【読】池澤夏樹さんの「終わりと始まり」
高野秀行さんと角幡唯介さんの対談 『地図のない場所で眠りたい』 を読みおえて、さて次に何を読もうか。
本棚を眺めて、池澤夏樹さんが昨年出版した本をとりだし、読みはじめた。
まだ読んでいなかったのだ。
池澤夏樹 『終わりと始まり』
朝日新聞出版 2013/7/30発行 229ページ 1,400円(税別)
これは、今でも続いている朝日新聞連載のコラムを集めたもの。
■
私は大きく勘違いしていたのだが、執筆開始は2009年4月だった。
書名から、東日本大震災後に書き始めたものだと、勝手に思っていた。
表紙の写真も、あの震災のものかと、なんとなく思いこんでいた。
「砂浜に坐り込んだ船」と題された表紙写真は、池澤夏樹さん自身によるもの。
「あとがき」に写真の由来が書かれていた。
2010年3月末のある朝、新聞で目を引く記事をみつけたという。
池澤さんが住む札幌に近い石狩浜の海岸で、ドンフォン号という名のベトナムの船が座礁した記事。
カメラを持って現場に向かい、撮影した写真がこれだった。
「終わりと始まり」という題名からも、東日本大震災を思い浮かべたのだが、そうではなかった。
最初の執筆の前に、「さりげないタイトル」を、と考え、シンボルスカ(ポーランドの女性詩人)の詩を借りたのだそうだ。
写真といい、書名といい、2011年3月11日の震災との、あまりの符合に驚く。
■
池澤さんの文章は、静かな語り口のなかに強い意志が感じられて、勇気づけられる。
「いつも遠くを見る」――それが池澤さんの姿勢ではないだろうか。
この新聞連載は、エッセイではなくコラムだと、「あとがき」にある。
エッセイ(池澤さんはエッセーと表記)は、「試論」という意味で、「自分の心に近いテーマを取り上げて、それをもとにどんな思索ができるか試してみる」こと。
それに対して、「コラムの基本はジャーナリズム」だと。
その時々の社会的なできごと(つまり、時事)について、池澤さんらしいジャーナリスティックな発言が、静かに綴られている。
ときに怒ることがあっても、池澤さんの怒りは静かで重い。
■
たとえば、この本の二篇目のタイトルは、「イラク戦争の後始末」(2009年5月2日掲載)。
2003年の米軍イラク攻撃によって首都バグダッドが陥落。
それを待っていたかのように、イラク国立博物館から暴徒によって多くの(一万数千点もの)文化財が略奪されたという。
こういうことを、私は知らなかった。
当時、マスメディアで大きく取りあげられたという記憶もない。
執筆当時、世田谷の国士舘大学で開かれていた「イラク文化遺産の破壊と略奪」展を見に行ったことから始まる。
2002年に訪れたイラクで見たメソポタミア遺跡のこと。
ブッシュの発言――「大統領の職にあった中で、最大の痛恨事はイラクの情報の誤りだった」――への批判(誤りは開戦判断であり、その後の展開の予想に関するものではなかったのか)。
それでも、誤りを認めたブッシュは評価できるとし、それにひきかえ、日本政府(当時の小泉政権)がこの戦争(イラク攻撃)を支持したことについて、その後なんら撤回表明することなく、だんまりを決めこんでいることを鋭く指摘する。
いかにも池澤さんらしい、本質をついた発言だと思う。
この本は、一篇一篇、ゆっくり味わいながら読みたい。
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