できない。

【東京新聞 2011年2月19日(土曜日) 朝刊 28面】
  「東京どんぶらこ」 468回 より

<明治22(1889)年4月、左千夫がこの地で牛乳搾乳業を始めたのは数えで26歳の時だった。当時は本所区茅場町三丁目。今は京葉道路に面する駅前の一等地である。> (田中哲男=東京新聞編集委員)

京葉道路に架かる大きな歩道橋を渡ってすぐ、四ツ目通り右側(西側)のアーケード街に、人形焼の老舗 「山田家」 がある。
宮部みゆきさん御用達の店だという。
私は、職場からの帰り道、ときどきここで人形焼を買って帰る。
(下の記事左側の地図に載っている)

Tokyo_shinbun_20110219_2Tokyo_shinbun_20110219_1 

【参考サイト】

錦糸町の歴史 kinshicho history
http://www11.ocn.ne.jp/~tulipfls/kinshicho.htm

すみだ川雑誌: 錦糸町駅・伊藤左千夫旧居跡
http://sumidagawa.daizyoubu.net/article/4622664.html

Wikipedia 伊藤左千夫
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%8A%E8%97%A4%E5%B7%A6%E5%8D%83%E5%A4%AB

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2010年9月12日 (日)

【読】五木寛之 選評集(続)

五木寛之さんの近刊(選評集)の興味のあるところを拾い読みしていたら、宮部みゆきさんの直木賞受賞作 「理由」 の選評があり、うれしくなった。
べたほめである。

Itsuki_senpyou_2五木寛之 『僕が出会った作家と作品』  五木寛之選評集
 東京書籍 2010/9/7発行
 691ページ 1500円(税別)

直木三十五賞 第120回 [1999年1月]
 理由 宮部みゆき
選考者
 阿刀田高、五木寛之、井上ひさし、黒岩重吾、田辺聖子、津本陽、平岩弓枝、渡辺淳一

(本書 P.145-146 より)
「理由」を推す理由 五木寛之
<第百二十回の直木賞の受賞作は、すっきりと「理由」にきまった。すでに宮部さんのこの作品は、発表当初から世評の高かった秀作で、今回の受賞も当然のことのような印象がある。/「理由」は、新聞に連載された長篇だが、単行本として読んでいると、新聞小説という枠組みや制限をほとんど感じさせない重厚で奥行きのある作品に仕上がっている。作者のこの作品に対する取組みかたが、なみなみならぬものであることがうかがえて、大きな充足感をおぼえさせられた。/ミステリーは、すでに小説の一形式の域を超えて、現代小説のフォーマットとなっていると言っていい。宮部さんは、人間を社会に生きる存在として克明に描くという、小説の王道を臆することなくたどりながら、そのなかに人間の内面を鮮やかに彫りおこすミステリーを創りあげることに成功した。……>

宮部作品の真髄とでも呼びたい魅力を、的確に評していると思う。
「人間を社会に生きる存在として克明に描く」 ことが宮部作品の基調、という指摘はもっともである。
それが 「小説の王道」 という。 五木さんの小説観なのだろう。
同感。

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2010年8月25日 (水)

【読】さすがだね、みゆきさん(続)

長い小説を読みおえた。

Miyaba_kogure_shashinkan宮部みゆき 『小暮写眞館』
 講談社 2010年5月15日発行
 716ページ 1900円(税別)

 第一話 小暮写眞館
 第二話 世界の縁側
 第三話 カモメの名前
 第四話 鉄路の春

さすが、みゆきさん。
最後まで飽きることなく、いっきに読むことができた。
ストーリー展開が徐々にスピードをあげ、大団円ですーっと幕をおろす。
この展開のうまさは、宮部みゆきさんならでは。
こういう小説を、上質の「読み物」という。

どんなに面白い小説でも、どこかに「ほころび」というか、破綻の見えることが多いものだが、この小説――に限らず、宮部作品のほとんどすべて――にはそれがない。

ちょっとひっかかったことといえば(重箱の隅をつつくようで気がひけるが) ――
高校の吹奏楽部の打楽器群を指して、「リズムセッション」(正しくは、リズムセクションだろう)と、二度にわたって書いているところと、パソコンのマウスポインター(ピカチュウの)を、「カーソル」と呼んでいるところ。
―― この二ヶ所だが、宮部さんのことだから(私はこのひとのファンだから)、笑って許してあげるのだ。
宮部さんはパソコンではなくワープロ(専用機)を使って原稿を書く、と聞いたことがある。
たしかに、ワープロなら「カーソル」だ。

こういう、できのいい小説を読んだあと、何を読もうかとしばらく悩んでしまう。
つぎは何を読もうかなあ。

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2010年8月20日 (金)

【読】さすがだね、みゆきさん

みゆきさん、と言っても、中島さんじゃなくて宮部さんのほうだけど。

Miyaba_kogure_shashinkan_2宮部みゆき 『小暮写眞館』
 講談社 2010年5月15日発行
 716ページ 1900円(税別)

ぶ厚く、重い。
目方を量ってみたら、700グラムあった。
厚さは4センチ。
電車の中、片手で持って読むのは、ちと、しんどい。

今日から読みはじめたのである。
朝夕の通勤の乗り物のなかで、100ページほど。
活字が小さいので(たぶん9ポイント) 、そうとうなボリュームだ。
それだけ楽しみの大きな小説とも言える。

今日読んだところまでで、写真館の「真」が、なぜ「眞」なのかわかった。

宮部みゆきさんの小説のなかでは、『理由』(1998年、直木賞受賞作)と似た世界。
少年を主人公にした現代小説は、宮部さんの作品のひとつの流れだ。

一週間ぐらい、宮部ワールドにどっぷり浸ることができそうだなあ。

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2010年7月11日 (日)

【読】最近の収穫

最近、興味ぶかい本を何冊か手にいれた。

土曜日の午後は、TBSラジオ 久米宏の番組を聴くことが多い。

TBSラジオ 久米宏 ラジオなんですけど
 http://www.tbs.co.jp/radio/kume954/

「今週のスポットライト」 というコーナーでは、毎回、多彩なゲストが出演し、おもしろい。
今年の2月、中村安希さんという魅力的な女性が出演した。
下の番組サイトに顔が写っているが、なかなかの別嬪。

 2010年02月27日 ゲスト:中村安希(ノンフィクション作家)
  http://www.tbs.co.jp/radio/kume954/guest/20100227.html

ところがどっこい、外見とは裏腹に、「2年間にわたり、ユーラシア大陸やアフリカ大陸の47カ国を単身で旅した」 というツワモノなのだ。
その、中村安希さんの本を手にいれた。

Nakamura_aki_impala_2中村安希 『インパラの朝』
  ― ユーラシア・アフリカ大陸 684日 ―
 集英社 2009/11/18発行
 283ページ 1500円(税込)
Amazon http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087814343

― 本書カバーより ―
私は45リットルのバックパックの底に980円のシュラフを詰めた。三日分の着替えと洗面用具、パブロンとバファリンと正露丸を入れた。それからタンポンとチョコラBB。口紅とアイシャドウと交通安全のお守りを用意した。パソコンとマイクとビデオカメラを買い揃え、小型のリュックに詰め込んだ。果物ナイフや針金と一緒に、ミッキーマウスのプリントがついた覆面も忍ばせた。そして、ジムで鍛えた両腕に四本の予防注射を打ち、体重を三キロ増やして日本を離れた。

――これだけでもう、この本と著者の魅力が十分にうかがわれる。
はやく読みたい本だ。
あいにく、他にも読みたい本がたくさん手もとにあるのが、つらいところ。

中村安希 (本書著者紹介より)
なかむら・あき―― 1979年京都府生まれ、三重県育ち。98年三重県立津高等学校卒業。2003年カリフォルニア大学アーバイン校、舞台芸術学部卒業。日米における三年間の社会人生活を経て、06年ユーラシア・アフリカ大陸へ旅行。各地の生活に根ざした〝小さな声〟を求めて、47ヵ国をめぐる。08年帰国。国内外にて写真展、講演会をする傍ら、世界各地の生活、食糧、衛生環境を取材中。他に、海外情報ブログ「安希のレポート」 http://asiapacific.blog79.fc2.com/ を更新中。



Miyaba_kogure_shashinkan_2ところで、ひいきの作家のベストセラーは気になるもの。
私の好きな宮部みゆきさんの新刊が気になってしかたがなかったので、とうとう買ってしまった。
これも、すぐには読めないが(ぶ厚い本だ)。

宮部みゆき 『小暮写眞館』
 講談社 2010/5/15発行
 716ページ 1900円(税別)
Amazon http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062162229

現代小説で、宮部さんの作品のなかでは 『理由』 の系列だろうか。
腰をすえて一気に読みたいものだ。


東京新聞 2010/6/27(日) 朝刊 掲載書評

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いま読んでいるのは、関野吉晴さんの「グレートジャーニー」シリーズ。
文庫なので通勤電車のなかで読むにはもってこいだ。
一巻目を読みおえたところ。

関野吉晴 『グレートジャーニー 人類5万キロの旅』 1~5
 角川文庫 2010/1~5月発行

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2010年4月30日 (金)

【雑】【読】本所七不思議

職場から錦糸町駅へむかう道すがら、ひさしぶりに人形焼の山田家さんに寄った。
手提箱にはいった10個入の人形焼(餡入り)を買ったら、しゃれた紙袋にいれてくれた。

人形焼・瓦煎餅 山田家
 http://yamada8.com/

本所七不思議。
宮部みゆきさんの時代小説の世界だ。

上にあげた山田家さんのサイトに、宮部みゆきさんのことも書かれている。
宮部さんは、この店のご常連だとか。


「山田家」 さんの紙袋より (宮尾しげを 画)
Yamadaya_nanahushigi1Yamadaya_nanahushigi2

 宮尾しげを (はてなキーワードより)
  http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B5%DC%C8%F8%A4%B7%A4%B2%A4%F2

 【参考サイト】
  「山田家」本所七不思議の人形焼(錦糸町) - [和菓子]All About
   http://allabout.co.jp/gs/wagashi/closeup/CU20100101A/


Miyabe_fukagawa宮部みゆき 『本所深川ふしぎ草紙』
 新潮文庫 1995年 266ページ 514円(税別)
 解説 池上冬樹

第一話 片葉の芦    第二話 送り提灯
第三話 置いてけ堀   第四話 落ち葉なしの椎
第五話 馬鹿囃子    第六話 足洗い屋敷
第七話 消えずの行灯



【以前の関連記事】
 2008年12月22日 (月) 【歩】【読】人形焼と宮部みゆきさん
  http://yamaoji.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/post-d81c.html
 2008年3月19日 (水) 【歩】錦糸町「山田家」の人形焼
  http://yamaoji.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_30aa.html 

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2009年3月19日 (木)

【読】船戸さんの素顔

このブログにときどきコメントを寄せてくれる知人(こまっちゃん)が教えてくれた本。
メチャメチャおもしろかったな。


Takano_myanma『ミャンマーの柳生一族』  高野秀行
 集英社文庫  2006/3/25発行
 238ページ  429円(税別)

謎のタイトルだが、種明かしは控えておく。
カバーに印刷されている簡単な紹介文を転載する。

<探検部の先輩・船戸与一と取材旅行に出かけたミャンマーは武家社会だった! 二人の南蛮人に疑いを抱いたミャンマー幕府は監視役にあの柳生一族を送り込んだ。 しかし意外にも彼らは人懐こくて、へなちょこ。 作家二人と怪しの一族が繰り広げる過激で牧歌的な戦いはどこへ…。 手に汗握り、笑い炸裂。 椎名誠氏が「快怪作」(解説)と唸り仰天した、辺境面白珍道中記。>


この通りの内容である。
まさに、「快怪作」。

本屋に行くと、高野さんの文庫本がたくさんでていた。
なかなか面白そうな著作ばかり。
顔写真は、ちょっと中田英寿に似ている。
中田よりも男前か。


本書の解説は、あの椎名誠さんだが、別の本 『幻獣ムベンベを追え』 は宮部みゆきさん、『アヘン王国潜入記』 は船戸与一さんが、それぞれ解説をよせている。
(いずれも集英社文庫。私のてもとにある。)

私にとっては、関心のふかい人たちばかりだ。


この本では、船戸さんとの珍道中が笑える。
取材旅行のはずだが、船戸さんはメモをとったり写真を撮ることは、いっさいしない。
ただあちこちを動きまわって、観察するだけ。
不思議な作家である。

船戸さんにまつわるエピソードが、なんといってもおかしい。
腹をかかえて笑ってしまう。


【エピソード その一】

船戸さんがひとりで、暇つぶしにミャンマーの首都ヤンゴンの街をぶらつこうとタクシーを拾った。

<で、「ミャンマーではみだりに政治の話をしてはいけません」 というガイドブックの教えなどまったく無視して、いきなり運転手に 「あんた、アウン・サン・スー・チーをどう思うか?」 と訊いた> のだそうだ。

ところが意外なことに、運転手の返事は 「あー、好きだよ」 だった。
さらに、「1988年の民主化動乱のとき、政府は死者千人などと言ってるけど、ほんとうは一万人くらい殺されたんだ」 とか、「ここは市民や学生の遺体が軍のトラックで運ばれて、捨てられてたんだ」 などと、気さくに案内してくれたという。

船戸さんのスケールの大きなところは、タクシーの運転手にとどまらず、この取材旅行に同行したお目付け役のミャンマー軍情報部(著者はこれを「柳生一族」と呼ぶ)と思われるアブナイ相手にまで、このテの質問を平気で発することだ。

<……この男が柳生の手の者という可能性だってある。 私は 「下手に話を政治問題へもっていくまい」 と思った。>

そんな著者(高野さん)の心配をよそに――

<しかし、ヤンゴン市内を抜けて、草葺きの家と田んぼに景色が変わったころ、船戸さんはまた唐突に訊いた。
「あんた、アウン・サン・スー・チーは好きか?」
すると、助手席の男は、さきほどの世間話の続きみたいな調子で、「もちろん」 と答えた。 そして、政府の批判をとうとうと述べ始めた。 私は拍子抜けしてしまった。>


【エピソード その二】

「柳生一族」 は、船戸・高野コンビの取材旅行にずっとくっついてくる。
そもそも、この旅行は、ミャンマーの軍情報部が経営する旅行社 「ナーガ・トラベル」 のお膳立てによるものだった。
というか、ミャンマーの辺境を旅することは、そう簡単にはできないのだ。
いわば、監視付きである。

そんな 「柳生一族」 と夕食をともにした時のはなし。
気をつかいつつも、いっしょに酒を飲んでいるうちに、いつしか酔いがまわり――

<一時間くらいたったころだろうか。 船戸さんが突然改まったような調子で言い出した。
「ところで、あんたたちに一つ、訊きたいことがある。」>

<私はギクッとした。 また、唐突に政治問題に触れそうな気配がしたからである。 柳生たちも顔をあげた。
船戸さんが凄みのきいた低い声で問う。
「いったいどっちがミャンマーの国民に人気があるんだ?……」>

<来た! 幕府とスー・チーをこの場でいきなり天秤にかけるというのか。 船戸さん、ちょっと早すぎる!>

ここでちょっと注釈を加えると、「幕府」 とはミャンマーの軍政部。
著者は、現代のミャンマーの政治状況を、日本の江戸時代になぞらえて書きすすめているのだ。

それまで談笑していた座の雰囲気は、にわかに緊張する。
「柳生」 たちの持つグラスもピタッと止まった。
そのとき、船戸さんはこう言った――

 「どっちが人気があるんだ……ミャンマービールとマンダレービール?」

このひとことで一座の緊張はいっきに解けたが――

<船戸さんはわざと柳生たちをからかっているのかと思えばそんなこともない。 「どっちのビールのほうが人気があるんだ?」 としつこく訊いている。 もしかしたらこれも取材の一環なのかもしれない。 いや、ただ酔っ払っているだけかもしれない。>


その後、船戸さんは突然話題を変え、アメリカを罵りだす。

<「勝手にイラクに戦争をしかけて、後始末を日本の軍隊に手伝わせようとしている」 とか 「いつも自分たちが正しいと思っているバカ野郎だ」 と言ったあと、バーン!とテーブルを叩いて怒鳴った。
「アメリカ、マザーファッカー!」>

<柳生たちはみんな親指を立てて、「そうだ、そうだ!」 と大喜びである。 なにしろ、ミャンマー幕府にいちばん圧力をかけているのはアメリカである。 幕府はアメリカを忌み嫌っており、柳生一族も例外ではない。>


な、なんなんだ。
いったいこの人は。
船戸与一、おそるべし。


【エピソード その三】

ミャンマーの北西部、ホマリンという田舎町の宿でのこと。
古い木造二階建ての宿のベランダに、籐の椅子を持ちだしてくつろいでいた船戸さん。

いっぽう、高野さんは木陰の特等席を船戸さんにとられたため、部屋で本を読んでいた。
宮部みゆきさんの 『堪忍箱』 という文庫本だった。

<旅先で読むには文庫本の短編集がいい。 江戸時代にタイムスリップしたようなミャンマーで時代ものを読むのも粋というもんだ。>

<ところがである。
「高野!」 と、ドスのきいた声が聞こえた。 「何か、本、持ってないか? ヒマでしょうがねえ」>

<しょうがない。 私はため息をつき、開きかけた文庫本をそのまま、船戸さんのところに持っていった。 「これ、どうです?」>

船戸さんの反応が、また、笑える。

<「ん? おー、みゆきの本じゃねえか」 (略)
船戸与一は宮部みゆきのことを 「みゆき」 と呼ぶ。
前に初めて船戸さんが 「みゆきは売れっ子だからよお……」 とか言ったときには、私は馴染みの芸妓の話でも始めたのかと思ったものだ。>

意外なことに、船戸与一と宮部みゆきは、<どういうわけか、気が合うらしく、たまに一緒に酒を飲んだりするらしい。>

うーん、不思議な組み合わせだ。


<「オレよお、みゆきの本、一冊も読んだことねえんだよ。 たぶん、みゆきもオレの本、読んだことねえと思うけどな」 とのことだ。 さもありなん、という感じである。>

<「よし、一度くらい読んでみるか」
フセインのような面構えの男がえらそうにふんぞり返り、宮部みゆきの人情時代物を読む姿は不似合いに極まっていた。>


もともと私は船戸与一の大ファンで、しかも、宮部みゆきファンなのだ。
もう、このエピソードなんかは、うれしくてたまらない。

電車とバスの中だけで、二日間で読みおえたこの本。
ほんと、たまらなかったなあ。

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