再読 服部文祥『北海道犬旅サバイバル』
今月(2024年7月)北海道旅行で5年ぶりに再会した友人。
かれこれ20年にもなるだろうか、東京から北海道 北見の近くの置戸町に移住。
オケクラフトと呼ばれる木工の工房を自宅で営みながら、北海道の山を歩き続けている友人だ。
今回、会ったときも、北海道の山の話で盛りあがった。
私も、高校時代(もう50年以上も昔)、山岳部に2年間所属し、いくつかの山を登っていた。
数えるほどの山しか知らないが、日高の山々には、とくに憧れをもっていた。
友人は、そんな日高の山にも、アプローチに自家用車を使って登ったという。
服部文祥『北海道犬旅サバイバル』(みすず書房、2023年9月)
私には興味津々の本だった。
今年2024年2月、図書館にリクエストし、借りてきて読んだ。
北海道旅行から帰宅後、この本のことを思い出し、友人に送ってあげた。
私自身も、この本を持っていなかったので、同時に購入。
本が届くまで図書館の本を再読し、途中から、書店に届いた本に切り替えて読了。
以下、印象が消えないうちに、この本のことを書いておきたい。
目次
序章 旅立ち前
五〇を前に惑う/ナツとの出会い/山旅犬/覚醒の途中/荒野の旅
I 前半戦
宗谷丘陵
まず羽田まで/北海道上陸/宗谷岬へ/牧場の分水嶺
森から強制退去
気のいいおじさん/国有林の山旅/強制連行/宗谷の日曜日/一日の歩行スタイル/道迷い/問寒別のヒグマ
街を歩く
ヒグマの親子/牧草地の奥で/国道を使って/車道に出る/中川町に入る/コンバット/国道を歩く
天塩岳ヒュッテへ
音威子府通過/街場の調達食料/クズ野菜の助け/引退セレモニー/豆ご飯/朝日町/野菜調達方法/廃道の鹿/天塩岳ヒュッテ
II 中盤戦
大雪山系を越えて
デポ回収/完全休養日の目論み/天塩岳の登山者/廃道/国道の誘惑/誕生日の層雲峡/大雪越え
山小屋芽室岳へ
廃道/ヌプン小屋/荒野の旅/十勝川林道/新得の街場/デポという不確定要素
III 後半戦
ナツを待つ
旅の核心部へ/チロロ越え/幌尻越え/新冠ポロシリ山荘/古道ナメワッカ沢/ナツ行方不明/犬と山を歩く意味/ペテカリ山荘へ
襟裳岬を往復する
基礎疾患対策/いよいよ終盤戦へ/ペテガリ岳/終盤戦開始/冬将軍到来/食料制限/アタック準備/岬アタック開始/襟裳岬
旅の終わり
本町無料休憩所/謎のオッサン/現金があるということ/現金があるということ 2/楽古岳越え/クッキーシュー/生還
ちょっと長いあとがき
■2019年10月1日から11月25日まで、約2か月かけて宗谷岬から襟裳岬まで北海道を縦断する徒歩の山旅。
相棒は、北海道生まれの野良犬の仔、知人から引き取った雌犬のナツ。
現金も免許証も持たず、食料は、出発時に持参した米などの他、ルートの途中にデポしておいたもので賄う。
あとは、猟銃で獲物を得る現地調達。
■序章■
この山旅を思いたった動機が語られる。
鉄砲を肩に荒野を犬と歩く、現金もクレジットカードも持たずに歩けば北海道も「荒野」といえないか?
狩猟犬として服部さんの相棒となった「ナツ」との出会いも運命的。
■前半戦■
自宅から羽田まで歩き、飛行機で稚内空港へ。
宗谷岬まで歩いて、そこが出発点。
野宿を重ね、4日目にさっそくの試練にみまわれる。
おせっかいなジイさんに出会ったばっかりに、森林管理署員に通報され、国有林からの退去を命じられる。
■コンパスを紛失する。ピンチだが、のちに、デポ地の避難小屋で出会った登山者から借りることができた。
コンパスを探しているとき、思いがけずウェストポーチから100円玉が出てきて、その使い道に悩む。
街の郵便局でハガキを一枚買い、家族宛に投函することを思いつく。
日ごろ「連絡をしない」となじられている留守宅の妻とその友人に、家族愛を強くアピールできるという下心。
また、帰りの帯広空港からの飛行機便(チケットだけは仮搭乗日で購入済み)の搭乗日変更連絡に使うため持ってきたテレフォンカード。その使い道も思いつく。その「ジョーカー的魔力」とは、麓の街の公衆電話で天気予報を聞くことだった。
以後、里に降りるたびに公衆電話を探して「天の声」(ダイヤル177の天気予報)を聞こうとするのも、可笑しい。
■道北の問寒別(といかんべつ)あたりから国道に降りて人里歩き。音威子府(おといねっぷ)、美深、名寄あたりまで、里の道を歩く。その途中で、とうぜん、人と出会うのだが(街を歩く)、そのやりとりがまた、可笑しい。
中川町の生涯学習センター図書室で、市街地の地図をコピーさせてもらおうとしたがコピー機がなく、近くのコンビニ(セイコマート)まで行くのだが、図書室の登録カードを作る必要があると言われ、免許証がないので銃の所持許可証を見せるはめに。それを見た司書のおねえさんは、言葉に詰まる。
<銃の所持許可証は国家公安委員会が「銃を持たせても大丈夫なほど安全公正な人間である」と保証した証明である。これ以上ないくらいまともな人間であることを国が保証しているのだ。だが、その手帳を図書室で出す焚火くさいオッサンはやっぱり怪しい変なヤツでしかない。>(P.96)
焚火くさいオッサン…。こういうところが服部さんの文章のウマイところだ。
■朝日町では、畑仕事をしているおじさんに声をかけて、積んであるクズ野菜をもらっていいかどうか聞く。
ここまでも、道に倒れていたトウモロコシから一本もぎ取って失敬したり、クズ白菜やクズカボチャを拾ったり、道路にこぼれ落ちているダイズの粒を拾っては、夕食のオカズにして、うまい、うまいを連発している。
朝日町のおじさんは、太いダイコンとネギをくれた。
野菜の摂取は、だいじ。山菜が採れる時期ではないので。
ここまでが「前半戦」。
10月1日~17日。宗谷岬~天塩岳ヒュッテ。331キロ。
■中盤戦■
10月17日~30日。天塩岳ヒュッテ~山小屋芽室岳。193キロ。
デポ地の天塩岳ヒュッテで、事前にデポしてあったお菓子や豪華な食材(といってもレトルト食品など)をむさぼり食う。
この避難小屋で、筆記用具の予備としてチビた鉛筆をゲット。
泊まりに来た男女の登山者から(男性の方は服部さんのファンだった)から、待望のコンパスを借りることができた。
天塩岳は、私も登ってみたかった北海道の山のひとつ。
登山者が多いらしく、この小屋に四人の登山者が訪れ、やはり服部さんを知っている人がいた。
ボルシチと酒のつまみが並ぶ、小屋での”宴会”に誘われて同席する。
<どちらもここ二十日間食べていない味なので嬉しい。がつがつ早食いしないように、かなり気をつけた。/このときもナツがオナラをしてすごい匂いが部屋に充満した。たぶん四人は、私がオナラをしたと思ったはずだ。というのも私もしたいオナラを耐えていたからだ。私は我慢したのにまったく意味がなかったことになる。>(P.134)
”荒野”での、ひとりと一匹の山旅だったはずだが、ときどき人間との出会いのシーンがあって、それがアクセントになっている。
■天塩岳登頂後、日高山脈の入口である山小屋芽室岳への大雪山系超え。
この地域は、私にも馴染みのある山系。
奥深い大雪山系の山道を避けて(雪が積もる前に大雪を越えてしまいたいとの思い)、上川の街に降りる。
ここでもヤマブドウを収穫していたおじいさんを手伝って、お裾分けをもらう。
層雲峡の自転車専用道路を延々と歩く。
大雪超えは、ルート選択に迷って難航したようす。
ヌプントムラウシ温泉の近くに建つヌプン小屋(避難小屋)に着くも、薪ストーブがなく「火気厳禁」だった。
この小屋、私は知らなかったが、本書には写真が掲載されている(P.151)。
いかにも北海道の避難小屋らしい佇まい。
■十勝川林道を下って、新得の街へ。
旅の開始から痛んでいた左足が、この頃になって痛みが少なくなっている。
このあたりでも、出会った老夫婦にクズ野菜をねだったところ、ダイコンとネギをもらう。
農家でもなさそうな老夫婦の立派な家を見て、廊下でもいいから泊まらせてくれればなあ、と思う。
かなり旅疲れしてきたようす。
※ここまで書いて、まだ長くなりそうなので、続きは別投稿で。
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