【演】松本留五郎
さきごろ手にいれた、CDつきマガジン 「落語 昭和の名人 完結編」 第一巻、桂枝雀のCDを聴いた。
隔週刊 落語 昭和の名人 完結編
2/22号
第一回配本 二代目 桂枝雀 (壱)
2011年2月8日発売
小学館 490円(創刊記念特別価格)
代書 27分49秒
昭和57年8月19日
関西テレビ「とっておき米朝噺し」にて放送
親子酒 24分11秒
昭和56年 10月7日
大阪サンケイホール「枝雀十八番」にて収録
「代書」(「代書屋」とも)は、枝雀の十八番(おはこ)のひとつ。
代書屋(いまで言う司法書士・行政書士)を訪ねるアホな主人公、松本留五郎は、枝雀がつくりあげたキャラクターである。
この噺の原作者は、四代目桂米團治(米朝の師匠)。
米團治自身が代書屋を営んでいたことがあり、その経験にもとづいて生まれた噺、ということはよく知られている。
その後、愛弟子の桂米朝から三代目桂春團治に伝わり、春團治の十八番になっているという。
米朝が米團治の三十三回忌追善で演じた音源(カセットテープ)を聴いたが、代書屋の客のひとりを中国人とし、今なら「差別的」と指摘されそうな、かなりきわどい内容。
(このときの米朝の口演が、四代目米團治のオリジナルに近いようだ)
その点、枝雀の「代書」は安心して聴いていられる。
― 解説書より (前田憲司) ―
原作の米團治は代書屋を主人公に、訪れる4人の客とのやりとりを描いた。応対する代書屋の困惑ぶりが笑いに拍車をかけ、噺の奥行きが増した。続く米朝と春團治は、客は履歴書の男ひとりに絞ったが、全体を通しての演出は米團治のものをふまえ、代書屋の描写に力点を置いている。
ところが枝雀は、主人公を客の松本留五郎にした。もちろん、代書屋の困り顔や、ふと漏らすボヤキにも似たせりふで、展開に緩急をもたせてはいる。だがそれ以上に、陽気で底抜けに明るい客の、天衣無縫の言動を強烈に表現し、〝松本留五郎〟をスターにしてしまったのだ。
「親子酒」の音源は、私がレコードで持っている「枝雀十八番」(昭和56年、大阪・サンケイホールでの六日間連続独演会)で演じられたときのもの。
今回、このCDであらためて聴いてみて、酔客(息子)とうどん屋のやりとりが枝雀一流の演出で、たまらなくおかしい。
― 解説書より (前田憲司) ―
東西落語会を通じてお馴染みの噺でオチも同じだが、導入部分が東西で異なる。東京では、酒好きの親子が互いに禁酒の約束をする場面から始まり、……(略)。
上方の演出では、枝雀も演じているように禁酒の約束はなく、冒頭、父親が酔っぱらって帰宅。その後の息子の酔態ぶりが大きな聴かせどころ、見せどころとなる。この件を独立させて『うどん屋』『三人上戸』という演題で演じることもある。
このCDに収録されている演目は、いずれも枝雀絶頂期のもので、天才落語家の笑いの世界に身をゆだねるることができる。
こういう面白い本がある。
平岡正明 『哲学的落語家!』
2005/9/20発行 筑摩書房
326ページ 2200円(税別)
https://amzn.to/3BGRku1
平岡さんらしい、爽快な一冊。
― 帯より ―
<江戸っ子平岡正明 上方爆笑王に挑む>
<俺が落語に目覚めたのは数年前だ。/志ん生・文楽から現在の若手までを/ヨーイ、ドンで聞いた。/最も衝撃を受けたのは「彼」。/どえらい上方落語の爆笑王だ。/「彼」の思想性の大きさよ。/俺はナマの高座を聞いていない。/残された音と映像だけから/「彼」の思想の深さを言いたい。/松本留五郎の鼓腹撃壌を、/夢野久作との相似を、/天地の逆転を。/この一冊を泉下の「彼」に捧げる。>
平岡さんも死んでしまった……。
【註】 鼓腹撃壌(こふくげきじょう)
満腹で腹鼓をうち、地面を踏みならすことから、人々が平和で安楽な生活を喜び楽しむさま。太平の世のたとえ。
出 典 『十八史略』
http://www.sanabo.com/words/archives/2002/08/post_2271.html より
(2011/2/15 加筆)
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コメント
私もこのCDブックを買い、ブログ検索をしていたら、ここにたどり着きました。
私も同感。枝雀師匠は最高です。
記事にある演題の解説は小佐田定雄さんではなく、前田憲司さんですよ。
小佐田さんは人物伝の担当ですね。
小学館もいい執筆構成にしたと思いました。
投稿: 松本留五郎 | 2011年2月12日 (土) 23時50分
>松本留五郎さん
コメント、ありがとうございます。
枝雀ファンの書きこみはうれしいですね。
ご指摘の通り、演題解説は前田憲司さんでした。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%8D%E7%94%B0%E6%86%B2%E5%8F%B8
わたしもそそっかしいというか、よく読まないで書いてしまっって面目ない次第です。
どうも、すビバせんネ(笑)。
投稿: やまおじさん | 2011年2月13日 (日) 08時33分
早速にお返事をいただきありがとうございました。
今日、CDブックを買った本屋に行きましたら、もう売り切れていました。
枝雀師匠の人気はいまだに衰えてないのですね。
枝雀師匠の落語をたくさん聞きたいです。
ありがとうございました。
投稿: 松本留五郎 | 2011年2月14日 (月) 17時14分