【読】澤地久枝 「昭和・遠い日 近いひと」
図書館から借りた岩波ジュニア新書を読んでいた。
畑谷史代(はたや・ふみよ) 『シベリア抑留とは何だったのか』
― 詩人・石原吉郎のみちのり ―
岩波ジュニア新書 618
2009年3月発行
201ページ 740円(税別)
著者は1968年生まれというから、まだ四十代で若い。
信濃毎日新聞社の報道部、文化部を経て、論説委員(本書出版当時)。
詩人 石原吉郎を軸にシベリア抑留者たちの戦後を丹念に追った評伝で、印象深い内容だった。
戦中の満州、シベリア抑留を経て復員まで、石原吉郎と近しかった鹿野武一(かの・ぶいち※)という人がいる。
barbaroi!
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/tiakio/index.html 内
「鹿野武一」関連資料集
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/tiakio/yaziuma/kano/kanobuichi.html
澤地久枝の『昭和・遠い日 近いひと』に、鹿野武一とりあげられることも、この本で知った。
(※澤地さんのこの本では、「武一」を「たけかず」と読むことが書かれている)
澤地久枝 『昭和・遠い日 近いひと』
文春文庫 2000年12月発行
(親本 文藝春秋社 1997年7月)
331ページ 524円(税別)
ずいぶん前、古本屋でみつけて、いつか読もうと思い買っておいた本だった。
九話からなるこのノンフィクションも、丹念な取材に裏打ちされたもので、感銘をうけた。
治安維持法下の愛と死 (井田凜一)
「父いづこ」という環 (新井紀一)
反戦川柳作家 鶴彬
「太田伍長の陣中日記」以後
アッツ島玉砕者のたより (矢敷喜作)
占領下の花 鈴木しづ子
廣津和郎 男としての誠実
山村農家の母の自死 (木村セン)
シベリア抑留八年 夫と妻 (鹿野武一)
以上が、九話の章題。括弧内に主人公の名前を補った。
よく知られた人もいれば、まったくの無名人もいる。
「山村農家の母の自死」は、せつない話だ。
働いて、働いて、働きぬいて、いよいよ動けなくなった64歳の農婦、木村センさん(骨折して歩けなくなり、自死を選んだ)の遺書は、胸にしみる。
<四十五ねんかんのあいた わがまヽおゆてすミませんでした/みんなにだいちにしてもらてきのどくになりました/じぶんのあしがすこしもいごかないので よくよくやになりました ゆるして下い/……>
―澤地久枝 『昭和・遠い日 近い人』 文春文庫 P.242- より―
私は「無名人」と書いたが、ほんとうは、この世に「無名」な人なんか一人もいない。
世間的に知られていない人であっても、その肉親、周囲の親しい人たちにとっては、呼ぶべき名前のある、かけがえのない人だったはずだ。
<死者は一人ひとりねんごろに、その固有の名を呼んで弔われるべきであり、この人たちを「名もなき兵士」「無名戦士」などと虚飾して、人類史の襞に埋め戻す非礼は決して許されることではありません。(中略)この死者たち一人ひとりの前に立ちどまり、その名を呼びその声に聞き入ってほしい>
―畑谷史代 『シベリア抑留とは何だったのか』 岩波ジュニア新書 P.164 より―
これは、シベリアのハバロフスクに四年間抑留された新潟県糸魚川市の元中学校教諭 村山常雄さんが自費出版した『ソ連抑留中死亡者名簿』の「はしがき」に記された文章だという。
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