【読】「アイヌ歳時記」再読
瀬川拓郎さんの 『アイヌの歴史 海と宝のノマド』 (講談社選書メチエ) をようやく読みおえた。
これは、ほんとうにいい本だと思った。
新聞書評で、本の題名 「アイヌの歴史」 というのがよろしくない、というものがあったが、副題 「海と宝のノマド」 がいい。
エキゾチックな響きがある。
著者は、あとがきの中で、知里真志保のつぎのことばを引用している。
<従来アイヌ及びアイヌ文化は、時代による変遷と地方による差異とを無視して、あまりにも単純に考えられすぎていた嫌いがあります。……アイヌ及びアイヌ文化の内容が今まで考えられていたよりも遥かに複雑であり、抱負であり……そこから北海道の先史時代の人と生活を明らかにする鍵をいくらでも掴み出してくることができるのだという印象を皆さんに持っていただくことができましたなら、私の目的は達せられたのであります。>
(知里真志保 「ユーカラの人々とその生活」)
そして、こういうことばでこの本をしめくくっている。
<単一民族・単一文化という同一化の「虚構」が圧倒的な力で支配するなか、勇気をもって差異という「本質」を誇り高く生きてゆこうとする人びと。 だが、それは叶えられているか。 私たちが考えなければならないのは、このことだろう。>
(『アイヌの歴史 海と宝のノマド』 あとがきより)
ところで、私の友人で北海道旭川市に住む「玄柊」さんが、ごじぶんのサイトに、旭川アイヌの墓標の写真を掲載していた。
ひさしぶりに、萱野茂さんの本を開き、イラストで男女の墓標のちがいを確認。
そして、この本を、通勤の友としてそのまま鞄にいれて持ち歩き、読みはじめた。
何年か前に読んだきりだが、けっこう内容をおぼえている。
ここ数年のあいだに私のアイヌ理解もそれなりに深まっているので、今回の再読では、これまで気づかなかったこともわかって、興味ぶかいものがある。
萱野茂 (かやの しげる)
『アイヌ歳時記 二風谷のくらしと心』
平凡社新書 2000.8.21 700円(税別)
ちくま学芸文庫版(2017年)
― 目次 ―
序章 二風谷に生まれて/第一章 四季のくらし/第二章 神々とともに生きて/第三章 動物たちとアイヌ/第四章 生きることと死ぬこと/第五章 アイヌの心をつづる/あとがき
イラスト、写真も多く、萱野さんの文章もごく自然体で、とてもいい本だ。
アイヌ文化・生活・歴史の入門書としても、おすすめ。
萱野さんご自身の体験に根ざす、さまざまなエピソードが語られている。
【参考サイト】
平凡社 http://www.heibonsha.co.jp/
→ 全点検索 →「アイヌ歳時記」で検索
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コメント
本を繰り返し読み、自分の足で本物をみる、それしか認識を深める道はありませんね。今年こそ萱野さんのいた二風谷へと念願しています。近いようで遠い場所です。
投稿: 玄柊 | 2008年5月22日 (木) 16時51分
>玄柊さん
いつもコメントをありがとう。
二風谷、それほど遠くないと思いますが(富良野経由で行けば)、私も帰省の折に一度計画しました。
宿までとったのですが、結局、帰省じたいが中止になって果せませんでした。
二風谷はちょっと特別な場所のようですね。
「聖地」などと呼びたくはありませんが、アイヌの人たちの色の濃い土地のようです。
萱野さんの著作はおすすめです。
投稿: やまおじさん | 2008年5月22日 (木) 21時28分