【楽】【読】詩人による中島みゆき論
気になっていた本なので図書館から借りていたのだが、なかなか読めないまま返却期限がきてしまい、貸出延長。
ようやくきのうから読みはじめた。
天沢退二郎 (あまざわ・たいじろう)
『中島みゆきを求めて』
創樹社 1986年
197ページ 1200円
のっけから、うーん、とうなってしまった。
感心したのではない。
難解さに、引いてしまったのだ。
詩人の手にかかると、中島みゆきの歌の世界はこんなふうに論じられるのか。
<歌から歌へ、アルバムからアルバムへ、≪中島みゆき≫の声が詞とメロディをかき立てかき鳴らして、流れてはよどみ、走っては沈みまた流れ出し、こうして年月も歌声もくりかえし渦をつくっては、その渦をときほぐしてまた流れだし、そこへまた新しい流れが加わっては、私たちのひとり舟をくるくるとゆらめかせ、突き放しては引きよせる……そうしてテープがまわりまわって、いつでもまためぐりめぐってきこえ出すのはやはり、「あぶな坂」である。>
― ≪中島みゆき≫に沿って 一 化粧の歌 『私の声が聞こえますか』 本書 P.15 ―
なるほど。
中島みゆきへの熱い想いはよく伝わってくるのだが、「歌の世界」を「ああでもない、こうでもない」と言葉でもってこねくりまわすことが、私は好きではない。
私もよくやるので、他人のことは言えないが……。
すこし前に勢古浩爾さんの中島みゆき論を興味ぶかく読んだが、それとはまたちがった印象で、かすかな拒絶反応が私のなかで起きてしまい、困った。
しかし、読みすすめるうちに、なかなか面白いと思いはじめた。
読み続けてみよう。
執筆されたのが1980年代なかばということから、中島みゆきの初期アルバム(ファースト・アルバム「私の声が聞こえますか」から、1985年発売の「miss M.」まで)が筆者の論究対象。
好意的にとらえれば、詩人らしい感性で「中島みゆきの世界」に迫ろうとしている、と言える。
いかにも詩人らしいのは、「十二世紀南仏の女流抒情詩人」 コンテッサ・ド・ディアの詩句が紹介されていたりするところ。
こんな女流詩人のことなど私は知らなかったが、なんと、弾き語りで歌った当時の譜面も残っていて、レコードで聴くこともできるという。(ビクターレコード 『遥かなる恋』)。
なかなか勉強になるのだ。
また、「はじめに」 に書かれたこんな言葉は、詩人らしくていい。
<世に≪琴線≫とか、≪琴線にふれる≫とかいった、使いふるされた熟語・言いまわしがあるけれども、この≪琴線≫というのは単なる喩ではなくて、ほんとうに胸のこのあたりにあるのだということが、≪中島みゆき≫の歌をきくとよくわかる。イントロが終って、≪中島みゆき≫の歌う声がはじまると、まさに私の胸のこのあたりの、まさしく横にひとすじの線が、歌声にじかに共鳴してぴりぴりと鳴り出しておさえようがなく、どこかでじーんと涙のようなものがにじんでくるのがわかるのだ。>
これこそ、中島みゆきファンにしかわからない心境である。
うれしいね。
―目次―
歌姫 中島みゆき〝コンサートツアー〟への夢
はじめに
≪中島みゆき≫に沿って
一 化粧の歌 『私の声が聞こえますか』
二 風が吹き風が吹き 『みんな去ってしまった』
三 いやな男・いなや私 『あ・り・が・と・う』『愛していると云ってくれ』
四 放射するメッセージ 『親愛なる者へ』
五 きびしさへの分岐 『おかえりなさい』と『生きていてもいいですか』
六 歌姫の二つの顔 『臨月』と『寒水魚』
七 さらなる変化を 『予感』以降
≪中島みゆき≫の発見
「朝が早い」のはなぜか
中島みゆき論を求めて
諦めと洞察 中島みゆき論のための二つの手がかり
≪声≫の出所 中島みゆきと宮沢賢治
献呈詩篇
スナックの窓から 死神はどちら 雨…
[帰りなき者たち]から 雨の歌
あとがき
初出一覧
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